バーサクモード
閃光と言うべきか。
疾風と言うべきか。
暴走と言うべきか。
その光景は判断に迷うものでした。
「もふもふーーーーーーっ!!」
魔女言語(?)を叫びながら突進してくるのは先ほどまで前衛二人を潰されて不利になっていたロリ美少女、つまりは魔女です。
顔の上半分は真っ黒い影に覆われていて、白マルにキラリと光る眼光が恐怖を底上げしていきます。
『バーサクモード』の名の通り、完全に暴走状態です。
これは魔力による一時的な肉体の変質であり、魔法よりも肉体強度を引き上げる為のものです。
魔女には近接戦闘スキルがないので、その特攻は獣同然の拙いものですが、しかしだからこそ定石で対応できないという厄介なものです。
ただの獣ならば技術で対応できます。
定石での攻撃ならば経験で勝ります。
しかし純粋な強さ、つまりは暴走状態で突っ込まれると、二人は対応出来ませんでした。
「え? ちょ、待っ……!?」
「嘘だろっ!?」
つまりどういうことかというと、歴戦の戦士である魔王と勇者にも捕らえることのできない動きで にゃんこを取り返されてしまい、更にはにゃんこを抱えたまま、回し蹴り一つで魔王と勇者を同時にぶっ飛ばしてしまったことです。
「もふ……もふ……」
にゃんこを抱えたまま尻尾をしごき……もとい撫で回します。
「うにゃ。くすぐったい……」
抱えられたままのにゃんこはくすぐったそうに身体を捩らせます。
今の魔女がどれだけ恐ろしい状態にあるのかはなんとなく理解しているのですが、しかしもふもふマニアである魔女は自分に危害を加えることはないだろうという安心感があるのです。
しかも暴走口調が『もふもふ』ですから、これはもう言うまでもなく黒鍵騎士も安全であるということです。
そしてもふもふに危害を加えた魔王と勇者は哀れな運命を辿ることになります。
気絶している忍者も巻き添えを食らうと危ないですが、そこはさすがに勇者が思い至ったらしく、軽く蹴り飛ばすことで遠ざけました。
……扱いは酷いですが、細かい気を遣っていられる状況ではないということで勘弁して貰いましょう。
にゃんこを降ろして、再び魔女は魔王と勇者に向き直ります。
「もふー……もふー……」
「………………」
「………………」
どこかの獣が『フシャー! フギャー!』と唸っている光景が脳裏に浮かびました。
その台詞が『もふー……もふー……』というのが魔女らしさというべきでしょうか。




