オリハルコン鉱石の秘密
「っ!?」
その瞬間、すごい勢いで白銀龍が駆け込んできました。
「私の子供に何をするつもりだ、人間!」
「ほえっ!?」
なんと人語をしゃべりました。
白銀龍は上位種のようです。
上位種の龍族は人語を解すると、先代魔女の知識にあったことを思い出します。
「私の家に勝手に入り込んだ人間よ! 報いを受ける覚悟はできているだろうな!」
「ええっ!? ここって『家』なの? 『巣』じゃないの!?」
……突っ込むべきはそこですか。
他に言うべきことがあるような気がしますけど、そこは魔女の呑気さの表れという事で。
「やかましいわっ! 龍にとってはここが家なのだっ! 人間の感覚と一緒にするでないっ!」
お説ごもっとも。
「えーっと。大きなお世話かもしれないけど弱ってる子供がいる前でそんな大きな声で怒鳴り続けるのはどうかと思うなぁ」
「っ!」
白銀龍は弾かれたように顔を上げます。
その視線は赤ん坊へと注がれています。
「……呼吸が、安定している?」
出ていく前まではあんなに調子が悪そうだったのに、今はほとんど回復しているようです。
絶望的な気分になりながら、あとはもう傍で看取ってやることしかできないのかなどと考えながらここに戻ってきたのです。
そんなときに人間の侵入者がいたので思わず逆上してしまいましたが。
「あー、うん。調子悪そうだったから薬調合しといた。熱も下がったし、もう大丈夫だと思うよ。あなたの子供でしょ?」
「……お主が?」
「うん。余計なお世話だった?」
「……いや、感謝する」
どうやら助けられたことを理解すると白銀龍は怒りを収めて姿勢を正しました。
「一体どうやって助けたのだ? 考えうる限りの回復薬は調合したのだが全く効果がなかったのだぞ」
「うん。私も詳しい症状は分からなかったからとりあえずエリクシールを調合してみた。ここにある薬草と手持ちの回復薬をちょっと使えば出来そうだったから」
「エリクシール! 回復薬の最高峰ではないか! お主そんな高価なものを調合できるのか!?」
白銀龍は驚きに目を見開きます。
「出来るよ。伊達に魔女なんて呼ばれないのだ。えっへん」
正確には呼ばれているのではなく自称しているだけですが。
「……非礼は詫びよう、魔女殿。何かしらの礼をしたいと考えているのだが、何か望みはあるか?」
「望みっていうかそもそもここに来た目的なんだけど、ちょっとここの鉱石を持ち帰らせてくれないかな」
「なるほど。目的はオリハルコン鉱石か」
「うん」
「ここのものを削られるのは困る。大事な棲家だからな。東側に先代が使っていた棲家があるからそこに案内しよう」
「もしかしてオリハルコン鉱石の岩穴が龍の棲家になるの?」
「いや。白銀龍の棲家が長い時間をかけてオリハルコン鉱石へと変化するのだ。我らの魔力が長い時間をかけて鉱石に浸透し、普通の岩がオリハルコンへと変質していくのだよ」
「すごいね! 新事実だっ!」
「こちらの棲家は我の代から棲み始めたのでまだ魔力の滲透はそれほどではないが、あちらの棲家は五代の白銀龍が棲み続けた場所だ。きっとあちらの方が上質な鉱石が採れるだろうよ」
「それは嬉しい!」
魔女は大はしゃぎします。
「少し距離があるから飛んでいくぞ。魔女殿ならば空を飛べるだろうが、今回は特別に我の背に乗せてやろう」
白銀龍は姿勢をかがめて魔女が乗りやすいようにします。
「わーいっ! 龍の背に乗れるとは思わなかったな! 異世界に来て初めてよかったって思っちゃったよ!」
白銀龍の背に掴まりながら魔女は嬉しそうに言います。
「なんと。魔女殿は異世界から来たのか?」
「そうだよー。正確には来たんじゃなくて召喚されたんだけどね。ババア魔女にあやうく食われるところだった」
「ふむ。大したものじゃないか」
「元の世界に還る方法も今のところわかんないし、とりあえずこうやって楽しい事を探してるところ!」
空をゆく白銀龍の背で風を感じながら、魔女は微笑みます。
今この瞬間が間違いなく楽しいのだと言うように。
「前向きなのだな」
「そうかな。でも楽しいよ。だって異世界だよ。魔法だよ。楽しいこといっぱいあるよ。少なくとも元の世界で役に立つかどうかわからない勉強してるよりはずっとやりがいあるよ」
「いつか、還れるといいな。魔女殿の世界に」
「それまではこっちで楽しい事を探しつづけるよ」
魔女は無邪気に答えました。