白くてドロドロにする必要性
「きゅう……」
薬の影響で眠ってしまった黒鍵騎士を眺めながら、勇者が魔女に問いかけます。
「なあ、記憶消去薬を白くてドロドロにする必要性ってあったのか?」
もう見た目が可哀想過ぎるぐらいアレになっている黒鍵騎士を見て、言わずにはいられませんでした。
「あるよ~。だってその方がエロいじゃんっ!」
「……さいですか」
つまり魔女はわざわざ記憶消去薬の見た目をアレにしたというわけです。
記憶消去薬が完成した後もアレ的になるように一工夫したのです。
余計な一工夫ですね。
魔女は興奮気味に黒鍵騎士の寝顔を見ています。
まだ口元に白い液体が垂れているのがたまりません。
「ふあ~。これよこれ、やっぱり黒鍵騎士は受け属性よね~」
「知るか!」
想像したくもない属性でした。
「う、うう……私は一体……」
黒鍵騎士が目を醒ましました。
「魔女殿……勇者殿……?」
「大丈夫?」
黒鍵騎士に無理矢理薬を服用させたとは思えないぐらい、労りに満ちた態度でした。
ただし、右手は尻尾をもふもふしていますが。
いつも通りの魔女ですね。
「ここは……魔女殿の家? いつの間に……」
「……よし」
どうやら上手い具合に記憶を失っているようです。
魔女は左拳を握り締めます。
よっしゃっ! と本当なら口に出したいところでしょうがここはぐっと我慢です。
「頭を打って倒れてるお陰で前後の記憶があやふやになってるね。黒鍵騎士は一ヶ月間うちでホームステイしてるんだよ。魔王の了承も取ってあるから問題ない。さっきは勇者と戦闘訓練していて気絶させられたんだよ。頭を派手に殴られたからね。治療したから痛みは残ってないだろうけど、しばらくは大人しくしていた方がいいかも」
「そうなんですか?」
「そうなのよ」
大嘘を言い切ります。
「……つーか俺が悪役かよ。勇者なのに。しかもちゃっかり自分の株を上げてるし。えげつねええげつねえ」
二人に聞こえないように勇者が呟きます。
諸悪の根源が恩人化されて、協力しただけの勇者が悪役にされているという、実に報われない状況を作られてしまいました。




