どんとこいっ!
「ぐぬぬぬ」
「ふむむむ」
魔王と勇者はカウンターで睨み合っています。
「……なかなか勝負がつかないね」
「ええ。いつものことですが」
「そうなの?」
「ええ。酒場に来るといつもこうです」
「……なんて迷惑な」
「同意見ですね」
魔王と勇者はなんと呑み比べをしていました。
ぷち魔王勇者戦争です。
ちなみに勝者が敗者を足蹴に出来るというルールです。
……どうしようもないルールですね。しかし平和的なので良しとしましょう。
「ほらほら。二人とも顔が真っ赤だぜ。しっかりしないと」
そう言って大将がおかわりのグラスを二人に差し出します。もちろん中身は同じものです。魔王陛下の部下だからといって贔屓はしません。公平無私なのです。拘るのは呼び方だけです。
「負けるか。今日は貴様を足蹴にしてやるぞ。ついでに跪いて足を舐めろとか言ってやるぞ……。ふふふ。勇者に足を舐めさせた魔王……考えただけでぞくぞくする」
「誰が舐めるかくされロリコン。俺が勝ったらみぞおちを踏んでやる。しばらく立ち上がれないようにしてやるぜ」
「………………」
「………………」
ばちばちと二人の間で火花が散ります。
「ほらほら。二人とも睨み合ってないで呑んだ呑んだ!」
そして大将が煽ります。
さっさと二人とも潰してしまってお家に帰りたいようです。夜中の四時を過ぎてしまっているので当然といえば当然でしょう。
「おうよっ!」
「もちだっ!」
ぐびっ。
ごくごくごくごくっ。
「う……」
「く……」
さすがに限界が近いのか、二人とも真っ赤になってふらついています。
終幕は近いようです。
「あぐ……」
そして魔王が倒れてしまいました。
「くぅ……!」
意識はあるようですが立ち上がれません。もちろん、これ以上の勝負続行は不可能でしょう。
「うけけ。俺の勝ちだな」
「そのようだ。いいだろう。覚悟を決めよう。さあ踏むがよいっ!」
そう言って服をまくりあげて腹を剥き出しにします。潔いを通り越して馬鹿丸出しです。
「魔女~。よかったら踏んでみるか?」
「え? いいの?」
近くの席でうとうとしながらも勝負の行方を見守っていた魔女に声を掛けました。
「魔女が踏むのか!? よしこいっ! どんとこいっ! 出来ればぐりぐりして欲しいものだなっ!」
「………………」
「………………」
魔女に踏まれると分かった魔王は逆にうきうき顔になりました。
何故かちょっと興奮しているようです。
しかもぐりぐりして欲しいって……
「……やめとく」
「ああ。その方がいいな」
魔女は一歩二歩引き下がりながら席に戻りました。
「がーんっ! 期待させておいてそれは酷いっ!」
「酷いのはお前の性癖だ」
勇者がぐりぐりと魔王の鳩尾を踏んづけます。
「ああああ……」
かなりがっかりな声で呻く魔王でした。
「……陛下」
そして主の更なる駄目っぷりを目にした黒鍵騎士は一人がっくりと肩を落とすのでした。




