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超絶政治闘争学園ノブリス  作者: 片里鴎(カタザト)
第二話 ノブリス学園料理王決定戦
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化かし合いその3

この下りいくらなんでも長いですね。

すいません、もうちょっと続きます。


「くく」


 薄く笑うコーカの目にあるのはただ単なる興味の色だけだった。

 続きを話せ、と目が語っている。


「生徒会長、風紀会から大規模の捜査の打診は来てますよね?」


「さあ、どうでしょうね?」


 コーカは夏彦の質問をはぐらかす。


「いくら生徒会が難色を示すと分かっていても、一応の打診はするはずですよ。さもないと、後で大問題になった時に捜査の担当である風紀会の責任になりますから」


 それは、逆に言えば。


「つまり、この場合、後々に大問題になれば生徒会の責任になるってことです」


「ああ、否定はしませんが、月先生、どう思います?」


「そうですわね。風紀会と生徒会では立場が違いますわ。大会で大問題が発生すれば、風紀会に責任がある場合、生徒会に対して大変な負い目になりますわ。けれど、生徒会に責任がある場合は大会の運営も生徒会ですもの、会内部の問題ですわ」


「その場合、会内部で責任を問われて生徒会長の座を追われたりしないんですか?」


 動揺を誘うつもりで夏彦は投げかけるが、


「可能性はあります。これはサービスで教えますが、現在生徒会内部は大きく二つの派閥に分かれています。僕の会長派閥と、副会長派閥に。副会長派閥の連中が動く可能性はありますよ。けど、その程度なら」


 握りこぶしを掲げて、コーカは爽やかに笑った。


「粉砕してやりますよ」


「そうですか」


 ほう、と夏彦は息を吐いた。

 ここで考えを変えてくれるならよかったのだが。ここからは、かなり強引な話になる。妄言の域だ。


「じゃあ、仮にです。仮に、この大会の不正が、大規模な問題に発展したらどうです? 他の会にも関わるような大問題に。さすがに生徒会長でも抑えきれないんじゃないですか? それに抑え切れたとして、他の会に対する大きな借りになる、というか、相対的に生徒会の地位が下がる。違いますか?」


「仮に、の話をされても。ただ、他の会からも責任追及される立場になれば俺としても窮地に追い込まれるし、生徒会自体もそれが負い目になる、というのは確かでしょうね」


 よし、ここまでは予想通りだ。

 コーカの反応を見て夏彦は安心する。

 後は、どれだけこれからの話に説得力を持たせるかだ。


「だったら、やはり今からでも捜査の許可を出して、生徒会だけが責任を負う立場から抜け出すことです。この事件は、生徒会をその立場に追い込むことを目的にしている可能性があります」


「ほう」


「へえ、面白いですわね」


 コーカだけでなく、月までも身を乗り出してくる。


「根拠は?」


 コーカの口調からは、面白がっていることしか感じられない。


「予選一回につき一つずつ、露骨に料理の味を変えていることです。限定能力が不正につかわれたことが全ての会の知るところとなった一方で、被害が微々たるものであるために、生徒会によって動きが止められる。両方の条件を満たすためにあんな妙なことをしたとしたらどうですか?」


「まあ、そこまでは理解できます。できますが、しかし」


 コーカは首をひねった。


「最終的に、大会での不正が他の会にも関わる大規模な問題に発展するというのが無理があるでしょう。想像ができない。まさか、突然誰かが乱入して、大会中に出場選手が殺されていくとか言わないでしょうね。そうなればもちろん他の会も関わる大問題ですが、それをこちらの責任にされても困る。むしろ、風紀会の責任になるでしょう。警備は彼らに頼んでいる」


 突然乱入してきた連中が問題を起こすとして、それは料理の味を変えた不正を放置した生徒会の責任にはならない。その二つの問題が繋がっていないからだ。

 不正を放置しなければこの大問題は発生しなかったのに、と。そういう流れにならなければ、生徒会に責任を問うことができない。


「ここまで、あまりにも微々たる、そして露骨な方法で不正をしてます。もし、本戦、そして決勝戦になってもう少し狡猾に、かつ効果的に不正をすれば、優勝を操作できると思いませんか?」


