014:出会い
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私の身体は一つだけ。でも、私の心は二人分。
どっちでもあって、どっちでもない。それが、今の私。
『私』は境界線上にいるのか、それとも?
その答えが出た時には、きっと『私』はいないだろう。
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自分にこれだけのスタミナがあるとは。徹夜の目に優しくない朝日の眩しさに目を半開きにしながら思い返す。
先程の怪光線を撒き散らす少女は何時の間にかいなくなっていた。執念深いタチじゃなくて良かった。
今現在、薄暗い道を抜けて見渡す限り……と言う訳じゃないが、草原のど真ん中で立ち尽くして御座います。
「……腹減ったぁ」
運動した後のだるさと空っぽの胃袋のせいで身体がふらつく。いや、ふらつく原因は他にもあるが、まず自分の身体の具合がよろしくない。
最近雨でも降っていたのか、ぬかるんだ道を全力疾走したお陰で足は必要以上に痛いし泥まみれだ。暗がりならまだしも、明るくなった今だと見栄えも悪い。
それと、良く分からない光弾を掠った所為なのか、火傷の様な痛みが今になって染み入る。まともに当たっていたらどうなっていたのだろう。少し怖い。
そして最後の問題は、
「何時になったら起きるつもりだ……幽夜?」
そう、背中の御仁が何時まで経っても起きないのだ。幾ら転んだりしなかったとは言え飛んだり跳ねたりと騒がしかった筈なのだが、どんだけ太い神経をしてるのだか。
「ハァ…………全く」
地面に座り緊張した足を脱力させ、そのまま仰向けに転がる。結果、幽夜が下になるのだが、正直コイツに遠慮する事が馬鹿らしくなってきたので、何も感じる事も無く幽夜の身体を枕代わりにする。心なしか、寝息が少し苦しそうになった。
明るくなったばかりの空は白い。雲は少ないと言うのに、まだ青空を拝む事は出来ないみたいだ。
すえた様な泥の匂いと、朝の気温。吸い込むと鼻が少し冷えてしまうが、ボケ掛けた頭を起こすには良い。
――――正直、色んな事が一遍に起こり過ぎて把握しきれない。
昨日までは確実だった現実が、立っている場所から改革されてしまった。飛んでる少女だの、怪光線だの、そんなのを見てまともでいられる自分がおかしいのかもしれない。
そう、まとも――――異の中の常識として括っている時点で、脳味噌がイカレちまっているのかもしれない。
「……いっそ、パニックになれば……」
どれだけ楽だろう。追い回されてる時はそうだったが、一人きりになると途端に頭は通常営業を始める。切り替えが早過ぎやしないか、幾ら何でも。
これだけ順応出来る余裕があるって事は、あんまり状況を飲み込めてないか、余程の夢想家か、元々そう言う土台があったか。有力候補は一番。
可能性を頭の中に浮かべていくと、その内視界に明かりが無い事に気付いた。
「……いけね、そう言や……」
殴られ蹴られて走りまわった上に寝てないんだった、と思い返して、そろそろ体を休ませようかなと言う気持ちになってきた。と言うより瞼が開かない。
仕方無い。幽夜には悪いが、暫くは枕になってて貰おう。今までやられた分寝転んでいてもコイツならさして問題も無さそうだし。
そうやって、意識から手を離そうとしていたら、
「こんな所で寝てたら危ないですよ」
まさかの身を案ずる声が、聞こえた。反射的に身体を起こし、声の出所に顔を向ける。
緑色の服と赤い髪。帽子とそこに付けられた星形のバッチ。
少し奇妙な風体の優しい顔立ちをした女性が、そこに立っていた。