真面目だったのに……
接待も一段落して、複尾族達も眠りについてしまいました。
色んなモノが乱れてしまっている大広間から少し離れた縁側で、黒鍵騎士は一人、月見酒を楽しんでいました。
「………………」
縁側に座り込んで、月を見上げています。
「まさか勇者殿が魔女殿のことをあのように考えていたとは……」
独り言を呟いた時には、しんと冷たい風が頬を撫でました。
冷えていく身体を温めようとするように、黒鍵騎士はグラスに入った酒を煽ります。既に六杯目ですが、黒鍵騎士はとてもお酒が強いのでまだまだいけます。
勇者の言葉を思い出しながら、色々と複雑な気分になっているようです。
「勇者殿にとって、魔女殿はこの世界で唯一の存在だから……か。いつも飄々としていて、二百年も経過すればこの世界に馴染みきると思っていたが……あれで案外、故郷が恋しいのかもしれないな……」
帰りたくても帰れない。
待っている人は誰もいない。
長い年月の中で看取ることすら出来なかった大切な人が、勇者には何人いたのか。それを想像すると黒鍵騎士も複雑な気分になってしまいます。
「勇者殿も魔女殿も、望んでこの世界に来たわけではないはずなのに……」
それは世界の都合であり、個人の都合であり、運命の悪戯でもあります。
勇者も魔女も、たまたまそれに巻き込まれてしまっただけなのです。
「勇者はね、きっと私が羨ましいんだよ」
「っ!」
いつの間にか背中に魔女が寄りかかっていました。華奢な身体の温もりが背中を伝っていきます。
「魔女殿、いつの間に?」
「ん。さっき目が醒めた。尻尾枕は素晴らしいけど、やっぱり大元が生き物なだけあって枕には向かないね。むずむず動くし、自由な尻尾で頭をばふばふ叩かれるし。起きている間は気を遣ってくれていただけで、眠っているときは案外暴れん坊……いや、暴れん尾だよ」
「………………」
そもそも枕にして眠らなければいいのでは? とは突っ込めませんでした。
「あ、一人酒? 私にもちょーだい」
背中から横に移動した魔女は黒鍵騎士の飲んでいたグラスを奪い取りました。有無を言わさず煽ります。
「あ……」
止める間もなく飲まれてしまいました。かなり強い酒だったので飲ませるのは心配だったのですが……
「きゅ~」
「魔女殿!」
ぐぐぴぐぐぴ……と飲み干した後、真っ赤になって黒鍵騎士の膝に倒れ込んできました。
「ひざまくら~」
「枕はいいですけど内腿を撫でないでくださいっ!」
「駄目?」
「駄目ですっ!」
「どうしても?」
「どうしてもですっ!」
……さっきはほんのり真面目な台詞だったのに、いつのまにかスタンダードなセクハラモードになっています。テンションが違いすぎて付いていけない黒鍵騎士でした。




