魔王のおかゆ
「とにかく、今後はあまり無茶をしないように。それからしばらくは安静にしておくように。汚染魔力が体中を蝕んでいますからね。回復にはしばらく時間がかかると思います」
「黒鍵騎士が看病してくれるなら大人しくしてるよ~」
「……看病しますから、大人しくしていてください」
「らじゃー」
魔女はベッドでご満悦に返事をしました。
右手は黒鍵騎士の尻尾をもふもふしています。
身体は大人しくしていても右手は大人しくしていません。
性別に関係なく『右手』はやんちゃ属性なのです。
……意味が分からない人は分からないままでいてくださいね。
ピュアも貴重な財産です。
「魔女! おかゆを作ってきたぞ! さあ食べてくれ!」
魔女の寝室に乱入してきたのは、おかゆを持った魔王でした。
薬の効果が切れているので養殖ショタもふもふ美少年ではなくいつもの変態ロリコン中年ビジュアルです。
「……魔王の手作り?」
魔女が疑わしげに魔王を見ています。
料理が出来るというイメージが全くないようです。
「うむ。余の手作りだ。愛情たっぷりだぞ!」
「……食べたくないなぁ」
「失礼な!」
最高のスパイスを否定されて報われない魔王でした。
「でも見た目はまともだね、意外だわ~」
「さらに失礼な!」
魔王さまはもう少し報われてもいいかもしれません。
「味もまともだぞ、ほら」
魔王はレンゲでおかゆを救い上げてから魔女の口元に持っていきました。
「あーん」
「………………」
魔女は無言で魔王を見ています。
「あーん」
「………………」
レンゲは魔女の口元で止まったままです。
「あーん……」
魔王の瞳が涙ぐんできました。
見ていて可哀想な背中です。
わずかに震えています。
「黒鍵騎士に食べさせてほしいな」
「っ!!」
魔王はガビーン! という効果音が似合いそうな表情になった後、無言で黒鍵騎士におかゆとレンゲを手渡して部屋から出ていきました。
黒鍵騎士もストレス暴走の一件があるため、まだ魔王に対していつも通りに接することはできませんでした。
「ちょっと薬を取りに帰ってくる……」
しょんぼりしたまま魔王はハルマ大陸へと転移してしまいました。
今度戻ってくるときはまたショタ化していることでしょう。




