決定的な敗北
薬を飲んだ魔王は変身してしまいました。
垂れた犬耳。
そしてもっふもふの尻尾。
さらには十二歳ぐらいの子供の姿へと。
「ななななな……」
あわあわと魔女が魔王を指さして震えています。
目の前にいるショタ少年に対して信じられないものを見るような眼を向けています。
認めたくない。
自分の中にある激烈な欲求を認めたくないとでも言うように。
「なによその姿はーっ!!」
現実逃避を言葉にして叫びました。
「ふっふっふ。知り合いの調剤師に作らせた変身ポーションだ。効果は主に若返りだが、魔女の好みに合わせてもふもふ耳尻尾もオプションとしてつけてもらったぞ!」
ふさふさのたれ耳をぱたぱたとさせる魔王はまさしくショタ美少年でした。
わっさわっさとさせる尻尾は魔女の琴線に触れるぐらいの代物です。
「うあ……うわあ……」
魔女は必死に目を逸らそうとします。
「あれはおっさんあれはおっさんあれはただのロリコン野郎あれはおっさんあれはおっさん中身はおっさん……」
自分に言い聞かせるように繰り返します。
「はっはっはっ! 無駄だ無駄だ! 百歳を過ぎれば中身に大差はあるまい! あの黒鍵騎士だって中身は三百歳を超えているのだぞ! そうなってくると大事なのは外見だ!」
「うぐっ!」
勝ち誇る魔王に魔女が怯みます。
その間にも魔王の耳をなでなでしたい、尻尾をもふもふしたいという欲求が込み上げてくるのです。
「うわー。魔王の奴あそこまでやるか……」
そして少し離れた位置で勇者が心底呆れています。
姑息な手段を使ってでも魔女を落としたいという気持ちは分かりますが、それにしたってあの姿は痛々しい以外の何物でもありません。
「あれ? でも可愛いっすよ、今の魔王さま」
そして忍者が素直な感想を漏らします。
「……なるほど。一般論としてはそんな感じなのか」
中身がロリコン野郎のおっさんだと知っていてもそう言えるのですから外見が与える影響というのは凄まじいものだと悟る勇者でした。
そして魔王はさらに畳みかけてきます。
「余を可愛がってほしいぞ」
上目遣いでちょっと涙目。
ショタ美少年最大の武器と耳をぱたぱた尻尾をふりふりさせながらお願いする様は、まさしく魔女のハートにドストライクでした。
「うわあああああんっ!!」
哀れ、魔女は号泣しながら自分から魔王を抱きしめてしまったのです。
紅の魔女が初めて魔王に決定的な敗北を与えられた瞬間でした。
敗北の種類は別問題として。




