本気になっていい?
「あ、起きたんだね黒鍵騎士」
「どうしたんですか? こんな時間にこんな場所で」
「んー、ちょっとホームシックっぽい感じになってた」
「……元の世界、ですか?」
「そうそう。たまーに恋しくなっちゃうんだよね」
「帰りたいですか?」
「まあねー。でもこっちにも未練はあるし、正直なところどっちも選べないかな」
「……そうですか」
魔女は横に座った黒鍵騎士に膝枕をしてもらいました。
温もりが恋しくなったのです。
「悩んでもあまり意味がないっていうのは分かってるよ。にゃんこを置いていくわけにもいかないしね。だから、これはたまに訪れるホームシック。あと数年もすれば折り合いはつけられると思うよ」
「もしもにゃんこを連れて行けるとしたら、あちらに戻るつもりはありますか?」
「……ない、かな。あっちにはにゃんこみたいな生き物はいないから、見つかったら実験体扱いされかねない」
「そうですか」
「ん。だから私は何だかんだ言いつつも一生ここで暮らしていくのかもしれないね。そのうち勇者みたいにこっちが自分の居場所なんだって思えるようになるといいんだけど」
「なりますよ、きっと」
「そうかな」
「ええ」
黒鍵騎士も魔女のことは憎からず思っているのでこっちの世界にいて欲しいと願っています。
勇者がかつて同じ事を願ったように、魔女がここにいたいと思える努力をしていこうと思っています。
「あうー……」
魔女が何故か黒鍵騎士の太ももに頬をすり寄せています。
「どうかしました? というかそれ以上真ん中に顔は近づけないで下さい」
それ以上真ん中に顔が近づくといつかの再現になってしまいます。
それは勘弁してもらいたい黒鍵騎士でした。
「いや、やっぱりこっちに居場所を作るんだったら好きな人を見つけるのが一番なのかなーって思って」
「………………」
「本気になっていい?」
「………………」
黒鍵騎士は返答に困ってしまいます。




