ママが来た!
魔女は一人で立っていました。
ルナソールを手に、魔法陣の中心に立っています。
華奢な身体から強力な魔力を迸らせながら、呪文を唱えます。
「遠く飛ぶもの、風路創るもの、其は風の鳥……」
「千の雨となりて敵を貫け……」
「其は煉獄、烙印を駆け抜けるもの……」
次から次へと呪文を唱えては魔法を杖の中に封じ込めていきます。
魔女が知るあらゆる呪文を唱えては封じ込めます。
ルナソールは千個まで魔法ストックが可能ですから、少しでもスペックを引き上げようと暇な時間を有効活用しているところですね。
すでに三十個ほど封じ込め……もとい魔法登録が完了しています。
異世界の概念では『封じ込め』ですが、魔女の感覚では『メモリー登録』という感じです。
携帯電話のメモリーにフレンドリストを作るようなものですね。
メモリー残量九十七十パーセント、みたいな。
「うー、疲れたよ~」
魔女はすぐにへばってしまいました。
まあ三十回も連続で呪文を唱えて魔力を込めたのだから無理もありません。
戦闘でたとえるならば三十連撃魔法を使ったようなものですからね。
「およ?」
結界に反応がありました。
どうやら来客のようです。
「誰だろう?」
魔女は魔法陣を消去して家へと戻ります。
来客はにゃんこが応対していました。
……応対といっても、
「だぁれ?」
と首をかしげて見上げているだけですが。
「はて、誰だろう?」
魔女にも見覚えがありません。
にゃんこの前には親子連れらしき二人がいます。
一人は超絶美形と言っていいくらいの銀髪美女。
もう一人は将来絶対に女泣かせになるぞと確信させるほどのショタ美少年がいます。
魔女に気付いた銀髪美女はにやりと笑いました。
人の悪い笑みです。
悪女の笑みです。
しかし美女なのでそれすらも絵になります。
「久し振りだな、魔女殿」
「ほえ?」
どうやら知り合いのようです。
しかし魔女の方には全く覚えがありません。
こんな超絶美女の知り合いがいたら忘れるわけがありません。
「ふふ……」
美女は口から氷雪ブレスを一瞬だけ吐きました。
「あーっ!」
親子連れ、氷雪ブレス。
そして『魔女殿』呼ばわり。
思い出しました。
「白銀龍ママ!?」
「正解だ、魔女殿」
なんと銀龍山脈の白銀龍親子でした。




