044:U.N.オーエンは……?#3
セリフを主にしてみようと思った回
「で、何か言う事は?」
「お願いだから頭は残しておいて下さい」
謎の侵入者に手玉に取られ、憤慨しながら入ったのはフランドールの部屋。フランドールの事だから何があろうがケロッとしてそうだが、そこを確認しないでおいて厄介な事になるのは避けたい。
そして、まぁさっきまで変な奴がうろついていたんだ、礼節も多少欠くだろう。ノックもしないで、鉄の扉を開いていた。そんな分かり易いフラグを自ら見逃していた。
僕の両目は、生まれたままの姿のフランドール捉えた0.2秒後に惨殺処刑されて汚れた思考を清められていた。
「侵入者が来てたなんて、私は分からなかったけど?」
「残念ながら、先ほど逃げられてしまいまして、ええ」
雇われる事になった時、館の者には敬語を使う様言われていたが、こいつにはあまり使いたくない。一番馴れ馴れしい奴だし。
「ふぅん。覗きに来たのが目的じゃなくて?」
「もう懲りてます」
今日で二回目なのもあるけど。元より覗きを楽しむ思考回路は存在しない。
「……まぁいいや。凪人みたいなヘタレにそんな度胸は無いか」
「悪かったなこのクソガキ様」
「そういえば握力の体操って知ってる? 手をグーパーってするんだけど」
「大変申し訳ありませんでしたからその手を下して頂けないでしょうかフランドール様」
何時かヤキ入れてやる。
「ともかく、異常が無いんでしたら私は戻ります。お騒がせしました」
「えー、遊びに来たんじゃないの?」
「両目を切り裂き合う殺戮競技なんぞやりたかないので失礼します」
「あーそーぼーおーよー」
そそくさと戻ろうとする僕の腕を冷静にチキンアームロックするフランドール。崩壊寸前の右腕右肩。
「凪人も強くなったでしょ? 久々にやろーよー」
「戦う事前提かよ……」
強くなってねーし。能力に振り回されてるだけだし。
「う~……あのバカじゃ、最近味気ないんだもん」
「あのバカ?」
フランドールの指差す方向。そこには桶に頭をツッコんだ少女の姿がっておい。
「え、何、溺死ごっこ?」
「弾幕ごっこでオちたから、あのまま放置してるの。どうせ凍ってるし大丈夫」
いや、その方が危なくないか。青いワンピースを着た少女は、ぴくりともしない。
「妖精メイドがこの前捕まえたみたいなんだけど、掃除も何も出来ないから私の所に捨ててったみたい。名前は……チルノだったかな」
「チ……」
おおう。探し人かよ。しかも溺死中。
「……助けていいかな?」
「放っといてもその内起きるよ」
「いや、それは何かやだ」
フランドールにしがみつかれたまま、桶の近くに寄る。うわ、本当に中身凍ってるよ。
「どうするかな」
「壁に叩きつけて壊すとか」
「いやそれは――それでいいや」
面倒だ。どうせ息しなくとも生きてるんだし叩きつけられてもなんともないだろ。
少女の足首を掴み、ゆっくりと振り上げて――
「あれ、凪人さ――」
――聞き覚えのある呼び声を風切り音が切り刻み、地下室に氷塊が舞った。
さて、偶然とはなんだろう。
この数奇な状況は偶然と言えるものだろうが、その偶然とはいったいどの様なものに定義されるべきものなのだろうか。
ついさっきまで友人を探していた女の子がたまたまその友人が壁に打ち据えられている場面を目撃する様な事象は、偶然と定義されるものだろうか。
ああ、長々と言っても意味が無い。つまりはこうだ。
「僕は悪くない」
いやほんと、僕は悪くない。
「チルノちゃん! 起きてよお!!」
フランドールに抱き着かれている状況も、チルノとやらが床に横たわっている状況も、それを必死に大妖精が揺すっている状況も、何故か紅さんがいる状況も、何一つ僕は悪くない。
「いや、叩きつけたのは凪人さんでしょうに」
「僕ハ悪クナイ」
断言できなくなってきた。ニヤニヤ顔の紅さんとフランドールが鬱陶しい。
「まぁ、妖精だったら大丈夫でしょ。私も何回か壊してるけどすぐ何とかなったし」
「そーだといいですけどねぇ。戻らなかったら……」
「俺の精神がガリガリ削れるからやめて」
提案したのはフランドールなんだ、僕は無実だ。ゴメン実行犯だったわ。けど減刑くらいあるよな。
「……ん、ん――」
「チルノちゃん!?」
ピクリと動く青ワンピース少女。良かった、これで負い目は無い。
「…………大ちゃん?」
「――よかったぁぁぁ!!」
未だ意識がはっきりしないだろうチルノを押し倒す様に抱き着く。おお、仲良き事は美しきかな。
「ちぇッ、負けちゃった」
「それじゃあ妹様、遠慮無く」
「お前らどういう内容で賭けしてた」
てへっじゃないから。可愛くてもダメだから。
「それはいいけど」
「よくねーって」
「いいから」
意見無視か。
「暇潰しさせて」
「この仲麗しい二人が再会し友情を確かめ合う所に暇以上の素晴らしさを感じませんかね」
「ゴメン、全然」
なんて奴だ。僕もだけど。
「でも、こんな状況で乱戦なんかごめんですよ」
「え、参戦前提で話してんの紅さん」
「私も暇でしたしね」
幻想郷の女性って戦闘狂ばかりなんですかね。こえーよ。
「どうせなら文化的にやらないっすか」
こんな状況にもつれ込んだのが偶然なら、僕のポケットにコイツがあったのも偶然なのだろうか。ここまで来たら、必然ってものじゃないかと疑いたくなる。
二人に54枚の紙の束を差し出しながら、そんな事を思った。
「……いつも持ち歩いてるんですか、それ」
「凪人ってなんだかトランプとか武器にして戦いそうな顔だよね」
「殺すぞ」
必然(作者がやりたいと思う事への布石)