勇者語り03
絶体絶命の火事場から豪華なお城へと異世界召喚された彼は、更に豪華な食事を提供されて、遠慮なくご馳走になりました。
かなり空腹だったので毒が入っている可能性とか、全く考慮していません。考え無しにその場の気分で行動するというのが彼の特徴でもあります。
その辺りは二百年ほどかけて少しずつ矯正されていきますが、今はまだ気分とノリで行動中です。
「うまっ! うまうまっ! うまし!」
彼はがつがつと食べます。肉も魚もデザートも一緒くたにしてがつがつです。
当然、ナイフとフォークの使い方も知らないので適当に刺したり掬ったりして食べています。
その様子に周囲の小間使い達が眉を顰めますが、異世界から来たのだからマナーや道具の使い方が分からなくても仕方がないと諦めることにしたようです。
「くはぁ。くったくった~」
彼は椅子にもたれかかりながらお腹をさすります。満腹満悦極楽気分です。
「満足していただけたかな? 勇者殿」
「ゆうしゃ?」
レヴェンス王は彼が食事を終えた頃を見計らって声をかけます。
空気の読める王様です。
「勇者って俺のことか?」
「その通りだ。貴殿は我々の勇者としてこの世界に召喚されたのだ」
「召喚?」
はてと首を傾げます。
そもそも勇者というのが耳慣れない言葉でした。
「………………」
状況をまるで理解していない彼に対してレヴェンス王が内心舌打ちしますが、もちろん表には出しません。表面上はあくまで友好的に振る舞っています。
もちろんレヴェンス王はあくまでも王様ですから勇者相手とはいえ遜ったりはしませんが。
そもそも本当のところは『世界を掬う救世主』ではなく『自分たちにとって都合の良い人間兵器』として召喚したのですから、如何に勇者とて崇める気はゼロです。
利用する気満々です。
「まあ勇者殿にとってもまだ分からない状況だろう。これから説明しよう」
「ああ……うん……」
彼はよく分からないまま返事をするのでした。




