008:gain time
「頼んだ私が言うのもなんだけど、良くこんなに運べたわね」
「お願いだから帰りは平等な分担にして下さい。お願いだから」
意地と筋力だけで人間何処まで行き着けるのだか面白くはあるだろうけどそんなものの検証はお笑い芸人ででもやっていて欲しい。常識の範疇外の重荷を背負うのは身体によろしくない。痛んだ肩に冷えた缶ジュースを当てながら溜め息が零れる。
電車での移動を終え、今度は宿へのバスを待つ時間。時刻表からすれば後10分程でバスが来る筈なのだが、その待ち時間がもどかしい。
秘封の二人は何時の間にか持ち出していたウチの本を読み、幽夜は秘封倶楽部が唯一の参考書として持ってきたトンデモ本を眺めている。今まで騒がしかった方々とは思えない静かさだ。見習って読書でもしようかと思うが、昔の人の妄想なんて読む気にすらならない。
考えれば可笑しな事態だ。彼女達が来なければ今頃素麺でも食べながらボーッと過ごしていたのだろうけど、何の因果か見知らぬ土地で荷物持ちをさせられている。浪人生がこんな所で馬鹿やってていいのかと疑問に思ってくるが、折角現役大学生が勉強を見てくれると言うのだ、給料代わりには良い、と思う。
もっと可笑しいのは、水元幽夜の存在。時代錯誤な旅人……いや、記憶喪失だし自分探しか? とにかく、そんな事をやっている風来坊が突然ウチにやってきて「見覚えがある」だなんて言いだしたんだ。奇妙にも程がある。もしかしたら昔ウチと因縁があったモノなのかもしれないけど、こんな人と知り合った祖先の気が知れない。向こうから一方的に絡んできた可能性は十分に有り得るけれど。
ぐるぐると無駄な事を考えていると、左目の端に銀糸が映り込んだ。
「……幽夜さん」
「なに?」
退屈していたのか、声を掛けると即座に本から顔を離して此方を向いた。今気付いたけど、この人の髪ってかなり目立ってる様な気がする。金髪や白髪ならまだしも銀髪ってあんまりお目にかからないし。
「その髪、どうにかならないの?」
「ん? 鬱陶しいからなんかで結った方が良い? まさかポニテ萌え? それとも三つ編み? ツインテは似合わないと思うんだけど」
会話になってねぇ。
「せめてハーンさんみたいに帽子を被ったりしてって意味」
「ああそゆこと。でもなんで?」
「そりゃあ、目立つから」
わざわざ言ってやらないといけない程なのかと疑問に思う人もいるかもしれない。だがしかし両隣が外人宜しく金髪銀髪に挟まれている僕の身にもなって欲しい。余計に他人からの視線が気になる。
「って言ってもなぁ……私、あんまり髪の毛に物を付けてたくないの。鬱陶しいと言うか」
「だったら伸ばさなきゃいいのに。髪なんて短い方が楽だよ」
そうすれば多少は目立たないだろうし? 何より髪に物が触れない様にするにはそれが一番いいだろうし。
「む。そんな事言ったら、凪人君のソレは何なのよ」
幽夜が指で示しているのは僕の顔の右半分辺り。右目が隠れるまで伸ばしている髪に付いて言っている様だ。
「別に良いだろ、習慣だよ」
「ふーん? 顔に特徴が無いからせめてものオシャレとかそんなんじゃないの?」
「オシャレなんてものに興味は無いし、大体そんな事しても意味が無い」
色んな意味で。
「勿体無いなぁ、結構イイ線行ってると思うけど」
「…………」
からかわれていると分かってはいるが、それでもムズいのは収まらない。目線だけででも抗議の意を示すが、にへらと笑う幽夜しかその線上には無かった。
「あ、バス来たみたい」