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痛くしないから

 魔女は白銀龍とチビ龍を魔法陣に立たせました。

「我も入るのか?」

 チビ龍の身体を調べるのだから白銀龍まで魔法陣に入る必要はないのではないか、という視線を送るのですが、

「うん。まずは白銀龍ママとチビ龍の身体の違いから調べてみようと思って。白銀龍ママの身体が正常だとしたら、チビ龍との身体の間に何らかの差異があると思うわけよ。というわけで二人の身体を精密検査してみまーす!」

「……思惑は理解したが……楽しそうだな、魔女殿」

「気のせい気のせい♪」

 絶対に気のせいではありません。

 うきうきわくわく、はあはあじゅるりな表情です。

 好奇心旺盛な魔女は調べものが大好きです。

 龍の身体を調べられるとなれば尚更でしょう。

「大丈夫大丈夫、痛くしないから」

「……それは違う場面での台詞だと思うぞ」

「えっと、じゃあ『痛いのは最初だけだから』とか?」

「脱線しているぞ」

「……ぶー。もうちょっとノッてくれてもいいじゃない」

「……コントだったのか。気付かなくてすまないな」

「……いや、真面目に謝られても気まずいんだけどさぁ」

 人間と龍の間では認識の差異が結構あるようです。

 ……人間相手でも似たような結果になったとは思いますが。


 魔女は丹念に調べていきます。

 丁寧に魔力を身体に通していき、スキャンし、認識します。

 機能で言うならCTやMRIのような事をしています。

「……なんとなく、分かったかも」

 そして早くも原因を突き止めてしまうのでした。

 意外と有能です。

「本当か!?」

 白銀龍が興奮気味に問いかけます。

「うん。チビ龍の身体の中には火素がある。熱の原因はそれだと思う」

「なに?」

「ひそって?」

「白銀龍の属性は氷素でしょ? 白銀龍ママの身体の中には氷素が満ちているよね」

「その通りだ。氷を統べる白銀龍一族は氷素属性だ。だがこの子の中に火素があるなど、一体どうしてそんな事に……」

 心当たりが全くない白銀龍は首を傾げます。

「本当に心当たりがないわけ?」

 魔女は呆れた視線を白銀龍に向けます。

「え?」

 はて、と首を傾げる白銀龍。本当に心当たりが内容です。

「意外と抜けてるね。ドワーフの村で聞いたよ。あなた、彼らにとっては守り神みたいなものなんだってね」

「ああ。地下都市の結界維持に力を貸している」

「ということは、結界維持の為にちょくちょくあの場所に訪れてたりするわけだよね」

「ちょくちょく、というほどではないぞ。二十年に一度ほどだ。その周期で結界の綻びが出来てしまうからな」

「最後に訪れたのはいつ頃?」

「二年前だが……」

「チビ龍はいま何歳?」

「一歳と半年だが……」

「フリューガ火山に訪れたときにはたまご状態のチビ龍がおなかの中に居たわけだ」

「そうだが……」

「あの土地には火素が満ちているよ。妊婦さんが入っていい場所じゃなかったかもね」

「………………」

「その時に結構な量の火素を身体に取り込んじゃったんだね。白銀龍ママは成体だからその程度の火素は氷素が打ち負かしちゃうけど、たまごだったチビ龍の中に取り込まれた火素は、どうなると思う?」

「……まさか」

「そのまさかだよ。チビ龍の身体の中にそのまま残る。チビ龍は氷素だけじゃなくて火素まで抱えて生まれて来ちゃったんだよ。小さな身体の中でひしめき合う二つの要素が高熱の原因だね。いや、火素がチビ龍の身体のなかで暴れ回っているから、と言った方が正解かな」

「そんな……」

 がっくりとうなだれる白銀龍に魔女は溜め息をつきます。

 腕を組んで治療法を考えているのでしょう。

「とりあえず、長期治療かなぁ」

「え?」

「身体の中に火素が溶け込んでいる以上、排出するのは不可能だと思う。だったら火素を身体に馴染ませるか、火素を氷素に転化させるかしかないと思うんだよね」

「出来るのか……?」

 白銀龍が期待の眼差しを魔女に送ります。

「多分、出来るかな。転化ならなんとか。活性化した火素に転化効果のある薬剤を投与して、氷素に変える。これを地道に繰り返していけばそのうちチビ龍の身体のなかにある火素はなくなると思う」

