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東方災生変  作者: すばみずる
幻想の訪れ
8/51

007:男手とは


 ガタゴト、ガタゴト。賑やかな音を鳴らしながら進むカートには、ガラクタが詰まった袋が乗せられていた。その総量、恐らく人間三人分。丁度等身大のガラクタ人形も入ってるしね。

 それを片手で引きながら、もう片方の手には円筒形のカバン。中身は着替えや本の類であり、それが四つもあるのだから肩も腰も悲鳴をあげている。

 ふらつきながら歩いていると、後ろから押されながらお調子者の激励の声が掛けられる。


「頑張ってー凪人ー。電車出ちゃうぞー」

「………………ハァ」


 荷物分担を平等にしてくれるのなら、そういうサービスはいらないのだけど。

 自分でも分からない。何故僕が荷物持ち紛いの事をしているのか。時は昨日の朝へと巻き戻される。





◆◇◆◇◆◇





「守矢神社」


 開口一番、居座り始めて一週間になる幽夜がいきなり聞き慣れない単語を発した朝食は白米となめこ味噌汁だった。

 本当は前後の文があったのかもしれないが、生憎と素人料理人が朝っぱらから台所以外に注意を払う余裕は無い。


「いきなりなに?」

「私がこの前行った神社よ。もう一回行ってみようと思って」


 はぁ、と相槌を打ちながら白米を茶碗に盛る。炊き立ての甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「今度は思い出していてくれるかなぁ…………あ、ご飯もうちょっと貰える?」


 育ち盛りじゃないだろうに、やたらとご飯を大盛りにしたがるのは何故だろう。と言っても見た目は20かそこらの少女かどうかギリギリのライン。17歳と言われてもまぁ通らなくは無いだろうけど無理矢理なAV臭がプンプンする。


年齢(とし)? 肉体的な年齢は分かんないけど、少なくとも15歳以上だよ。15年前からさまよってるし」

「15年前…………ん?」


 見た目は……まぁ贔屓目で見て17、8歳。正面切って言うには控えられる程実直に言うと20そこら。

 そこから15年を引くとすると、2〜5、6歳から旅してるって事に……?


「……まさか、子供の頃からずうっと歩き回っているのか?」

「そんな訳無いよ。って言っても、子供の頃の記憶が無いから分からないけど」


 いや、いやいやいや。


「そうじゃなくて、15年前って言ったら精々5、6歳かそこらだろう? まぁ、今の状態が若作りした結果って言うなら変わるけどさ」

「言うようになったじゃない凪人クン。普通の女性だったら怒ってるわよ?」


 やっぱり自分が普通じゃないのを理解してたのか。何時の間にか空になった汁茶碗を差し出してきながら、からくりについて話す。


「私の身体は、15年前から全く変化していないわ。髪が伸びたり垢が出たりはあるけれど、成長も老化もしていない」

「…………」


 中世の自称錬金術師や中国の仙人かに聞かせれば泣いて喜ぶんじゃないだろうか。彼女、水元幽夜が言っているのは正しく不老不死や不老長寿の類だろう。無論、ホラで無ければだが。


「もしかして私の事、不老不死の仙人だとか思ってないでしょうね?」

「それ以外の選択肢が無かったんだ」


 溜め息を吐きながら胃袋の容量を減らしていく幽夜。随分と器用だ。


「あのね、仙人ってのは人間の欲だとか排泄だとかを無くした人間を言うのよ。私の場合は欲求も新陳代謝も普通の人間と変わらないの。怪我したって直ぐに治らないし、中に浮いたりだって出来ない」


 どうやら不老不死よりもそっちの方が勘に障ったらしい。しかしそんな事を熱く語られても僕には興味が無いのだが。


「神社の子なんだから、オカルト関連の事に詳しいのかと思ったのに」

「……オカルトなんか嫌いだよ、正直なところ」


 ――――――両親の事を思うとね。

 いらない言葉は味噌汁と共に飲み込み、食事を続ける。


「あら、でも君からも『そういうモノ』を感じるんだけどなぁ。――――――頭の傷とか」

「………………」


 頭の傷。彼女と初めて激突した直後に出来た擦り傷の事だが、今では痕さえ見えない。


「……言っただろ、怪我なんて無いって」

「血が出ていたのにそれは無いわよ」

「見間違えや聞き間違えを盲信するのは評価出来ないな。元からしてないけど」


 少しばかり辛辣な口調が表に出る。悪い癖だが、どうせ気にする様な相手でも無い。

 幽夜が見透かす様な青い瞳で此方を見るが、それもすぐに残っていた朝餉へと向けられた。




◆◇◆◇◆◇




 昼前になり、秘封倶楽部の二人が今日もやってきた。


「あの、お二方。その荷物は……?」


 ……何故か大きな旅行バック付きで。

 僕の疑問に宇佐見さんがキョトンとした顔で答える。


「あれ? 昨日言ってなかったっけ。明日幽夜さんの誘いで別の神社に取材に行くから、宿を引き払ってお世話になりますって」

「一度たりともそんな事は聞いてないよ僕」


 勉強でもしてる時に言われたか、それとも幽夜が安請け合いしたのか。後ろから「あっはっは」とか笑い声が聞こえるから多分後者なんだろう。


「あ、あの、やっぱり迷惑でしょうか……?」


 分かり易く恐縮しているハーンさん。その他二人は良いにしても、この常識人をぞんざいに扱うのは流石に気が引ける。


「いや、泊まるのが一晩だけなら大丈夫だけど……」

「けど?」

「……いや、いいや。取り敢えず、寝床を確保してきますね」


 雑談に花を咲かせる幽夜と宇佐見さんの脇を通り、本堂へと向かう。古書や古物まみれとなった客間に寝かせる訳にもいかないし、二人分の場所と言えば必然的に本堂しか無い。因みに幽夜は僕の部屋の押し入れに居座っている。本人曰く下宿人は押し入れで寝るべきだとか。まぁ邪魔になる訳でも無いし問題無いのだろう。


