勇者語り07
「け、結構なお点前で……」
脱力した勇者は魔王が立てた抹茶を飲み干してからお決まりの言葉を返しました。
「うむ。余は茶を点てるのは初めてだったのだが満足してもらえたようで安心したぞ」
と、魔王の方は爆弾発言で返します。
「って、俺は実験台か!」
むしろ毒味役っぽい扱いに憤慨する勇者でした。
「うまかったのだろう?」
「抹茶の味なんて分かんねえよっ! 苦いなとは思ったけど抹茶なんてあんなものだろうし!」
「なんと! 日本人とはこよなく抹茶と団子を愛し白い着物を纏ってハラキリする一族ではなかったのか!?」
「なにその偏見に満ち溢た認識!?」
責任を取る意味での切腹が、武士の誇りを貫く死に様が、いつの間にか酷い扱いになっていました。日本の武士が聞いたら怒り狂いそうな認識です。
「いや。日本人とはそういうものだと聞いたからな……」
「誰に!?」
「勇者に」
「俺!?」
「いや、先代の勇者だ」
「先代?」
どうやら過去にも勇者が召喚されたことがあるようです。しかも地球世界の日本から。二回連続同じ場所から召喚されるなど、一体どういう確率なのでしょう。
「俺と同じく剣術使いだったのか?」
「いや、陰陽師と言っていたな。こちらで言う魔法使いだ」
「ほほう……」
呪符を片手に魔法で魔族を薙ぎ倒していく勇者の図を想像して、ちょっとだけ頬が緩んでしまいました。勇者像は安●晴明あたりに脳内変換されています。
「じゃあ先代の勇者はお前が殺したのか?」
「どうしてそう思う?」
「ここにいないからさ。そもそも先代の勇者が生きているなら俺が召喚される理由もないだろうしな」
「成程。余が殺したわけではないが、殺したも同然だ、とだけ言っておこうか」
「………………」
「ところで勇者よ」
「なんだ?」
「戦いを始める前に少しだけ余に付き合ってもらえぬか?」
「酒が出るなら」
「あっさりしておるな」
「だってなんか戦う気分じゃなくなったし。話があるっていうなら付き合ってやるよ」
「よし。では勇者にとって馴染み深い場所へと案内しよう」
「へ?」
こうして魔王を討伐に来た勇者は、いつの間にか月詠の里で酒を振る舞われることになるのでした。




