魔女っ娘の逆鱗
「で? 誰が誰をどうするって?」
「え? え? え?」
いつの間にかシロは床に這いつくばってしました。
どうしてこんなことになったのかは分かりません。
どうやってこの状態にされたのかも分かりません。
「ねえ、もう一回言ってくれるかな? 戦利品どうするって?」
魔女はシロの頭をぐりぐりと踏みつけて、平坦な声で言います。
すっごく怒っているのは明白ですが、声だけは単調なのが一層恐ろしいです。
ちなみに表情は氷の刃を連想させるような冷え切ったものです。
ロリクール!
と魔王がいたら変な意味ではしゃぎそうですが、いまはひたすらに恐ろしいだけの光景です。
「あわわわわわ……」
にゃんこだけはその冷気にあてられて隅っこでがくがくぶるぶる震えています。
「にゃんこは私だけのものなんだよ。私の使い魔であって私だけが所有していいものなんだよ。それを不戦勝の戦利品にしようだなんて図々しいにもほどがあるんじゃない?」
ぐりぐりぐりぐりぎりぎりぎりぎり!
「いたたたたた! 割れちゃう! 頭蓋骨割れちゃう! ストップストップ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
「死んで償えとか言ってみたり?」
「いやいやいやいや! その程度の事で殺さないでお願いぷりーず! 悪かった! あたしが悪かったからーっ!」
「にゃんこは誰のものか言ってごらん?」
「く、紅さんのものです!」
「あと、頭の悪そうな猫っていうのも取り消してもらいましょうか」
「取り消す取り消す! すっごく賢そう! ほんと! 知性溢れる可愛らしい猫さんだよね!」
……もう勝負する前から下僕根性丸出しですね。
勝負するまでもなく魔女の勝利ですよこれ。
「よろしい」
魔女はようやく足をどけてくれました。
「あー……酷い目に遭った……」
まだ軋み続けている頭を押さえながらぼやくシロですが、自業自得ですね。
魔女にとってにゃんこの所有権は逆鱗にも等しいものですよ。
「ちょっと教えて欲しいんだけど……」
「何?」
「あたし気が付いたらあんたに踏まれてたんだけど、一体何したの?」
目に見えない速さで動いたにしても全く気付かないなんてことはないはずです。
少なくとも床に押し倒された衝撃ぐらいは自覚できるはずなのです。
それを全く自覚させず、倒されて踏まれている結果だけを認識してしまったというこの状況こそが謎すぎます。
「別に大したことはしてないよ。単に時間魔法を使ってシロの体感時間を一時的に止めて、その間に蹴倒しただけ」
「………………」
蹴倒した、という表現にちょっと泣きたくなりましたが、それでもその言葉だけで勝負するまでもなくレベル差を見せつけられた気分でした。
時間魔法は上位魔法であり、シロもまだ習得していませんし、これから習得できるかどうかも分かりません。
それを自分と見た目が変わらないぐらいのロリ魔女が習得して、ブチ切れ混じりに使って見せたのですから実力差は歴然です。
ライバルがいると意気込んでやってきたのに、差を見せつけられて凹む結果になってしまいました。




