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東方災生変  作者: すばみずる
東方紅魔郷 ~the Embodiment of Scarlet Devil.
36/51

035:08/フラワリングナイト


「へぇ、これが本当のザ・ワールド(、、、、、、、、、)か」


 生の鼓動が止まる世界の中で、呑気に俺は呟いた。いやさ、のんびりも出来ない状況だってのは分かってるけど、やっぱ切れ切れの記録(、、)だけじゃ楽しくもなんとも無いから。

 そして、スペルカードによって規則的に配置されるナイフ。どれもこれも、俺や魔理沙を狙う様になっている。当たり前か。 俺はと言えば、スペルカードもナイフも無いから記録通りに呟いただけのだが、言葉と言うのは不思議と人をその気にさせる。

 さて、このナイフをこのままにしておけば、時が動き出した途端に俺達に襲いかかってくるだろう。ならばどうするか。


「まだ動かさなければいいんだけどな」


 そう、止めていれば動かない。これもまた当たり前の話、モノの道理だ。方法は識っている。なら、実践する他無いだろう。


「と、言う訳だ。少しばかり俺と踊ってくれないか、咲夜さん」


 そう言って、武器を構える。と言っても、その手には何も握られてはいない。あるのは、金属で出来たこのマネキンみたいな偽物の腕。

 ――――どうせならもっと気の利いたお遊びをすれば良かったな。

 下らない妄想と共に、取り巻くナイフへ文字通り鉄拳をお見舞いする。止まった世界にて加わる力は時の動く場、俺の空間に入った時点でその効果が現れる。

 即ち、展開されていたナイフの全ては破壊された。


「……ああ、駄目だな。やっぱこの身体じゃあ、視えやしない」


 尤も、その方が都合が良い。何より、この眼が無ければ(、、、、、、、、)視えないし(、、、、、)、それはアイツがいない事(、、、、、、、、)を証明してる様なもんだ。


「手加減、ってぇと変か。まぁ、お前さんを殺すこたーしねーよ」


 出来れば殺生はやりたくないし、彼女を殺せば取り返しの付かない事になるとだけは分かる。その想いは、記録にこびりついた記憶に残ってる。

 だから、全力で遊ぶ。それが何よりの解決策。

 とは言え、今の彼女が遊びに乗ってくれるとは考えがたい。だったら如何するか。一つ目はお望み通り殺し合いをする。けどこれはやだ。二つ目は、此方だけスペルカードルールを使う。ただこれだとあちらさんが間違い無く手加減無しに撃ってくるだろうし、そもそも今の俺は弾を撃つのにはあまり向かない。

 ではどうするか。三つ目の選択肢。紳士的かつ、無血開城まで成し遂げた素晴らしい解決策。


「それに、能力使えない時点でキツいだろ? 素直に引いてくれないかね」


 まぁ、ただ単に説得ってなだけなんだがね。

 ホウキから飛び降りたその場所から、ゆっくりと近付いていく。


「頼むぜ、十六夜咲夜さんよ。忠義より、自分の命を大切にしてくれ」


 素手じゃあ脅す……いや、お願いするには格好が付かない。服に忍ばせていたナイフを逆手に持つ。

 そして歩みを止める。その場所、既に咲夜さんの口元に浮かぶ憤怒すら分かる距離。なんか怖い。


「……貴方はつまり、私に主従の関係を捨てて生き恥を晒せと?」

「いや別に、二時間ばかし眠っててもらえると嬉しいなぁ、って」

「ああ、分かったわ」


 分かってくれるなんて感激だ――――などと冗談を言える訳も無く、


「死にたいなら早く言ってくれれば良かったのに」


 俺はただ、脳天を貫くナイフによろめくだけだった。




◆◇◆◇◆◇




「いるいる。悪寒が走るわ、この妖気。何で強力な奴ほど隠れるんだ?」


 紅霧の根源。其処に至った私が言う。


「能ある鷹は尻尾隠さず……よ」

「……脳なさそうだな」

「人間だけよ。脳なんて単純で化学的な思考中枢が必要なのは」


 蝙蝠の翼を持った少女。それが今回の異変の犯人。

 霧、蝙蝠で強いときたら間違いない。


「お前、アレだろ? ほら、日光とか、臭い野菜とか、銀のアレとか。夜の支配者なのに何故か弱点の多いという……」

「そうよ、病弱っ娘なのよ」


 ふざけた口調に、ふざけた答えを返してくる少女。名前はそう、確かレミリアとか言われていた。


「面白そうだな、やっぱ飲むのか?アレ」「当たり前じゃない。私は小食でいつも残すけどね」

「今まで何人の血を吸ってきた?」

「貴方は今まで食べてきたパンの枚数を覚えているの?」

「13枚。私は和食派ですわ」


 惚けた質問に、惚けた答えで返す私。しかしレミリアはそれがお気に召さなかった様子。


「で、何しに来たの? もう、私お腹いっぱいだけど……」

「そうだな、私はお腹が空いたぜ」

「……食べてもいいのよ」

「ああ、そうかい。今の、植物の名前だぜ?『亜阿相界』」


 冗句は人間外にもやはり通じるのか、レミリアがにっこりと笑う。その口元は、まるで明日から取ってきた月の欠片の様。


「人間って楽しいわね。それとも貴方は人間じゃないのかしら?」

「楽しい人間だぜ」

「ふふふ、こんなに月も紅いから?」


 そんな事は、どうでもいい。私はこの異変を解決しなきゃいけない。私は、この首謀者をやっつけなきゃいけない。

 なにせ、私は頼まれた。なんかやると看板を出した手前、やらない訳にはいかないだろう。


「暑い夜になりそうね」

「涼しい夜になりそうだな」


 その台詞と共に、紅霧の吸血鬼との闘い(遊び)が始まった。


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