「かもしれない、とは言っておきましょう。不愉快なことですが」


 コーカの余裕は崩れない。


「けれど、大会の優勝を不正でもぎとったとして、やはりそれは生徒会だけで解決できる問題ですし、多少の犠牲を覚悟すれば後から解決も可能ですよ」


「優勝賞金の一千万円ですよ、問題は。生徒会長、不正で優勝した、その優勝賞金の一千万円を使って、たとえば学園内でテロを起こされたらどうですか? その場合、責任追求の矛先が生徒会に向かわないと言えますか?」


「一千万円を?」


 予想外の指摘だったのか、コーカはきょとんとする。


「面白い考えですね。ふむ、しかし……だとしたら、犯人は選手の中にいて、しかも優勝した後に、その優勝賞金を使ったと分かるようにテロを起こさなければならないわけですか……つまり、優勝者はイコール逃亡者となるか捕まって首を括られると。ありえますか、そんなこと? 動機は何ですか?」


「いくらでも考えられますよ」


 夏彦はぶれない。

 開き直っているだけだが。


「例えば、他の会に雇われて、報酬と引き換えに生徒会の引き下げをするのかもしれませんし、前回の俺が巻き込まれた事件――あそこで出てきた外の組織の内通者、その残党がいるのかもしれません」


「仮の話や可能性ばかりですわね」


 揶揄するように月が言った。


「月先生の言うとおり、明確な証拠なんてありません。けど、生徒会長、万が一にでもそうなるなら、そうなる可能性があるなら手を打っておくべきじゃあないですか?」


 これで、夏彦が言うことはもう何もなかった。これでもコーカが動かないならばもう動かす手は思いつかない。

 こんな不自然で疑問点だらけの仮説でも、ひょっとしたらとコーカが思ってくれれば勝ち。そうでなければ負けだ。


「惜しいな」


 ぽつりとコーカが言った。

 それは皮肉や嘲りではなく、本当に「あともうちょっとで説得できたのにな」と惜しんでいるようで、だからこそ夏彦は自分の負けを直感的に悟った。


「僕以外だったら説得できたかもしれません。夏彦君、君は僕の本質を見誤っている」


「な、何のことです? 本質?」


 本質、という言葉に夏彦は疑問を覚える。

 そんな根源的な話は、今ここでは関係ないはずだ。


「僕は、見た目の通り単純な男です。その僕がどうして生徒会長まで昇ることができたのか、それはね、人の本質を見抜く力があったからですよ。例えば夏彦君、さっき会ったばかりだけど、君の本質はよく分かります。君は殻だ」


「か……」


 殻?

 意味が分からない。意味が分からないのに、何故か。

 夏彦は、その言葉がすとんと心の底に落ちていくのを感じた。

 そうだ、俺は殻だ。


「そして自分の本質も分かっています。僕の本質は、自信ですよ。何が起こっても自分に自信を持っている。だから、夏彦君、仮に君の言う通りだとしても、俺はその優勝者が一千万で問題を起こす前に止められる自信があります」


「はあ。自信過剰、と言えないのが憎らしいところですわ。実際に、その自信に見合うだけの実力を持って、結果を出し続けてるからこその生徒会長ですもの」


 普段からコーカの自信に満ち溢れている態度は目にしているのか、月が盛大にため息をついた。


「それに、僕としては生徒会に、そんな馬鹿みたいな計画に協力する不穏分子が今もいるとは思えないんですよ。夏彦君が活躍した例の事件の時、ついでに俺自ら『大掃除』しましたから、そんな輩はもう残ってないですよ、これも自信あります」


「生徒会の不穏分子、ですか?」


 話がとんだような気がして、夏彦は鸚鵡返しをする。


「ええ。君の仮説が成り立つには条件があります。味を変化させる不正によって誰かを優勝させる。それをするためにはその『優勝させる誰か』を予選で落とすわけにはいきません。つまり、現在審査されていたのがどの料理かが犯人に分かっていなければならないわけです。つまり、運営側が犯人、もしくは共犯者だと」


