勇者語り02
「おお?」
気が付いたら異世界!
などというタイトルを付けてしまいそうな始まりです。
彼は畳敷き、木造、瓦屋根のお屋敷から、いきなり中世のお城みたいな場所へ飛ばされてしまいました。
中心に泉があり、そこに宝石が掲げられています。
どうやらなにかの祭壇のようです。
「えっと……?」
彼は地面を見つめました。見たこともない紋様が描かれています。
本人は気付いていませんが、ばっちり召喚魔法陣です。
そしてローブを着た人たちが彼に近づいてきます。
「っ!」
彼は刀を手に身構えました。敵意は感じませんが、警戒することに越したことはありません。
「ようこそ我がレヴェンス帝国へ。歓迎しよう、異世界の勇者殿」
ローブを着た人たちの一番前に立っているちょっと偉そうな人が、歓迎の言葉を口にしました。頭の上に金色の王冠を載せているので、彼が王様なのでしょう。しかし幕末日本の常識しか知らない彼にとって、『王様』とは『将軍』のことであり、百歩譲って『天皇』のことであり、間違っても頭に変な輪っかを載せているおっちゃんではないのです。
彼にとって偉い人とは、豪華な着物を羽織って肘置きにもたれかかり、高い酒を飲みながら上座でふんぞり返っている殿様なのです。
ですからこうやって自分の近くにまでやってきた王様を偉い人とは考えませんでした。
ですから王様に対する第一声が、
「つーかおっさん誰? ここはどこだ? 俺ってもしかして誘拐されたのか? ということはおっさんが誘拐犯?」
というものでした。
まあいきなり知らない場所に連れてこられて知らない人に囲まれていれば、誘拐されたと思うのも無理はありません。
「………………」
「………………」
「………………」
余りにも失礼な発言に王様は腰に差した剣を抜きかけましたが、なけなしの理性でなんとか堪えました。
異世界の住人がこちらの世界の身分や常識を知っているわけがありません。無礼な態度もこの際眼を瞑りましょう。肝心なのは自分たちの役に立ってくれることです。せっかく召喚した貴重な兵器をこんなところで失うわけにはいかないのです。
「?」
剣を抜こうとした王様に反応して彼も刀を抜きかけましたが、どうやら戦闘にはならないと判断してその場を収めました。
異世界からの勇者召喚は、このような無礼千万で始まったのです。




