しっぱいしちゃったの
「にゃんこは優しいよな~。魔女とは大違いだ」
卵を守るお母さん亜竜を見逃したにゃんこに勇者が言います。
「ますたぁもやさしいよ」
ますたぁを侮辱されたと思ったにゃんこがむっとしながら言い返します。
勇者もそれには逆らわず、
「うん。優しいよな。にゃんこには」
「やさしいもん」
もふもふ以外には等しくドSだということはにゃんこにも分かっているようです。
「残り一本なんだけどなぁ。近くにいないかな」
「いるといいんだけどね~」
きょろきょろと他の亜竜の気配を探ります。
「いた」
「いたな」
そして急スピードで近づいてくる亜竜の姿を見つけました。
「でも……」
「やばそうだな」
「うん……」
その亜竜はにゃんこ達ではなく卵を守るお母さん亜竜へと向かっているようです。
お母さん亜竜が睨みつけて警戒しているところを見ると、お父さん亜竜ということはないようです。
どうやら卵を守るために身動きできない亜竜を襲ってしまおうというはぐれドS亜竜のようです。
「なんというドS。まるで誰かのようだ」
「……それがだれかはきかないでおく」
賢明にもにゃんこはそう言いました。
答えが解っていても聞いてはいけないことが世の中にはあるのです。
知らない方がいいことと同じぐらいあるのです。
「たすける!」
「いってら~」
正義感を発揮したにゃんこはさっそくドS亜竜に向かっていきました。
お母さん亜竜とドS亜竜が交差する瞬間のタイミングを狙って絶妙な位置取りで右足を繰り出します。
「りゅーせーきーっく!」
りゅーせーきっく炸裂です。
ちょっと力が入りすぎてドS亜竜の頭がくちゃっと潰れてしまいました。
お母さん亜竜はびくうっとなってにゃんこを見ます。
助けられたことは解っていてもあまりのバーサクっぷりに怯えてしまったようです。
卵を抱えて今すぐこの場から逃げ出すべきか本気で悩んでいます。
可哀想に涙目でうるうるになっています。
「にゃう~。しっぱいしちゃった……」
怯えさせるつもりはなかったにゃんこはそんなお母さん亜竜を見て落ち込んでしまいました。
亜竜の頭をくちゃっとしておいて落ち込む姿はなんともシュールでした。




