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超絶政治闘争学園ノブリス  作者: 片里鴎(カタザト)
第一話 人のための刃
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エピローグ

 長かった一日が終わると、夏彦は退院した。包帯だらけではあるのもの、動くことにはそこまで支障はなくなったので、夏彦としては退院はありがたかった。といっても、さすがに学校に行くのは控えておこうということで、退院した日は自主休校だ。


 寮の自室に戻ると、ライドウから電話がかかってきた。

 電話でライドウはかなり謝った後で、もう全て解決した、と知らされた。

 だから夏彦は「ああ、久々津もどうにかなったんだな」と思ったが、どうなったかを訊くことはしなかった。

 あいつが律子さんに迷惑かけないなら、それでいいや。


 全て解決したなら、後始末というか、けじめをつけないといけない。

 夏彦はメールと電話で、今回お世話になった人に電話することにした。サバキ、虎、つぐみ、そうして律子。内容は今回の協力へのお礼と、もう解決したらしいという報告、そして「これからもよろしく」という挨拶だ。

 番号を知らない秋山と月にも人伝にお礼を言っておいた。具体的に言うと、秋山については虎に、月についてはライドウにお礼を伝えてくれるようにと夏彦は頼んだ。

 ライドウ先生はともかく、虎がちゃんと礼を秋山さんに伝えてるかは怪しいな。あいつ秋山さんに馴れ馴れしいし。

 夏彦は疑うが、これにかんしては虎を信じることにした。


 そうして、やるべきことを終えて、夏彦はベッドに寝転がり、そして、自室の天井を見上げて。


 ああ、ようやく終わったのだ、と実感が湧いた。

 ――そして寝た。





 目が覚めたのはその夜、虎からの電話でだ。ひょっとして何かまた問題が起きたか、と心配したが「飯でも食おうぜ」というのんびりとした内容だった。

 夏彦としても断る理由はないし、朝退院してから何も食べていなかったのでかなり空腹だった。まだ痛みの残る体を外用の私服に包み、待ち合わせ場所のファミリーレストランに向かった。


 ファミリーレストランについたが、駐車場や入り口付近に誰もいない。

 おかしいな、と夏彦がメールすると、もう既に中に入っている、とメールが返ってきた。一番奥のテーブルだそうだ。

 待っとけよなーったく。

 と不平不満を抱きながらファミリーレストランの入り口をくぐって、


「げっ」


 思わず夏彦は声を出した。


 奥のテーブルには、虎だけでなく、秋山とつぐみ、そして律子の姿があった。


 つぐみと律子はいつかのように泣き合い抱き合っている。ファミレスの中だというのに。客も店員も全員二人をちらちらと見ている。

 同じテーブルにいる虎と秋山は居心地悪そうに顔をしかめている。


 あの光景が見たかった。人のために泣くことのできる、俺の憧れるエリートの姿だ。

 とはいえ、あの空気の中には入っていきたくない。

 回れ右して帰ろうかな、と夏彦はちょっと迷う。


「あっ、来た、おーい、夏彦、こっちこっち」


 必要以上の大声を出して、虎が手を振り上げた。


 店員と客が全員一気に夏彦を見る。


 あいつ、やりやがった。

 夏彦は顔から火が出そうになる。


「こっちっすよ、こっち」


 秋山も立ち上がって手招きする。


 どうあっても夏彦を帰さないつもりらしい。


 しかたなく、凄い嫌な顔をしながら夏彦がテーブルに近づくと、感極まったのか泣いているつぐみと律子から抱きつかれた。


「んじゃ、落ち着いたところで……」


 つぐみと律子が静まって虎がそう言い出すのに、結局十五分近くかかった。


「お疲れ様会といきますか」


 虎の音頭で、ファミレスでのお疲れ様会が始まった。


 といっても、所詮学生のもの。酒も飲まず、ドリンクバーで乾杯して料理を食べるだけのものだった。

 それでも、虎も秋山もテンションが高く、そしてつぐみと律子はすぐ泣いた。

 夏彦も周りのテンションに引きずられるようにして、最終的には楽しんでいた。

 話はいくらでもあった。今回の事件で遭遇したこと、会からもらえるお詫びとは何なのか、今回のことで自分たちは出世できるのか、そしてお互いへの感謝。

 いくら話しても、尽きることはなかった。

 律子もまともに喋れないながらも、積極的に会話に参加して、そしてすぐに真っ赤になったり泣いたりした。


「ちょっと、トイレ」


 一時間経っても話は尽きず、少し疲れた夏彦は席を立った。

 トイレとは言ったが、トイレに行くだけではなく、少し外の風に当たって熱を冷ますつもりだった。


 外に出て、星空を見ていると、気配を感じた。

 振り返ると、律子も外に出ていた。


「律子さん、風に当たりに来たんですか?」


「うん……」


 そう言って、律子は夏彦に並び立つ。


「……あの……」


「はい」


「訊きたいこと、あるんだけど……」


 歯切れが悪い。

 何を今更躊躇っているのだろうと夏彦は首を傾げる。


「その……夏彦君、あの時、言ったよね、つぐみちゃんが……悪いことするわけないって、信じられないって」


「ああ……あれですか」


 気まずくて、夏彦は頭をかく。

 あれは律子の反応を窺うために大袈裟に言ったセリフだ。今となって掘り起こされると、居心地が悪くなる。


「あれは、言ったように最初は半信半疑だったんですけど――」


「そうじゃ、なくて……どうして、私を信じてくれたの?」


 顔を赤らめながら、それでも真剣な顔で律子は夏彦を見つめてきた。


「え?」


「だっ、だって、わ、私が、そんなことを言われても気にしないような人だったら、ど、どうしたの? それだけじゃない。私が、自分が一番理不尽で過剰な暴力を振るってるんじゃないかって、そう言った時、そんなことないって、断言したよね」


「ああ、しましたね」


「ど、どうして? 何を見て、わ、私を信じてくれたの? 私が……理不尽で過剰な暴力を、振るってないって断言できたの?」


「……なんで、そんなこと知りたいんですか?」


「え、ええ!? だっ、だって、それは、夏彦君が、私のどういうところを見てるのか、とか……どういうとこがな、夏彦君のつぼなのかっていうか……」


 ごにょごにょと、最後になればなるほど声が小さくなっていくので、結局夏彦にはほとんど聞こえなかった。


 とはいえ。

 どう答えるべきかな。星空を見ながら、夏彦は悩む。

 限定能力のことを話すべきか。幼い頃からの自分の憧れを話すべきか。エリートの定義を話すべきか。それとも、律子さんとつぐみちゃんが泣き合って抱き合った光景を見た時のことを話すべきなのか。


 どれが正解か分からず、


「『最良――(サバイバル――)』」


 限定能力を使用しようとして――苦笑してやめた。


 そんな夏彦を、律子は不思議そうに見ていた。


 やめておこう。こんなことにまで、自分の憧れの人にどう答えるかにまで限定能力を使ったって仕方がない。

 多分それは俺の憧れていたエリートのあり方ではない、と夏彦は思う。


 だから、少しだけ悩んだ後、夏彦は悪戯っぽく笑った後で、


「――ただの勘ですよ」


 と言って誤魔化した。


 それを聞いた律子のきょとんとした顔を見て、夏彦はやたらに愉快な気持ちになって、また笑った。

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