第六章 初めての討伐
ゴブリン退治のはずが、まさかのB級モンスター出現!?
毒霧・炎・そして謎の瞑想パワー。
初の大規模戦闘、藤崎の冷静さが光ります。
木々の間から姿を現したのは、緑色の皮膚をした巨大なモンスターだった。
サンショウウオのような体躯。二本の後ろ足で立ち、眼は異様に大きい。
口は裂け、ぬらりと光る粘液が全身を覆っている。
「距離を取れ! 毒を吸うな!」
カイロスの声が響いた。
後方から矢が放たれる。しかし、粘液に弾かれて刺さらない。
「魔法部隊、攻撃開始!」
魔法使いたちが一斉に詠唱を始める。
杖の先端が光り、炎がほとばしった。
ヴェムトードの体を炎が包む。粘液が蒸発し、皮膚が焦げた――だが。
「効いていない。」藤崎はつぶやいた。
ヴェムトードの全長は六、七メートルはある。
この程度の攻撃では、焼け石に水だった。
焦げた部分はすぐに新しい粘液で覆われ、炎を防いでしまう。
次々と放たれる炎が空しく散る。
「くそっ、やはり魔法だけじゃ足りん! 同時攻撃を――!」
カイロスが指示を出しかけたその時、
ヴェムトードが頭を低く下げた。
「危ない!!」
長い舌が、鞭のように伸びる。
前方にいた魔法使いの一人が、その舌に巻き付かれた。
十メートル以上の距離があったにもかかわらず、あっという間に引き寄せられる。
ヴェムトードは大口を開け、獲物を飲み込もうとした。
カイロスが飛び出し、剣で舌を叩き切る。
衝撃で魔法使いは解放されたが、舌の切断までは至らなかった。
「おい、魔法はまだ使えるか!?」
「あと三回で限界です!」
「ちっ……!」
カイロスが剣を構え直す。
ヴェムトードは再び口を開け、今度は霧状の毒を吐いた。
毒霧が辺り一面に広がっていく。
「下がれ!!」
全員が後退した。包囲が崩れかける。
藤崎は魔法使いたちの方へ走った。
全員が魔力を使い果たし、息も絶え絶えの状態だった。
その中の一人――若い女性の魔法使いが、地面にうずくまっている。
「おい、大丈夫か?」
「ま……魔力切れで、体が動かない……。」
おそらく体内の魔力をすべて放出してしまったのだろう。
顔は真っ青で、震えが止まらない。
「仕方ない。」
藤崎はその背中に手を当てた。
冷たく、体温が下がっている。
目を閉じ、体内の流れを探る。
腹の奥――神経の中に、わずかに残る魔力が感じられた。
藤崎は自分の魔力をその体内に流し込む。
血流のように全身を巡るイメージを描きながら。
やがて震えが止まり、女性の呼吸が落ち着いてきた。
「あ、ありがとう……助かったわ。」
「君、名前は?」
「エランよ。」
「私は藤崎。協力してほしいことがある。いいかな?」
「私にできることなら。」
カイロスは毒霧を避けながら弓兵に指示を出していた。
しかし、効果は薄い。
舌の攻撃に対応するのがやっとで、戦況は膠着していた。
――このままではまずい。何か打開策を。
そう思った瞬間、カイロスのすぐ横を灼熱の奔流が走り抜けた。
轟音と共に炎がヴェムトードを包む。
「な、なんだ!?」
凄まじい熱気。
炎は毒霧を焼き払い、ヴェムトードの全身を一瞬で覆った。
粘液が蒸発し、皮膚が黒く焦げる。
「ぐああああああ!!」
ヴェムトードが咆哮し、のたうち回る。
再び、炎の奔流が放たれた。
今度は皮膚が炭化し、肉が爆ぜ、骨だけを残して崩れ落ちた。
静寂。
あたりに残るのは、焼け焦げた匂いと灰だけだった。
カイロスをはじめ、全員が呆然と立ち尽くしていた。
「成功だな。」
藤崎が姿を現した。その後ろにはエラン。
炎の源が自分たちだったと気づいた者たちがざわめく。
「ちょっと……どういうこと!? これ、何なの!?」
エランが混乱気味に叫ぶ。
「魔力の移譲だ。魔法の源が魔力なら、大量の魔力を注げば威力も上がる。理屈は単純だよ。」
カイロスが藤崎の方を振り向く。
まだ炎の残るヴェムトードを指差しながら。
「あれをお前がやったのか?」
「正確に言うと、私がエランに魔力を流し込み、彼女がそれを使って火炎魔法を放った。そういうことだ。」
