なんか弱った赤ん坊がいました
箒で二時間ほど飛行すると銀龍山脈が見えてきました。
雪に覆われた白銀の峰はとても美しく、カメラがあれば写真に撮りたいと切実に思いました。
山の中に降り立った魔女は早速オリハルコン鉱石を探します。
「寒い……んだろうな。きっと」
雪の大地を踏みしめながら、魔女はのんびりと歩きます。
軍服は対温度変化防御にも優れているので魔女にとっての体感温度はほとんど変わりません。
魔女はオリハルコン鉱石を見つけるために、大地に向かって魔力流を打ち込みました。
魔女の魔力が大地を流れ、優れた魔法材であるオリハルコン鉱石の反応を探っているのです。
「見つけた。南南西二百メートル」
山脈全てを駆け巡るほどの魔力流を拒絶した地域、そこがオリハルコン鉱石がある場所です。
魔女は早速向かいました。
「ほわ~!」
向かった先には洞窟がありました。
洞窟の中にオリハルコン鉱石があるのかと思いましたがそれはとんでもない勘違いでした。
白銀に輝く洞窟。
明滅する魔力光。
洞窟を形成する元素そのものが、つまりは洞窟の岩盤も含めてすべてがオリハルコン鉱石なのでした。
「すっごーい。採り放題じゃん♪」
魔女は大喜びです。
千キロまで入る鞄を持っているのでかなりの量を持ち帰ることが出来ます。
依頼では一キロでしたが、自分の必要分も含めてたっぷり持って帰るぞと張り切っています。
いそいそと洞窟に入ります。
そこで魔女は意外なモノを目にしました。
「きゅる~。ぐる~」
「………………」
ふわふわの布に寝かせられていたのは白銀龍の赤ん坊でした。
「あか……ちゃん……?」
「くぅ」
「……もしかして、すごく弱ってる?」
「くぅ……」
そっと触れてみるとすごい熱でした。
白銀龍の体温は零度以下が常温のはずです。
しかしこの赤ん坊の体温は明らかに五十度を超えています。
「病気かなぁ」
よくよく辺りを見渡すと、薬草がたくさんありました。
赤ん坊の親龍がなんとか薬を作ろうと腐心していたのが窺えます。
「うーん……」
手持ちの回復薬とここにある薬草、その二つをうまく調合すれば新しい薬を作ることは出来そうです。
龍の子供の病気なんてどんなものなのか分かるわけがありません。
原因を探るよりも本人(龍)の回復力を爆発的に高める薬を作ることにしました。
生命力を活性化させ、周辺の魔力を取り込んでさらに生命力へと変換させる薬です。
魔女は限られた設備と材料でせっせと調合に励みます。
当初の目的はオリハルコン鉱石の採取だったはずです。
赤ん坊など放置して鉱石だけいただいても構わなかったのですが、弱っている赤ん坊の横でそんなことをするのもちょっとばかり気分が悪いなぁと思いました。
容赦のない性格ではありますが、基本的にこの魔女はお人好しです。
弱っている相手を放っておけません。
「できたっ」
薬が完成しました。
『エリクシール』
効用:生命力の活性化。周辺魔力を取り込んで生命力へと転化させる効果がある。
用法:主に死にかけた相手に使用する。あと十秒で死んでしまうような相手も復活可能。命と声を振り絞って遺言をのたまっている相手の口にぶち込むと雰囲気台無しでいい感じ。
「おーい。薬飲める?」
魔女は赤ん坊の口に薬を流し込みます。
言葉が通じるかどうか分からないので強制的に飲ませています。
「くぅ……」
赤ん坊は嫌そうな顔をしました。
きっと薬が激マズだったのでしょう。
「不味いだろうけど死にたくなかったら全部飲むんだぞ~」
「くぅ……」
死にたくなかったので赤ん坊は全部飲みました。
とてもとても不味かったのですが頑張って飲みました。
赤ん坊の身体が発光します。
辺りの魔力を取り込んでいるのでしょう。
「ぐぅ?」
少しだけ体温が下がりました。
このまま回復へと向かうでしょう。
「これでよし、と」
一息ついた魔女はその場に座り込みました。
しばらくは赤ん坊の様子を窺っています。
薬がきちんと作用しているかを確認するためでしょう。
赤ん坊の心配ももちろんですが、初めて調合したエリクシールがきちんと成功しているかどうかの確認も重要です。
「くるぅ……」
赤ん坊はすやすやと眠っています。
どうやら峠は越えたようです。
「これで大丈夫、かな」
体力も回復したので早速オリハルコン鉱石の採取に取り掛かろうとします。
この巣穴すべてがオリハルコン鉱石でできているので岩を削るだけで採取できます。
「薬代としてちょっともらうよ」
一応眠りこんでいる赤ん坊に話しかけてから採取を開始しようとします。