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東方災生変  作者: すばみずる
過去の幻想 今の幻影
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047:人里にて

 幻想郷。忘れ去られた者の都。

 物の怪が跋扈し、常識が乖離した世界。

 そんな中でも、人間は生活し、集団を作っている。

 その意味は何ぞや?

 仮説だが、それは妖怪の在り方に関係するのでは無いだろうか。

 妖怪は、人間から忘れられる事を酷く恐れる。多くから忘れられれば、時には消えてしまう。

 であれば、そもそも知っている人間を減らしてしまえば忘れられる事も無いのではないだろうか。世界を区切る事により、世界の人数を減らし、結果として自分を知るのが少ない人数であってもその世界の総数から鑑みれば、存在するのに足る割合になるのでは無いか……と。

 つまりは、幻想郷とは一つの世界では無いか、と。

 まぁ、全て想像なのだが。



 逢魔が時。蘇芳の外套に身を包んだ僕は、人里近くの林の中で立ち止まっていた。

 太陽の畑に行く為に、人里を通る必要は無い。森の中を進んでいけばいずれ着く。問題は妖怪紛いに襲われるかもしれない点。

 人里を進めば、それなりに安全ではある。ただ、それほどショートカットになる訳でも無く、また余所者が入れるのかも分からない。石を投げつけられながら退散、なんて目には遭いたくない。

 損得勘定なら、森を突っ切る方が良いだろう。不愉快な事に、人外相手でも臆する事は無い。杭が無くなれば適当な木の枝でも良いし、逃げ切る事も可能だろう。

 それでも人里をルートに挟もうとするのは、やはり人恋しいのだろうか。それとも、自分の方向感覚に自信が無いからか。

 人恋しいと言うのは、まぁ否定出来ない。人間らしい人間に出会えていないのだから。そのかわり、人間らしい妖怪なら会っているが。

 ――偶には損益より、感情を元に行動しても良いだろう。

 そんな風な事を考えながら、歩を進めた。



「止まれ」

 里を囲む木柵。その門前にて、若い男に呼び止められる。同じ位の年だろうが、悔しい事に体格は負けている。

 門番の筈だが、手には何も持っておらず、腰に鐘を付けている。変と思ったが、普通の人間が妖怪の相手が出来るとは思えない。おそらくは襲撃を伝える為だけの役割なのだろう。

「すまないが、外套を取ってもらえないか?」

 言われた通りにする。男は顎に手を当て、少し考え込んでから言う。

「何処から来た?」

「紅魔館から」

 今度は少し、眉根を寄せて怪訝な顔をする。

「逃げてきたのか」

「いや、使い走りだ」

 ますます妙な顔をする。やはり、吸血鬼の巣窟から来たと言うのは怪しまれるのか。

 最初の優しさは無くなり、詰問口調が続く。

「目的は」

「手紙を届ける事」

「何処まで」

「太陽の畑」

「――」

 息を呑む音が聞こえた。

 恐る恐る、と言った様子で門番は問う。

「名前、は?」

「赤瀬凪人」

「手紙の差出人がか?」

「ああ……いや」

 手紙を取り出し、裏面――『十六夜咲夜』と書かれた面を見せる。

 途端に門番は血相を変えて僕の手を掴む。

「すまない、少し来てくれ」

 否も応も言う暇無く、強引に腕を引かれて全速力で里へ突入した。腰の鐘がガラガラ言うのを構わずに走り続けているが、正直うるさいので止めて欲しい。道行く人は何事かとこちらを見ているし、至近距離にいるとやたらとうるさいし何故か不快になる。

 門から十分ほど走った所で、突然門番は止まった。周りの建物と比べると明らかに大きくそれなりに豪華、と言うよりしっかりとした建物の前だ。

 そこで楽しそうに駆け回る子ども達を見て、思い当たる施設があった。

「これは……学校?」

「この中だ!」

 またも走り出す男。所々でつっかえながら、校舎の一室へと駆け込む。

「ど、どうした!? 何があったんだ?」

 やはり鐘の音が聞こえていたのか、教師らしき人達が立ち上がってこちらを見ていた。

 それらを無視して、門番は職員室の奥へ――如何にも校長の机らしき所へ向かう。

「上白沢先生!」

「落ち着け、どうしたんだ」

 そう門番が呼んだ教師――青白い長髪と、頭に乗った四角い帽子が特徴的な女性は、パニックよりも緊迫感に満ちた顔で事情を訊く。

「この男が、太陽の畑に行くって言うんです! それも、十六夜の手紙を届けると!」

「……何?」

 若干間の抜けた答えに拍子抜けしたか、それでも緊張した眼は僕を捉えていた。

「分かった。こちらで事情は聞こう。だがな、新一」

「は、はい」

 おそらく門番の名前だろう名を呼び、その肩に手を置く上白沢さん。机越しだからか、新一が若干前屈みになっている。

 そして徐々に、上白沢さんが仰け反り始める。天を、いや天井を仰ぐように顔を持ち上げ――違う、これは『溜め』か。あまりの自然さに止める事すら出来ない。

 溜めて、溜めて、溜めて、全身のバネが限界まで縮められ――放たれる一撃。

「腰に(ソレ)を付けたまま走るんじゃあない!!」

 見事なまでの頭突きが、新一の額に打ち込まれる。その速度たるや、十六夜のナイフや紅さんの突きを軽く凌駕する代物だった。

 僕の頬に一筋の血が流れたのは、その時のソニックブームなんかでは無く、走っていた時に引っ掻いただけだろう。そうに違いない。


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