「ヴェムトードをたった二発の火炎魔法で倒すなんて……A級、いやS級の威力じゃねぇか。」
「私、D級なんですけど。」エランがぼそりと言う。
「ま、まあ、討伐できたのは上出来だ。これでゴブリンの脅威も消えた。撤収の準備に入るぞ。……それと、藤崎。」
カイロスがじろりと睨む。
「ん?」
「話がある。町に戻ったら、俺の部屋に来い。」
町に戻ると、藤崎はカイロスの部屋に呼ばれた。
「お前、何か隠してるな?」
「いや、別に。」
カイロスが拳で机を叩く。鈍い音が響く。
「異世界人とはいえ、E級上がりが魔力を自在に操るなんて聞いたことがねぇ。
S級魔法使いでも難しい芸当だぞ。
それに、最初に報告のあった“銀龍”の件もだ。龍と遭遇して無傷で帰った人間なんていない。」
藤崎は少し考え、静かに口を開いた。
「説明しても理解してもらえるか分からないが、とりあえず聞いてくれ。」
「いいだろう。」
「私は“瞑想”という、精神を制御する技術を使っている。
意識を静め、世界の仕組みを観察する方法だ。」
「どういうことだ?」
藤崎は慎重に言葉を選びながら話を続けた。
「たとえば、私とギルマスは出会った。セラともそうだ。
これは偶然じゃない。“縁”があったから出会えた。
私の世界ではそれを“えん”と呼ぶ。関係の糸みたいなものだ。」
「ふむ……なんとなく分かるような。」
「じゃあ、その縁はどこから来るのか。
私は異世界人だから、この世界に知り合いなんていない。
それでも君やセラと繋がっている。
つまり、何か“見えない糸”が働いているんだ。」
「運命、ってやつか?」
「近いな。ただ、私はそれを“感じ取る”ことができる。
依頼主の記憶と、失くした品の間に流れる糸を辿るようにね。」
「だからあのチョーカーを見つけられたのか。」
「そう。縁を意識の中で結べば、答えが浮かぶ。
すべての出来事は縁で繋がっていて、それがある限り、関係は消えない。」
「……便利なもんだな。」
「いや、万能じゃない。関係がない相手のことは何も分からない。
たとえばギルマスが隠してることを探っても、私には見えない。」
「なるほど。」
「銀龍に会えたのも、縁があったからだ。
龍と私は、同じ“意識の深度”で会話できた。」
カイロスが目を見開いた。
「銀龍と……話したのか?」
「ああ。言葉ではなく、意識で。精神を繋いだ。」
「続けてくれ。」
「龍は私の力に興味を持った。だから見せたんだ。
龍もまた似た力を持っていて、互いの意識を重ね合った。
そして、その礼として鱗をくれた。」
カイロスは腕を組み、しばらく考え込む。
「魔力も“縁”で流れている……ということか。」
「その通り。私は魔力を引き寄せ、他者に渡すことができる。
あの火炎魔法は、エランの力が私の魔力で増幅された結果だ。」
カイロスは深く息をつき、真剣な顔で言った。
「このことを知ってるのは他に?」
「セラに少し話したけど、あまり理解していないと思う。」
「ならいい。あいつは単純だからな。」
カイロスは顎に手を当て、低く言った。
「この件は他言無用だ。お前のためでもある。
知られれば、厄介な連中に狙われる。」
「分かった。」
「俺の手には余る話だ。信頼できる筋に報告しておく。悪いようにはしない。」
「信頼してなければ、最初から話してないさ。」
カイロスが口元をゆるめた。
「討伐隊の中で、お前の力を見た者もいる。口止め料はお前の持ち金から出す。
それと……お前はD級に昇格だ。」
「金はいいけど、なんでランクアップなんだ?」
「魔力を自在に操り、D級魔法使いにS級魔法を撃たせた。
それでE級のままってのはおかしいだろう。」
藤崎は肩をすくめた。
「それともう一つ。魔法訓練所に参加しろ。」
「ちょうど頼もうと思っていたところだ。」
「いい心がけだ。魔力を操れるなら、正式に学んでおけ。」
「分かった。ありがとう。」
B級モンスターを一撃で討伐!?
どうやら瞑想は最強のバフ魔法だったようです。
でも本人はいたって冷静。次は魔法の修行編です。




