勇者語り06
「我こそは獣魔族の急先鋒! 勇者の首級は我が勲!」
すばっ!
「これ以上は魔族の誇りにかけて進ませぬ! 魔王陛下の忠誠心をこの右翼将軍が見せてくれよう!」
どっかーんっ!
「調子に乗るなよ人間風情が! この左翼将軍が叩き潰してくれるわっ!」
げしげしっ!
……とまあこんな感じで魔族の有力戦士達を蹴散らしていった勇者はどんどんハルマ大陸の奥地へと進んでいきました。
あらゆる魔族が阻みますが、そこは勇者無双で薙ぎ倒しです。
そして魔王城までやってきたのです。
「……ようこそ勇者殿」
魔王城の門前で出迎えてくれたのは黒鍵騎士でした。
二百年前なので今よりもちょっと若い感じです。甲冑を着けているので分かりませんが、声は初々しい感じがします。この当時はまだ任命されたばかりなので緊張感たっぷりにかわいげがあります。
「私はこの魔王城の鍵にして魔王陛下の側近として仕える黒鍵騎士と申します」
「おう。俺は勇者だ。お前を倒せば魔王のところに行けるって段取りでいいか?」
ばったばったと勇者無双で進んできたので考え方が短絡的になってしまっています。
もう少し交渉とか会話の努力をしましょう。
「いいえ。陛下からは勇者殿を謁見の間へ案内するように仰せつかっています。私が案内しますのでどうぞ中へお入り下さい」
「えー……」
これからラスボスバトルだというのに何とも締まらない展開でした。
勇者の計画では黒鍵騎士をぶっ飛ばして魔王をぶっ飛ばして、人間世界に平和を取り戻して堂々と凱旋。 そこから英雄扱いされて気分よく地球世界へと戻る、という流れを予想……もとい妄想していたのですが、さっそく大番狂わせが生じそうです。
何故か少女趣味っぽい魔王城をすたすたと歩きながら、
「もしかして魔王って女なのか? ぼいんぼいんの美女だったりするのか? ぷにぷになのか?」
などとどこぞの駄肉……もとい違う世界の魔王を連想してしまいました。アレはアレでいいものですが時系列設定的にも著作権的にも問題アリなのでここで中断しましょう。
「困るな。女はあんまり殺したくないんだけどなぁ」
ぽりぽりと気まずそうに頭を掻く勇者でした。
「こちらになります」
黒鍵騎士が謁見の間に案内すると、魔王がそこにいました。
「………………」
玉座ではなく、こたつにみかんでもなく、野点で浴衣の魔王陛下でした。
紅い敷物に傘が立てられており、抹茶らしきものが用意されていました。
着物ではなく着崩した浴衣というのが色々と間違っていますが、勇者自身もその手の茶室や茶道に関わるほど育ちのよい人間ではなかったのであまり気にしませんでした。
それよりも大事なことは、
「おーとーこーかーよー……」
今よりも随分若い魔王陛下はかなりの美青年でした。
しかし気まずいながらも美女を期待していた勇者にとってはガッカリ度が十割増しというテンション激下がり展開なのです。
勇者と魔王はこうして出会いました。




