一万とんで三千年
きいんっ!
がきいんっ!
しゅばしゅばっ!
屋根の上では勇者と忍者がバトルを繰り広げています。
月詠城の天守閣の上で、さながら時代劇の曲者とお庭番のごとく戦っています。
一瞬の交錯を繰り返しながら戦いは白熱しています。
「せいっ!」
忍者が手裏剣を勇者に投げつけました。
合計五つ。
その全てが勇者に向かって放たれます。
「甘いっ!」
その全てを勇者が刀で弾きます。
「くっ!」
しかし同時に突っ込んできた忍者は勇者へと斬りかかります。
手裏剣を弾くことで精一杯だった勇者は防御が不可能になっています。
「もらったーっ!」
勇者大ピンチです。
忍者の刀は勇者を袈裟切りにせんと凶刃を煌めかせます。
すばあっ!
と、確かに袈裟切りにされました。
「ふっ」
忍者が勝ち誇ったように笑います。
「へへ」
しかし勇者も笑っています。
勝ち誇ったような笑い方ではありませんが、しかし忍者の勝利を否定するような笑い方です。
勇者が視線を向けたのは、忍者が手にしている忍者刀でした。
「って、あーっ!!」
ぽっきりと折れた忍者刀に気付いた忍者は情けない声を上げてへなへなと崩れ落ちてしまいました。
そして勇者は無傷です。
着物すら切れていません。
「わははは。俺に勝とうなんざ一万とんで三千年ほど早いわ!」
自分の刀の腹で忍者の頭をぼこぼこと殴ります。
「う、ぐぬぬ……」
心底悔しそうに呻く忍者ですが、それにしても一万とんで三千年って……
勇者も大概大人げないですね。
無駄に長生きしている癖に精神面の成長は残念な感じになっています。




