第七章 瞑想使い、魔法使いになる
大騒ぎの討伐戦が終わって、今日はのんびり魔法の練習です。
藤崎、ついに魔法デビュー!?
でも「詠唱? 杖? いらないよ」って言い出した時点で、
もう普通の魔法使いではない予感……。
翌日。
藤崎は魔法訓練所へ向かった。
宿を出る前にセラの様子を見に行く。
もうすっかり回復していたが、大事を取って今日は休ませることにした。
「呼吸できなくて苦しかったけど、急に楽になったのよね。どうやったの?」
藤崎は人工呼吸のことは黙っておいた。
「ハーシェスたちが来てくれたから介抱してもらった」とだけ伝え、宿を後にした。
「いらっしゃい。」
出迎えてくれたのはエランだった。
訓練所は町の外れにある小さな建物で、中は狭く、数人入ればいっぱいになる。
「君だけか?」
「そうよ。魔法使いって少ないの。聞いてない?」
「そういえばそうだったな。君が教えてくれるのか。」
「私も人に教えられるほどじゃないけど、他にできる人がいないのよ。」
聞けば、魔法使いはあまりに数が少なく、
学べる環境も整っていないため、王都の学校かギルド所属者から学ぶしかないという。
「学校?」
「この国で唯一、正式に魔法を学べる場所よ。合格すれば無料で学べるけど、入れるのはごく一部。」
「エランは受けたのか?」
「まさか。そんな能力ないわ。」
二人は訓練室に入った。
机が一つ、椅子が四脚。
エランが湯気の立つお茶を入れてくれる。
「おいしいな。」
「ありがとう。うちの店で売ってる茶葉よ。」
「店?」
「普段は雑貨屋をしてるの。魔法使いだけじゃ食べていけないのよ。」
「今日はローブじゃないんだな。」
エランは笑った。
「あれは戦闘用。普段はこんな格好よ。」
薄いブラウスに革のスカート。
昨日とは違い、柔らかな印象だ。
よく見ると、エランはかなりの美人だった。
明るい髪色に整った顔立ち。セラより少し年上に見える。
「じゃあ、そろそろ始めましょうか。と言っても、基礎的なことしか教えられないけど。」
「それでも助かる。魔法については何も知らないんだ。」
調整者の記憶にも、魔法の使い方はなかった。
「そうなの? 信じられない。あんなに魔力があるのに。」
「実は異世界人でね。こっちに来てまだ日が浅い。」
「へぇ、初めて見たわ。」
エランが顔を近づけてくる。
じっと見つめられると、さすがに藤崎も気恥ずかしい。
「異世界の人って、みんなそんなに魔力が多いの?」
「いや、私はちょっと変わってるんだ。普通は魔力なんて感じたこともないよ。」
「ほんと、変わってるわね。」
エランはまた笑った。
そこから講習が始まった。
魔法は、体内を流れる魔力を“感じる”ことから始まる。
それを意識して集め、増幅させる。
「使いたい魔法に応じて、詠唱する呪文が決まっているの。」
精神を集中し、呪文を唱えることで体内の魔力が反応し、魔法へと変換される。
それが基本の仕組みだ。
「実際にやってみるわね。」
エランはテーブルの上にろうそくを置いた。
少し離れたところから杖を構える。
「フレア。」
杖の先端から小さな炎が飛び出し、ろうそくに移る。
炎がゆらめく。
「魔法の強さは魔力の量によるって、もう知ってるわよね?」
「まあね。」藤崎は軽く笑った。
「やってみて。」
藤崎は杖を受け取った。
「フレア。」
……何も起こらない。
もう一度唱えても変化はなかった。
「どうしたの?」
藤崎は黙って考え込む。
なぜ発動しないのか。
「エラン、もう一度やってみてくれ。」
エランがお手本を見せる。
その様子をじっと観察する。
――魔力の流れは感じ取れる。
炎が生まれる直前、何かと融合しているようだ。
ふと、ひらめいた。
藤崎は立ち上がり、エランの背後に回る。
「失礼。」彼女の背に手を置く。
「このまま、もう一度お願いできるかな。」
「……分かったわ。」
藤崎は目を閉じ、瞑想の状態に入った。
掌からエランの体温が伝わる。
彼女の魔力の流れと、心に浮かぶイメージを読み取る。
「フレア。」
炎が灯る。
「何か分かった?」
藤崎はろうそくの芯をつまみ、火を消す。
そして一息ついて――
「フレア。」
次の瞬間、炎が再び燃え上がった。
「な、杖も無しで……どうやって!?」
「分かったんだ。魔法は、イメージと魔力だけで発動できる。」
エランが魔法を放つとき、彼女の心には“燃える炎”の鮮やかなイメージが浮かんでいた。
呪文はそのきっかけにすぎない。
「杖も呪文も、イメージを作るためのトリガーだ。
しっかりしたイメージがあれば、必要ない。」
「でも今、“フレア”って唱えたじゃない。」
「言った方が、なんか格好いいだろ?」
二人は顔を見合わせて笑った。
その後、いくつかの魔法を試した。
炎、氷、水、風。
どれも同じように再現できた。
「私が使えるのはこの四系統くらい。他にも毒や雷、物理系の魔法もあるけどね。」
「イメージさえ掴めれば、できそうだな。」
「話を聞いただけで再現したら、王宮の魔法使いたちはあなたを魔族だと思うわよ。」
「魔族?」
「遠い大陸に住む、人間に似たモンスター。知能が高くて魔法を使うの。」
「それは興味深いな。」
エランが、ふっと笑って近づいた。
「私、あなたに興味が出てきたわ。私とパーティーを組まない?」
「一応、セラがいるけど。」
「彼女は狩人で前衛職でしょ? 私は後方支援ができる。」
「なるほど。それは心強いな。」
「じゃあ決まりね。三人なら受けられる依頼も増えるし、私はD級だからサポートもできる。」
「助かるよ。」
エランは微笑んだ。
「細かいことは明日話しましょう。今日はこれくらいで。」
藤崎は頷いた。
「分かった。ありがとう。」
初めての魔法講習、なんだかんだで成功!
エランとのコンビも悪くなさそうですね。
次回は三人パーティー結成。
ハンター稼業、ますますにぎやかになります!