「ではその方向で頼む!」

「頼まれてもいいけど、高いよ?」

「我に支払えるものなら何でも払うぞ!」

「……いや、そうじゃなくてさ。薬の材料が高いって言ってるの」

「え?」

「転化作用のある薬剤を作るにはちょっと特殊な材料がいるんだけどね。大陸の南にある過流海域って知ってる?」

「もちろんだ」

 それは遥か南に存在する海域の名前でした。

 一年中激しい回転流を続ける海域です。

 まるでその海中にだけ竜巻が発生しているかのような場所です。

 人間も、動物も、船乗りも、その海域には近づきません。

「過流海域は海神の神域だな。あそこの材料が必要なのか?」

「へぇ。あそこって神域なんだ。魔女の知識だと立入禁止区域、ぐらいしか分からなかったけど」

「ああ。海神の治める都があの下にある」

「へえ~。ちょっと興味あるなぁ。実はあの過流の中心部にある海水が必要なんだよ」

「中心部の海水……?」

「そう。流れの中心。過流の果てにある無過の水。それが材料なんだよ。取ってこられる?」

「……まあ、我は空を飛べるから可能だが」

「あ、そっか。船じゃなくて飛行魔法を使えばいいんだね」

「だが一般レベルの魔法使いでは無理だな。海域にたどり着く前に魔力が尽きる」

「うん。私もちょっと疲れるからやだな。出来なくはないと思うけど。ルナソールに魔力充填しておけばね」

「では海水の採取は我が出向こう」

「あ、折角だから私も行きたい」

「なに?」

「だって神域でしょ? ちょっと興味あるな~」

「中には入れぬと思うぞ。神域は許可を受けたものしか入ることが出来ぬからな」

「それでもいいよ。見物したい。魔力充填に三日ほどかければ何とかなるかな。それまでちょっと待っててくれる?」

「いや。我の背に乗ってゆけ。何があるか分からぬ。魔力は温存するのがいいだろう」

「また乗っけてくれるの?」

「もちろんだ。魔女殿」

「じゃあ決まり。今から行こう!」

「決断が早いな」

「思い立ったが吉日なのだーっ!」

 魔女は大急ぎで準備します。

「にゃんこは留守番ね」

「え~。ぼくもいく!」

 にゃんこは魔女にしがみつきます。

 全回と同じパターンです。

「駄目だよ。今回は無理。杖で飛んでいくワケじゃないからね」

「やだーっ!」

「ボクもにゃんこといっしょがいいな~」

 いつの間にかチビ龍までそんな事を言い始めました。

「……待て。誰が連れて行くと言った?」

「ママがいくのにボクがおるすばんなんてひどいよ~」

「……遊びに行くわけではないのだがな」

「まじょさんはあそびにいくかおしてるよ?」

「……魔女殿」

「あれ? そんな風に見える?」

「……見える」

「………………」

 あはは~、と魔女は気まずそうに笑います。

 遊びに行くつもりはないのですが好奇心だけは隠せないようです。

「とにかく、今回は駄目。にゃんこもチビ龍もお留守番。危ないかもしれないからね」

 神域というからには何があるか分かりません。空中でお荷物二人を守ることは難しいのです。

「ちぇ~」

「ざんねん……」

 ちょっときつめに言い聞かせたのが功を奏したのか、二人は大人しく従ってくれました。

「明日には帰ってくると思うから」

「そうだな。我の加速飛行なら早ければ今日の夜でも戻ってこられるだろう」

「そうなの?」

「ああ。アクシデントさえなければだが」

「……嫌なこと言わないでよ~」

「では魔女殿も残るか?」

「行くっ!」

 子供達にはお留守番を言い渡した癖に、自分の好奇心だけは満たす気満々です。

 正直すぎる魔女に白銀龍は苦笑します。

 しかし魔女自身もまだ子供なのだということを考えると微笑ましい気分にもなりました。


 こうして、魔女と白銀龍は過流海域の海水を手に入れるべく出発するのでした。



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