「ええ、と」


 自分で出した仮説でありながら、よく整理できていない。

 夏彦は頭の中で仮説が成り立つ条件について考える。

 まず、優勝者が賞金を使って問題を起こす。ということは、優勝者となる選手は少なくとも犯人側だ。そしてコーカの言うように運営にも犯人側の人間がいる。そうでなければ、予選の不正で優勝させるはずの選手を落とす可能性があるからだ。

 ここまではいい。

 味覚を操作した能力者、つまり実行犯がどっちかについては分からない。特定する材料がない。どちらが能力を使ったのでも成り立つ。

 むしろ、犯人側の第三の人間が実行犯の可能性もある。犯人側が何人いるか分からない。


「ん?」


 ここで、夏彦は気がつく。


「あの――」


「運営に犯人側の人間がいる、とは言い切れないじゃないですの?」


 だが夏彦よりも先に月が指摘した。


「選手に複数共犯者がいれば、具体的には三組以上が犯人側なら、予選の二回で二組が落ちても問題ないですわ。それにそもそも、予選一回につきランダムで一組の料理の味を操作するなら、たとえ犯人側の選手が一組だけだとしても、その組が不正で落とされる組に当たる確率はごく僅かですわ。ギャンブルをしてもおかしくありませんわ……ん?」


 言ってから、月は首をひねる。


「何か、おかしいですわね……自分で言ってこんがらがってきましたわ」


「しっかりしてくださいよ、月先生。まず第一に犯人側にそんなに大量に人数がいるということはありえません。そんなに犯人側の手駒があるなら、こんな回りくどい方法使わないですよ。というより、手駒がなくともこんな計画は――まあ、それは後に回しますか」


 爽やかな笑みと共にコーカは指を立てる。


「第二に、夏彦君の仮説の通りだとしたら、ギャンブルはしないでしょう。これだけ露骨に能力を使って不正しているんですよ? 大会が終わった後で、味覚操作の能力者は追求されることになります。というか、僕がします。となると骨折り損でしょう? けど、月先生、あなたが違和感を抱いたように、そもそもこの計画自体がギャンブルなんですよ」


 話が進むにつれて、夏彦の顔は青ざめていった。

 どうして、こんな馬鹿げた話で成功すると思ったのか。

 今では、夏彦にもこの計画のそもそもの欠陥は分かりすぎるくらいに分かっていた。


「いいですか、不正で誰かを落とすのが単なるアピールでしかない以上、犯人側の選手はほとんど実力で本戦に進む八組に入らなければなりません。もうそれ自体がギャンブルでしょう? もしも当人にとってはギャンブルでないとしたら、それは百組以上の中から実力で八組以内に入れる強固な自信を持っているということです」


 面白がるようにコーカは夏彦の目を覗き込んだ。


「ではここで犯人像を整理してみましょうか。犯人側は少なくとも二名以上、けれど大人数ではない。少なくとも一人は大会の運営側で、一人は選手、そして一人は味覚を操作する能力者。そして犯人側は全員が、計画に組み入れるくらいに犯人側の選手の料理の腕前に絶大な自信を持っている。さて、問題ですがそんな犯人たちがいると僕が思うでしょうか? ついでに、僕は生徒会に不穏分子は今いないと自信を持っています」


「なるほど、生徒会長の立場からすれば、さっきの仮説は何の説得力も持つはずがないですわね」


 うんうん、と月が頷いている。


「これ……大失敗ってことかな?」


 こそこそとつぐみが話かけてくる。


「言うな、言わないでくれ」


 これ以上俺を辱めないでくれ、と夏彦は懇願する。

 もちろん、夏彦としても計画が大失敗したのは感じていた。どうしてこれがうまくいくと感じたのかが分からないくらいだ。


 だが、予想外の救いの手が現れる。


「悪くない。なかなかに見事な見解けんげだ」


 そう言ったのは、さっきまで黙って立っていた雲水だった。

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