白銀龍の頼みごと
こうして魔女は大量のオリハルコン鉱石をゲットしました。
魔女の鞄を利用してそれはもう大量に。百キロほど。
「……確かに礼をしたいと思ってはいたが、随分と遠慮がないのだな、魔女殿。人間世界におけるその鉱石の価値を理解しているのか?」
白銀龍がぼそりと言います。
咎めるつもりはありませんが若干呆れているようです。
「え? 依頼書によると一キロで金貨五百万枚だったよ」
魔女の方はけろりとしています。
「残りの九十九キロは?」
「実験用と装備用。オリハルコン鉱石で杖でも作ってもらおうかなって思ってさ」
魔女は専用の装備をまだ持っていません。
魔女の杖は先代のものがありますが、お古よりはおニューの方がいいに決まっています。
せっかく最上級の素材があるのですからここは最高の杖を新調しようと考えるのは当然でしょう。
「人間の職人では妙な欲をかかれるだろう。それにせっかくのオリハルコン鉱石を素材として活かすのなら職人側にもそれなりのレベルが必要になる。ドワーフの村に行くのがいいだろう」
「ドワーフ?」
「彼らは武具や防具、あらゆる魔法具の製作に秀でた一族だ。我の紹介だと告げれば最高の杖を創ってくれるだろう」
「ありがと! 行ってみることにするよ。あ、でももう少しお金ためてからの方がいいかなぁ」
「その必要はなかろう。この鉱石を三キロばかり譲ってやれば大喜びで創ってくれる。ドワーフにとってもオリハルコン鉱石は是非とも挑戦したい材料なのだ」
「それはいいことを聞いた。じゃあ稼ぐ必要はなしと。当面の生活費と装備費用は別個で考えないとね」
「がめついのか所帯じみているのか判断に迷う発言だな」
「子供一人が異世界で生きていくのはいろいろ大変なのだよ」
「苦労人だな。今回は金貨五百万枚稼げるのだろう? それだけあれば当分の間、金に困ることはない筈だ」
「うん」
「研究目的ならばいつでも採取しにきてよいぞ。魔女殿は我と子供の恩人だ。ただしこの場所を人間どもに明かすのはやめてほしい」
「分かってるよ。自分の為だけに使う。人間ってのは独占欲が強いんだからそこは大丈夫だよ」
魔女はわざと悪ぶった風に言います。
本当はこの綺麗な山を欲にまみれた人間たちに踏み荒らされるのが嫌なだけです。
「じゃあもらっていくね。ありがと」
魔女は箒にまたがって白銀龍に別れを告げようとします。
「魔女殿。一つ頼みたいことがある」
「?」
「我の子供の事だ」
「ええと?」
「あれは生まれた時から酷く身体が弱くてな。今回は魔女殿のおかげで回復できたが、またいつあんな風になるか分からないのだ」
「ええと、常備薬が欲しいってこと?」
「頼めるだろうか?」
「いいけど、それって気休めじゃないかな」
「………………」
「薬じゃなくて身体そのものを健康にしないとどっちみち長生きできないよ」
「………………」
「定期的に私の家まで連れておいでよ。研究材料って言ったら聞こえが悪いかもしれないけど、少しずつあの子の身体を調べたら原因が分かるかもしれないし、改善も出来るかもしれないよ。こっちはババアの知識とか書斎の本とか結構いろいろあるからね。必要なものがあればあなたに調達してもらうつもりだし」
「いいのか?」
「いいよ。あの子可愛いもん。死なせるのはちょっともったいない」
「感謝する。では定期的に魔女殿の棲家に訪れることとしよう。その時はよろしく頼む」
「らじゃ~なのだ。あ、報酬はちゃんと用意してね。金貨でも貴重な魔法材料でもいいからさ。ただ働きはやだよ」
「分かっている」
「じゃあばいばーい。また近いうちに会おうね~」
こうして魔女は銀龍山脈を後にしました。
龍のお友達が出来たのでちょっぴりご機嫌です。
しかしそれ以上にご機嫌なのは、
「あの受付めーっ! 見てろよーっ! オリハルコン鉱石一キロ、しっかりがっちり目の前に突き付けて土下座させてやるーっ!」
自分を舐めていた受付嬢に土下座させることを妄想しているからなのかもしれません。
……お人好しではありますがやはりこの魔女、心が狭すぎるようです。