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初めての冒険?

 半ひきこもり魔女は冒険の旅に出かけることにしました。

 何はともあれお金を稼がなければなりません。

 街の冒険者ギルドで依頼をこなします。


 装備は万全です。

 服装そのものはごく普通なのですが……いえ、あんまり普通とは言えませんが。

 地球世界で軍服にちょっとだけ憧れていた魔女は、冒険の服装として軍服コスチュームを選びました。

 以前、服の買い出しに行ったときに購入したものです。

 鎧や籠手などは付いていませんが、やはり一般的な服装とは言い難いでしょう。

 ただの布ですが、色々な魔法を織り込んでいるので高性能です。

 対物理防御、対魔法防御、自動防御、能動防御強化など、そんじょそこらの鎧よりもよほど防御力が高いのです。

 具体的には象に踏まれても大丈夫なレベルです。

 ……ただの服にしか見えないのにチート過ぎます。


 魔女は冒険者ギルドへとやってきました。

 依頼の貼り紙をじっくりと眺めながら、どの依頼を受けるか考えます。


 戦闘系の依頼はやはり気が進みません。

 知識はあっても圧倒的に経験が足りないのでどこでどんなヘマをするか分かりません。

 魔女は負けず嫌いですが決して好戦的というわけではないのです。

 むしろのんべんだらりと平穏無事に自堕落な生活を送ることが出来たらそれだけで幸せなのです。

「やっぱり採取系かなぁ」

 魔法アイテムの採取依頼ならば一石二鳥なので都合が良いと考えます。

 魔法アイテムの知識は人並み以上にありますし、多めに採取してくれば自分の使う材料として確保できます。

「わおっ! これ結構報酬いいんじゃない?」

 魔女は鉱石採取の依頼書に目が釘付けになりました。


『オリハルコン鉱石採取』

 必要量:一キログラム。

 報酬:金貨五百万枚。


 オリハルコン鉱石。

 銀龍山脈の奥深くに存在する幻の鉱石。

 この鉱石を材料にして製作したアイテムは伝説級に匹敵する。

 攻撃力、耐久性、魔力において最高峰のレベルを誇る。


 先代魔女の知識によるとこんなところです。

 魔女の世界でも伝説級の武器によく使われている材料でした。主にゲームやファンタジー小説においてですが。


 ちなみに銀龍山脈には白銀龍しろがねりゅうという強大な力を持つ龍が棲んでおり、素人が足を踏み入れた場合、生きては帰れないと言われています。


「大丈夫かな。多分」

 魔女は記憶の中にある白銀龍の戦闘能力と、自分が纏っているチート加工軍服の防御力をシミュレート対決してみます。

 白銀龍の氷雪ブレスは問題なく防ぐことが出来ます。

 物理攻撃にも二十回程度ならノーダメージで耐えられるでしょう。

 今回の目的は白銀龍との戦闘ではなく、あくまでもオリハルコン鉱石の採取なので戦いになる可能性はあまり高くありません。

「よし。これにしよう」

 魔女は依頼書を剥がして受付へと持っていきます。


「これお願いします」

「はい?」

 元気よく言う魔女に受付嬢は首を傾げます。……まあ、当然の反応でしょう。

「だから、この依頼を受けます」

「………………」

 受付嬢は困ったように溜め息をついてから、まるで子供に言い聞かせるように説明します。

「あのね、小さな冒険者さん。この依頼は一年前からずっとここに張り出されていて、今まで高レベルの冒険者が何度も何度も挑戦しては犠牲者を増やしていったのよ」

「それで?」

「銀龍山脈の白銀龍はとてもとても恐ろしい怪物なのよ?」

「だから?」

「つまり、お嬢ちゃんが一人で行くのは無謀だって言っているの。そもそもこの依頼については依頼主も半ば諦めているのよ。あと一月もすれば依頼は取り消されるでしょうね。悪いことは言わないからもっと簡単な依頼にしなさいな。雑用系ならお嬢ちゃんにも出来そうなものがいろいろあるから教えてあげるわ」

「………………」

 雑用系依頼とは、犬の散歩や子供の面倒、お年寄りの介護や家の大掃除などの手伝いを指します。

 つまり、ものによっては子供にでも出来るということです。

 そして受付嬢が紹介しようとしているのは『子供にも出来る』依頼の方でしょう。

 魔女は憤慨しました。

 自分の外見がそれだけ舐められやすいことにも憤慨しました。

「現物持ってくれば文句ないよね」

「え? ちょっとお嬢ちゃん!?」

 魔女は鼻息荒く踵を返しました。

 こうなったら直接現物を持ってきてから依頼料をぶんどってやるのだと心に決めました。

 心が狭い魔女は舐められるのが大嫌いです。

 親切心から言われているのだと分かっていてもやっぱり不愉快なのです。

 冒険者ギルドを出て、すぐに箒で飛び立ちます。

 向かう先は、もちろん銀龍山脈です。

「見てろよこんちきしょーっ!」

 子供じみた悔しさに身を焦がしながら、魔女は銀龍山脈へと向かいます。

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