012:行った先
夜空の星明かりが、開いていた目に入ってくる。
頭を少し起こしてみると、辺りはまるで荒れ地の様だ。ゴツゴツとした岩肌だけが見える。
痛みが消えた身体はとても熱い。だけど地面がその熱を奪っていて、後頭部は冷たい位だ。
何故、僕は横たわっているのだろう。
何故、僕は此処にいるのだろう。
「……思い出せない」
あの紫色の場所で邂逅した異常、八雲紫。彼女に首を絞められてからの記憶が無い。力ずくで絞め落とされたのか、はて。それにしても首には傷も血もついていない。勿論、血が乾くまで寝てたのかもしれないが。
まぁ、もっと思い出せない事は他にあって。
「……なんでコイツが此処にいるんだ?」
どうして見知らぬ場所で幽夜に腕枕ならぬ腹枕なんかしなければならないのか。なんだコイツは、インドの辺りの富豪か。
上半身を起こす。ゴツゴツした地面に寝てた所為か頭が少し疼く。
「…………」
起きている時にはコロコロ変わる表情も、眠っている時には穏やかだ。まるで凪いでいる海の様に。
だけど、その裏にはどんな思考が蠢いているか分かったものでは無い。考えと行動がここまで直結している人間は類を見ないだろう。
八雲との対話でコレを引き合いに出した時、何故か八雲の雰囲気はガラリと変わった。何か地雷を踏んだのかもしれないし、もしかしたら言い掛けた『水元』と言う名字に因縁でもあるのか。
確かに八雲はあの時『彼』と言った。だが幽夜は体型的には…………まぁいいとして、身体は間違い無く女だ。寧ろ男だったらぶん殴って解して並べて揃えて晒してって僕は何を言ってるのやら。
兎にも角にも、八雲の反感らしきものを買っちまったらしい。それでいて見知らぬ場所。となると、単純にだが答えが出る。
「ここが、幻想郷、か」
そうだ。秘封倶楽部の二人が研究していた場所であり、八雲曰く忘れ去られたモノの集う場所。
この答えが模範解答なのかは分からない。正解用紙も採点者がいないのだから。いや、もしかしたら――――――
「コイツなら分かる、か?」
今度は所謂膝枕状態で昏々としている幽夜。何故か現れた幽夜なら、ここがどこだか分かるんじゃないのか。希望的観測であるのは間違い無い。だが、どんな蜘蛛の糸よりも細い希望があるならすがりつきたいのが今。
「……起きろ、幽夜」
まずはデコピン。効果は無し。
「おい」
「……んぁ…………」
頬を抓る。身動ぎするけど進展無し。
「お、い、ゆ、う、や」
「ん〜…………ぐぅ」
ペシペシと叩く。逆戻り。
嗚呼そうか。彼女が起きるトリガーは『朝餉が出来る』だったか。道理で僕よりも起きるのが遅い訳だ。嗅覚だけで周囲を感じやがる。
けれど、まぁ。星空の下で(動いても話してもいないから)美しい女性と二人っきりなんてシチュエーションも悪くは無い。
役得と言うにはお先が真っ暗なのが障るが、今暫くはこうやって寝具の役目を甘んじているのもいいんじゃないか?