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こっちもいいけどあっちも捨てがたい

「うー……」

 魔女はここ数日不機嫌でした。

「ますたぁ?」

 どうして不機嫌なのか分からないにゃんこは困惑顔で尻尾をもふもふされています。

「うがあああああーっ!」

「うみゃああああ!?」

 もふもふされていた尻尾をいきなり乱暴にがしがし撫でさすられてビックリしてしまうにゃんこでした。

「もふもふしたいーっ!」

「し、してるとおもうんだけど!?」

 今度は自分の頭をがしがし掻きむしりながら狂ったように叫び続ける魔女に、にゃんこはどうしたらいいのか分からなくなってしまいます。

 可哀想なことに涙目です。

「黒鍵騎士の尻尾をもふもふしたいーっ!」

「………………」

 自分の尻尾では不満なのかとにゃんこがむくれてしまいました。

 しかしそういうことではないのです。

 にゃんこにはにゃんこのもふもふ萌えがあり、黒鍵騎士には黒鍵騎士のもふもふ萌えがあるということなのです。

 こっちもいいけどあっちも捨てがたい、みたいな浮気野郎の最低心理と似たようなものですね。

「よし。ハルマ大陸にお出かけしよう!」

 欲求不満が頂点に達した魔女はさっそくお出かけ準備をします。

「ぼくもいくーっ!」

 ルナソールを手にすぐにでも動き出してしまいそうな魔女ににゃんこがしがみつきます。

 にゃんこの判断は大正解で、次の瞬間には魔女の転移魔法が作動していました。

 魔女とにゃんこの足元に魔法陣が現れ、光を放って魔女とにゃんこを包み込みました。

「転移、魔王城!」

「にゃう!」

 まだまだ転移魔法に慣れないにゃんこは魔女にしがみついたまま目を閉じます。

 目を開けたままだと転移酔いをしてしまうからです。

 こうして魔女は黒鍵騎士の尻尾をもふもふするためだけにハルマ大陸の魔王城へと乗り込んでいくのでした。

 そして黒鍵騎士の受難が始まります。

 欲求不満を解消するためだけに訪れた魔女が黒鍵騎士にどういう対応をするか、それは妄想するまでもないことでした。



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