マスターと呼んだら酒瓶で殴る!
複尾族の里で接待を受けた魔女達は、そのまま魔王城へと招待されてしまいました。
勅書を出す条件として提示されたものなので、魔女としても応じないわけにはいきません。
再びこたつにみかんな謁見ルームに案内されるかと思いきや、なんとそこはバーでした。
まんま酒場でした。
魔王城の中にショットバーがありました。
「大将、ロックを頼む」
カウンターに座った魔王は向こう側にいる店主(?)にそう言います。
「へいらっしゃい。ロック一丁あがりでっせ、陛下」
「うむ」
「あ、大将俺も俺も。ストレートで頼むよ」
「おうよ。勇者もたまにはカクテルとか飲んでみたらどうだ?」
そう言って注文通りの酒を勇者の前に出します。
「あ~。カクテルはちょっとな~。甘いし」
「そこがいいんじゃねえか」
「女の子を連れてきたときにでも試してみるよ」
「はははは! 魔王城に女連れでやってくるなんざ勇者以外に出来やしねえわなあ!」
「魔王当人がやってるんだからいいじゃねえか」
「ちげえねえっ!」
盛り上がる大将と勇者。その横でロックを煽る魔王。なかなかにシュールな図です。
「………………」
そして少し離れた位置に座る魔女と黒鍵騎士でした。
「……あの立ち位置なら大将じゃなくてマスターって言うんじゃ」
魔女がオレンジジュースをぐびぐびしながらぼそりと呟きます。
大将というとなんだか居酒屋の主みたいに聞こえてしまいます。
「それはそうなのですが、あの方はマスターよりも大将と呼ばれる方が好みだそうです。以前マスター呼ばわりした陛下を空の酒瓶で殴り倒してしまいました」
黒鍵騎士が言いづらそうに説明してくれます。
「……あのおっちゃん、一応は魔王なんだよね?」
「ええ。ロリコンだろうが、こたつにみかんだろうが、ロリブロマイドで部下を売り飛ばすロクデナシだろうが、一応は魔王陛下です」
「………………」
言葉の端々に鬱屈としたものを感じさせる黒鍵騎士でした。
「まあ陛下曰く、職人のこだわりに口出しをするのはたとえ魔王でも許されることではないということでして。本人の望み通りに大将と呼んでいるのです」
「なるほど……」
ロクデナシではありますが筋の通った立派な信念の持ち主です。
「魔女殿はお酒を呑まなくていいのですか?」
「んー。あんまり強くないからね。やめとく」
「陛下からお酒を勧めるよう命じられているのですが」
「なんで?」
「なんでも、酔っぱらって前後不覚になった魔女殿を介抱したいとか……」
「却下」
「伝えておきましょう」
黒鍵騎士のもふもふ介抱ならまだしも、むさ苦しいおっちゃんの介抱などまっぴらお断りです。
黒鍵騎士も、魔王の命令なので一応は義理を通しただけであり、魔女が断るのならそれに越したことはないようで、再度の要請はありませんでした。




