一家に一匹欲しいけど三匹いたら完璧かも
「釣れないね」
「うん」
最初こそ岸で釣り竿を持ちながらワクワクしていた魔女ですが、十五分もすれば当然のごとく飽きてきたようで、今はにゃんこに釣り竿を預けて、レジャーシートの上でごろごろしています。
使い魔に働かせて自分はごろごろという、実に素晴らしいご主人様です。
「まあヌシっていうぐらいだからなぁ。簡単に釣れたらそれこそつまんないだろ」
「むー」
勇者の言うことはもっともで、根気よくいけと言われているようでもあって面白くない魔女でした。
ちなみに黒鍵騎士はヌシが釣れなかったときの為に、普通の魚をゲットすべく船で釣りに出ています。
この辺りはワガママな主に仕えているだけあってとてもよく気が付きますね。
一家に一匹欲しい側近です。
「……淡水魚ですから刺身よりは塩焼きの方が美味しく食べられるかもしれませんね」
海水魚ならば刺身で活け作りというのが黒鍵騎士の好みですが、淡水魚だとあんまり刺身で食べたいという気にはなりません。
口から貫通させて囲んで塩焼き、というのが無難でしょう。
バケツの中には既に五匹の魚が泳いでいます。
一人一匹ならばそれで十分な量ですが、食べ盛りの子供が一匹に、燃費の悪そうな勇者が一人、それと小さな身体の割によく食べるロリがいるので、もう少し余裕を持った数を確保しておこうと釣りに専念する黒鍵騎士でした。
本当に気が利きますよね、このもふもふは。
一家に三匹ぐらいいたら完璧かもしれません。
それから更に一時間が経過しました。
「うみゅ……」
「くか~……」
「ますたぁひどいぃぃぃ……」
暇を通り越して眠りこけている魔女を横目に、一人釣り竿を持たされているにゃんこは涙目でますたぁを恨んでいます。
「………………」
それを船の上から眺めていた黒鍵騎士はやれやれと溜め息をつきました。
一旦ヌシ釣りは保留にして昼食にするべきかもしれません。
バケツの中には十五匹ほどの魚が入っており、みんなで食べるには十分な量を確保できています。
黒鍵騎士は船を漕いでから岸に戻ろうとします。
「ねえゆうしゃ」
にゃんこが傍観していた勇者に声をかけました。
「なんだ?」
「どうやったらはやくつれるかなぁ?」
にゃんこの我慢も限界のようです。
「んー。まあ、ヌシっていうぐらいだから湖を荒らし回れば怒って出てくるんじゃねえの? 釣れるかどうかは別として」
「なるほど」
にゃんこは納得したように頷きました。




