レンタルなんです。
転移魔法陣で移動した月詠の里で待っていたのは、もちろん黒鍵騎士でした。
「やっほ~。黒鍵騎士。ひさしぶり~」
「……お久しぶりです、魔女殿」
ハルマ大陸における魔女の専属護衛はやはりこの人でしょう。
転移前に通信魔法で『ちょっと尻尾もふもふしたいから黒鍵騎士レンタルしてくれる?お代は特製ゴーレム試作品でどう? そっちで研究すればまだまだ改良の余地はあるでしょ? え? オッケー? あはは~。さすが魔王だね。じゃあ月詠の里で待ってるからよろぴく~♪』というやり取りをしていたのです。
ゴーレム試作品でレンタルされた黒鍵騎士は、魔王陛下への忠誠心に再び疑問を感じるのでした。
「え~。そんなに私のこと嫌いなの?」
「……そういう訳ではないんですが。なんだかいいように利用されているような気がして」
「失礼な。私は黒鍵騎士の尻尾が……じゃなくて黒鍵騎士の力量を信頼して護衛を依頼してるのに」
「……今、尻尾って言いかけましたよね?」
「男が細かいこと気にすると女の子にモテないぞ!」
「………………」
別に女の子にモテたいわけではない、と主張したいところですが、そうなると今度はめくるめく新世界ワールドがお望みなのかと誤解されそうなので、賢明にも黙り込む黒鍵騎士でした。
「ちゅーか魔女の護衛って黒鍵騎士様やったん!? どんだけ豪華な護衛やねんっ!?」
そして驚き一杯の妖孤でした。
それはそうでしょう。一介の魔族に過ぎない九尾の妖孤が、魔王陛下の側近である黒鍵騎士と顔を合わせてしまっているのですから、そりゃあ焦ります。というかビビります。
「豪華なの? そりゃあ耳尻尾は立派だけど」
さわさわと尻尾を撫でる魔女でした。どさくさ紛れに尻まで撫でています。
「……やめて下さい」
「これもレンタル料のうちってことで♪」
「………………」
「ん。まあ今日の黒鍵騎士は私の専属護衛だから立場とかは気にしなくていいと思うよ。ね?」
「まあ。今日の任務は魔女殿の護衛ですから。魔王陛下の側近として振る舞って貰う必要はありませんね」
「……はあ。そうなんか? そりゃあ助かるけど」
本来ならば魔王陛下の側近である黒鍵騎士に敬意を払い平伏するべきなのですが、魔女にセクハラされまくっている図を見た後では、そんな気も失せてしまいました。なんだか微妙なガッカリ感もあります。
「それよりも首輪付けてくれてるんだね。うれしいなっ!」
「……高性能ですから」
黒鍵騎士の首に巻きついている鈴付の首輪は、ドワーフ製の魔女プレゼントです。最初は嫌がっていましたが、今はきちんと身に着けてくれています。それが魔女には嬉しかったようです。
「いつかリードも……」
「付けません」
「ちょっとだけ……」
「断固拒否です」
「ちぇ~……」
「………………」
際どい会話を続けつつ、目的地に向かう三人でした。
え? にゃんこはどうしたのかって?
今回はお留守番です。
正確には眠ったままだったので置いてきました。もちろん置き手紙付で。
最近はしっかりお留守番が出来るようになったので、魔女も安心して一人で出かけられるのでした。
……帰ったら絶対に泣くでしょうが、泣き顔が見たい魔女にはうっはうはの未来予想図なのです。
どんだけドSなのでしょうね。




