とある日の出来事
「しかし最近家が狭く感じるなぁ」
魔女がぼやきます。
今現在、魔女の家には黒鍵騎士と魔王と勇者が居座っています。
本来ならばにゃんこと二人で住んでいる家なので、いきなり三人も住人が増えればそれは狭く感じるでしょう。
「私はいつでも魔王城に帰還しますが」
そしてそんな魔女のぼやきを聞き取った黒鍵騎士がチャンスとばかりに言います。
ちなみに黒鍵騎士のホームステイ期間はあと二週間ほど残っています。
「のーっ! 黒鍵騎士のホームステイは私が勝ち取った権利なの! 帰るなら魔王と勇者でしょ!」
ぎゅーっと黒鍵騎士に抱きつきながら抗議する魔女ですが、抱きつくのが目的ではなく尻尾をもふもふするのが目的です。
両手を背中……ではなく臀部に回してなでなでもふもふ。
「………………」
もうすっかり定番になったセクハラシーンですが、黒鍵騎士は既に諦めているようで無言で溜め息をつきます。
キレたり記憶を消されたりして巡り巡り諦めの感情が大きくなっているようですね。
「つーか養殖もふもふ魔王はまだ許せるけど勇者が居座る理由なんて無いでしょ。マジで邪魔なんだけど」
居間でくつろぎまくっている勇者をジト目で睨みつける魔女は、言葉以上に態度で『邪魔』と訴えていました。
「……ほんっきで言ってるよな。その言葉を向けられた相手がどれほど傷つくかをよく理解した上で 言ってるよな。つーか傷つける意図しかないよな?」
勇者がソファの上で凹みつつ言い返しました。
「傷つけたいわけじゃないよ。思ったことをそのまま口にしただけ」
「ドSめっ!」
魔女としては人数が多いほど料理の手間も増えるので地味に仕事が増えています。
役立たずの居候の為に労力を費やしているかと思うと派手に腹が立ちます。
「というか役立たずの為にご飯作るのも馬鹿らしいから買い物ぐらい行ってきてよ。もちろん材料費は勇者持ちね」
「……まあ、いいけど。魔女の料理うまいし。材料費ぐらいは出すけど」
黒鍵騎士との扱いに随分と差があり、更には変身薬で養殖もふもふとなった魔王よりも扱いが悪くなっている勇者はかなり複雑な心境になっているようです。
「……俺も変身薬でもふってみるか?」
と悩んだりもしますが、別に勇者としては魔女に萌えているわけではないのでそこまでする必要はないかと考え直しました。
扱いが悪いことに寂しい気持ちにはなっても、魔女に振り向いて欲しいとはまったく思わないのでした。
友達扱いぐらいはして欲しいと思っていますが。
邪魔者扱いではなく友達扱いぷりーず。




