紅の魔女、異世界で新世界を体感させる!
結論から言うと、受付嬢に土下座をさせることは出来ませんでした。
嗜虐心でうきうきな魔女が冒険者ギルドに訪れた時、例の受付嬢は休暇中だったのです。
「つ、ついてないぞぅ」
がっかりしながらももう一度ここまで足を運ぶのは面倒なので諦めます。
オリハルコン鉱石の依頼書と現物を直接受付まで持って行ってから金貨五百万枚を受け取りました。
受付の人はとてもびっくりしていました。
それはそうでしょう。
今まで誰も果たすことが出来ず、もうすぐ依頼そのものを取り消される最高難易度の依頼書。
その依頼を果たしたのはたった十三歳の少女だったのですから。
魔女は報酬を受け取ったらあっさりと冒険者ギルドを出ていきました。
どうやって入手したのかも、まだ余分に持っているのかも分かりません。
この先ギルドにとって有用な冒険者になるかもしれないのでなんとか引き留めようとしたのですが、魔女はあっさりと帰ってしまいました。
しかしやはりオリハルコン鉱石の依頼を果たした魔女はギルドの中で相当に目立っていたらしく、追跡するごろつきが十人ほどいました。
「うあー。面倒くさいな。箒で飛んで帰ろうかな……」
魔女はもちろん追跡者たちの存在に気付いていました。
目的はオリハルコン鉱石そのものか、入手場所か。
もしくは手に入れたばかりの金貨五百万枚か。
思い当たる理由があり過ぎて逆にうんざりします。
「逃げてもいいけど、しつこそうだしなぁ」
家まで追いかけられてはたまったものではありません。
ここはやはり王道らしく正面からたたき伏せましょう。
後腐れなくきっちりと恐怖を叩き込んで二度と刃向う気が起きないように上下関係をはっきりさせておかなければなりません。
……どっちが悪役なんだか分かりませんね。
気が付いたら十人のごろつき(?)に囲まれていました。
「お嬢ちゃん。ちょっと俺たちと来てくれないか? 訊きたいことがたくさんあるんだよな」
「あとはさっきの金貨も頂くけどな」
「偶然手に入れたんだろう? 俺たちにも教えてくれよ」
などなど身勝手なことをのたまいます。
「………………」
魔女は馬鹿が嫌いです。
馬鹿と会話をするのは時間の無駄だと考えます。
なので黙って攻撃します。
「幻惑の霧」
街中で攻撃魔法というのも事後処理が面倒なので今回は幻術を使います。
幻惑の霧を発生させて全員に幻を見せています。
「ひぎゃああああっ!!」
「虫、虫がああぁぁぁぁっ!」
「こっちには蛇がいるぞっ!」
「うわあああああぁぁぁぁああっ!」
ごろつきたちは次々と叫びます。
魔女が見せたのは気持ち悪いべとべとした虫が身体を這い上がって口の中に侵入したり、耳の穴にもぐりこんだりしている幻です。ついでに蛇が身体に巻きついて眼球の傍で舌をちろちろしている幻も追加しています。
感触もリアルに再現しているのでマジ恐怖状態です。
これだけでごろつきのほぼ全員を無力化しています。
さすが魔女です。
ですがやはりこちらの方が悪役のイメージが強いです。
幻は一時間ほど続くのでこれで恐怖は叩き込まれるでしょう。
「じゃ、帰ろっかな」
魔女は阿鼻叫喚なごろつきたちをガン無視してから踵を返します。
「待て。俺にはそんなちゃちな幻術は効かないぜ」
「………………」
ごろつきの内一人には抵抗されてしまったようです。
「幻術魔法が君のメインスキルか? だったら大人しくするんだな。抵抗しなければ手荒な真似はしない」
手荒な真似はしないと言いつつ魔女の胸ぐらをつかみあげています。大嘘つきです。
服の防御力が高いので殴られても蹴られても斬りつけられてもダメージはありませんが、やはり不愉快です。
それにせっかく手に届く位置にまで来てもらったのですから最上級のもてなしをしてあげようと考えます。
嗜虐根性たっぷりのおもてなしです。
「?」
魔女は胸ぐらを掴まれたまま、ごろつきの頭にそっと触れました。
「何の真似だ?」
「霧の幻術は抵抗出来ても、直接頭に叩き込まれればどうなると思う?」
「っ!」
気づいたときにはもう遅いのです。
魔女は幻術をかけた後でした。
先ほどのごろつきたちよりもさらに強烈な幻術をお見舞いしてやりました。
「お、おま……お前っ! よりにもよって……!!」
「あははは。新世界ご堪能あれ~」
「うぎゃあああああああああっ!!!!」
魔女が最後の一人にお見舞いした幻術は、地球世界におけるハードBLでした。
つまり、ムキムキマッチョの男に●●●、という風な感じです。
もちろんごろつきが『受け』です。
リアルな感触と痛覚付きで新世界へと誘います。
幻術の効果が切れたときに新しい世界や新しい趣味へ目覚めてしまったとしても、もちろん責任なんて持ちません。
ご愁傷様です。ちーん……
こうして魔女はごろつき達に恐怖と絶望とちょっぴりの新世界と快感らしきものを植え付けてから街を去りました。
その後、紅の魔女の存在は悪夢の伝説として根付いてしまいました。
魔女の服装が赤いのでそんな異名がついてしまったようです。
こうして魔女は二つ名をゲットするのでした。