 二人分の布団を運び一息ついていると、三人の笑い声が廊下から聞こえてきた。

 嗚呼、つくづく思う。良い様に使われてる、と。




◆◇◆◇◆◇




「朝一の電車に乗って寄り道しないで行けば、昼過ぎ辺りには着くんじゃないかな?」

「早起きしないとなぁ……ねぇメリー、目覚まし時計って持ってきてたっけ?」

「あっても壊すでしょ、蓮子は。私が起こしてあげるから無駄な心配はしないの」

「あ、やっぱり起きないって見抜かれてたか」


 疎外感は人を成長させる。時には三点リーダーを挿入させる野暮さを無くす程に。下らない。

 資料整理が粗方済んだ二人は、守矢神社への旅程を幽夜と共に考えている様だった。向こうの宿と神社への連絡ハーンさんが(、、、、、、)キチンと行ったらしく、後は道順通りに行けるかどうか、と言う初めてのお使いよりも簡単な状況らしい。


「電車を乗り過ごしたら明日中に着かないかも知れないけど、その時は勘弁してね?」

「大丈夫です。夫のお陰で慣れてますから」

「ハハハハハ」

「笑い事じゃないだろ、ついで夫は否定しろよ宇佐見さん」

「ホホホホホ」

「HAHAHAHAHA」


 思わずツッコんでしまうと陽気に笑う宇佐見婦妻(?)。ツッコミ役がいないと何処まで爆走するか分からない二人だ。

 呆れていると、時刻表を畳みながら幽夜が此方を見てくる。


「対岸の火事みたいに振る舞ってるけど、凪人クンはちゃんと準備してる?」

「何の」

「明日の準備」


 …………What?


「……すみません、仰っている事が分かりかねます」

「だから、守矢神社に行く準備は? って」


 どうやら、この女性は心の中で話した事が全員に伝わり尚且つそれが否定されないとでも勘違いしている様だ。僕がついて行くだなんてそんな話を一片も聞いてはいない。


「なんで僕が行かなきゃならないんだよ。損しか無いだろ」

「世の中損得勘定だけで図るのは良くないよ? か弱い女性三人だけで重〜い荷物を持って行くのは可哀想だとは思わない?」


 詰まる所、荷物持ちが欲しいらしい。


「お断りだよ。僕だって暇な訳じゃないんだ」

「なんか予定あるの?」


 惚けた顔を向けてくる幽夜の眼前に突きつけたのは、大学受験生の間で人気の某チャートなんたらとか言う赤かったり青かったりする参考書。


「べ・ん・きょ・う・だ・よ!! 此方と浪人生だっての! フラフラと旅行なんざ行ってられる身分じゃないんだ!」


 文句はまだまだ油田が如く湧き上がり怒りは相応に燃え盛るが、にやにや顔の三人を見て背中に冷や水が走る。

 ジリジリと壁際に追い込まれながら、逃げ道を探す。


「そーお、つまり凪人クンは勉強が出来ないから行けないんだ?」

「あ、ああ。それに今月はちょっと厳しいし」


 親戚の御厚意である仕送りと、端金とは言えど高校時代から雇ってくれている商店のバイトの給金で何とかなっている生活だ。旅行なぞ行こうものなら罰が当た……りはしないか。しかし厳しいのは事実。


「ふぅ〜ん?」

「ッ――――な、なんだって言うんだよ」


 なにか、三人がヤバい。具体的に言うと、どうやって藁の家を崩してやろうかと考えている狼の顔だ。

 体感時間0.5秒。瞬時に視線を回し合った三人は、誰もが見惚れる笑顔で連携プレーを開始した。


「分かった、じゃあ旅費は私が出してあげよう」

「えッ?」


 まずは幽夜がジャブを仕掛け、


「大学入試レベルだったら私達が教えられるよねぇ、メリー?」

「ええ。少なくとも、一人ぼっちで参考書と睨めっこしてるよりはね」

「えぇッ!?」


 二人掛かりで甘言を囁いてきた。三人の身体が徐々に寄って来てるのは気のせいか。

 ……落ち着け、よく考えろ赤瀬凪人。現役大学生が勉強を見てくれる上に金銭面ではパトロンが出来てしまったとは言え考えを鈍らせるな。いや偶には息抜きも、だが夏を征する者は受験を征すると、いや、だが、いや。


『………………』


 爛々と輝く六つの瞳。あっさり頷くのはプライドが許さない。だがコイツらの誘いに乗ったとしても、精々荷物持ち程度だ。力仕事ならば僕としても楽な事。

 溜め息の後、数秒の間を取ってから、右手を差し出す。


「……あんまり頭は宜しく無いけど、それでも匙を投げないと誓ってくれるなら」


 ――――――この軽はずみな発言によって翌朝、腰を痛めるまでの重荷を引き摺る羽目になるとは思いもしなかったが、そのエピソードを書くには余白が狭すぎた。


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