002:一人+一人=?
水香神社、客間兼社務所。昼前までは何時もの風景だった筈が、今ではカビと埃の臭いと大量の紙が占拠し、目も当てられない光景となっている。後々の掃除と消臭剤を売っている店への道順に脳を使いながら、蔵から持ってきた古紙を僅かに見える床へと置く。
「ウチにある本はこれ位です。道具の類は蔵から出しづらいので……」
「後で蔵の中を拝見しても宜しいですか?」
「ええ、勿論」
古書まみれな部屋の中で、一心不乱に作業をする二人、マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子。二人共々同じ顔、同じ眼差しでページをめくり、ペンをノートに走らせる。
別に、彼女達を笑うつもりは無い。僕が見た事が無いから、知っていないから、彼女達の言う事が嘘だと言う事は無いし、否定なんてする気は無い。
だが、それは認めるについても同じ事。彼女達の言う事を真実とする事も無いし、認める筈が無い。
結局、僕にとってはどちらでも良いのだ。彼女達が信じているモノがあったとしても、それは僕には関係無いのだから。だから蔵も開放したし、面倒で無ければ手伝いもする。
「あ、買い物忘れてた」
軍手を外して一息ついていたら、ふとゴミ箱の中の青カビの塊が目に入り、来客前の出来事を思い出した。しかし、今出てしまえば客人のみを残す事になる……
「……別に構わないか」
あの二人なら、物取りなんかしないだろう。古書なら引き取ってくれるのがありがたいし、金目の物は既にポケットに避難済み。何よりいきなり押し掛けてきたのは向こうなのでどうこう言われる筋合いは無い。
集中している二人に声を掛けるのは気が引けるので、静かに玄関へと向かい靴を履く。
……別に声を掛けるのが怖かったり面倒だったりする訳では無い。断じて違う。
◆◇◆◇◆◇
腹拵えを済ませ、ぶらぶらと街中を歩いてみる。手に持った旅行鞄を持ち替えながら思索するも何も浮かばないのが現状だ。目的はあるにはあるけれど、別に急いで済ませる事でも無い。
「暇なんだよねぇ……」
やる事があってもやらない。やる気にならない。だからと言って何かやる訳でも無い。
他人から見たらぐーたらなんだろうけど、本人からしてみたら大変な事だ。俗に言うには……なんだろ、仕事や勉強が手に付かない、ってのが今の状況か。
「うーん、さっさと行こうかなぁ?」
時代に取り残された、と言えば大袈裟だ。だけど、この村にも今の時代にそぐわないモノが残っている。
信仰。信心。神気。神力。或いはその類。いや、此処だからあるんじゃない。此処は変わらないから残ってるだけなんだ。
神社の行事が盛んに行われている訳じゃないだろうけど、他が無くて尚且つ疑っていないから、こんなに残っている。
「……まぁ、全部憶測だけどね」
独りごちていると、何時の間にか長く細い階段の下にいた。生い茂っている木々や長年踏み続けられていた石段を見る限り、目的地に相違無い様だ。
山頂へと続くバリアフリーなんかとは無縁の悪路。入り口付近の看板には『水香神社』と書かれている。
「……〜〜〜〜いいや、さっさと行こう!!」
何を迷っていたのか自分でも分からないけれど、とにかく進む事にした。旅行鞄を背中に回し、古びた階段を勢い良く駆け上がった。
「え?」
――――下って来ていた青年に気付かない程、張り切って。