勇者語り14
「……ええと、つまり俺は魔王を倒しても倒さなくてもこの世界で生きるしか選択肢がないって事か?」
ようやく立ち直り始めた勇者は魔王に問いかけます。
「うむ。次元転移は基本的に軌跡の類だ。偶然に世界を跨いでしまう者もいるが、意図的に行えるのはたとえ神であろうとも一度が限界だな。今回は戦神クライストが召喚したらしいが、前回は別の神だったはずだぞ」
「うーん……困った……」
平和を取り戻せば元の世界に帰れると信じていた勇者は、ここで目標を見失ってしまいました。
「まあ潔く諦めてこの世界で暮らせばよいではないか。中々悪くない世界だぞ、ここは」
「まあお姉さんたちはとても美味しかったけど」
「それは何よりだ」
どうでもいいです。とてもどうでもいいことです。
「しかし『勇者』が責任を果たさないと人間世界が大変なことになるのかな? どうか世界を救ってくださいとかあの王様言ってたし」
世界を救ってもらいたいと頭を下げてきたレヴェンス王のことを思い出しました。
「そうでもない。魔族も人間も適当に小競り合いを続けていればそれで満足なのだ」
しかし魔王は呆れたように言いました。
「適当な小競り合い?」
「そうだ。魔族も人間も根っこの部分は同じだ。お互いに違うものだから相容れない。だから争う。争わずにはいられない。何故なら『違う者同士』だからだ」
「………………」
「それは魔族と人間に限らない。勇者のいた世界にだって人間同士の争いはあったのではないか?」
「そりゃ、あったけど。つーか真っ最中だったけど」
「そうだろう。結局のところ、争いとは生物の生存本能に近いものだと思う。矛盾しているとは思うが、生きるということはそういう矛盾を含んでいるらしい」
「……それは、何となく分かる」
生きているからこそ、欲望が加速するのです。
生きるとは、願うこと。
願うとは、求めること。
求めるとは、戦って勝ち取ること。
よりよき未来に焦がれるからこそ、命を賭けて勝ち取っていく。
そんな人間の在り方を、勇者はとてもよく知っています。
「だから適当に争えばいいのだ。勇者と余も、適当にな」
「適当か……」
「そうだ。まあ提案した側として一応の勝利は勇者に譲ってやるぞ」
「いいのかよ? 部下とか文句言ってくるんじゃねえの?」
「そのあたりはスルーしておく」
「……ひでえ魔王だ」
こんな感じでなあなあに、魔王と勇者のなんちゃって停戦協定が結ばれるような結ばれないような?
魔女っ娘の世界をより一層楽しめる!……かもしれない設定ページ「さなぎマテリアル」を始めました。
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