第四章 初めての依頼
いよいよ二人の初依頼!
内容は「無くしたアクセサリーを探してほしい」――地味!
けれど藤崎の瞑想スキルがあれば、きっと何とかなる……はず。
藤崎とセラは、巨大な屋敷の前に立っていた。
「どれだけでかいのよ、ここ……。」
敷地を囲む塀は金属製だ。この世界では金属というだけで価値がある。
門が開き、二人は屋敷の中へと足を踏み入れる。
玄関までたっぷり十分は歩いた。
庭は完璧に手入れされ、花々が色とりどりに咲き誇っている。
「こちらでお待ちください。」
案内されたのは応接室だった。
贅を尽くした装飾に圧倒され、どれだけの費用がかかったのか想像もつかない。
「お金って、あるところにはあるんだね。」
「特に金を持ってる人のところに集まるものだ。」
やがて扉が開き、車いすに座った老婆が現れた。
藤崎とセラは軽く会釈をする。
背後に控える執事が声を張る。
「ローゼンハイト当主、アメリア様でございます。」
二人は豪奢な椅子に座らされた。
メイドが静かにお茶を給仕する。
老婆が執事に何かを告げ、執事が通訳する。
「アメリア様は、依頼を受けてくださったお二人に感謝を伝えたいとのことです。」
さらに老婆がぼそぼそと口を動かし、再び執事が言葉を継ぐ。
「何か聞きたいことがあれば、遠慮なくお尋ねくださいとのことです。」
セラが口を開きかけたが、藤崎が軽く制した。
「失くされたのは、どのようなお品ですか?」
老婆が執事を通じて答える。
それは、夫から最初にもらったプレゼント――銀製のチョーカーだった。
燃えるような赤いルビーが嵌め込まれ、大切に保管していたという。
だが夫が亡くなった後、どこを探しても見つからなかった。
決して持ち出したことはなく、いつ失くしたのかも覚えていないという。
「情報が少なすぎるね……。」
セラが小声でつぶやいた。
「分かりました。お引き受けします。」
藤崎の返答に、セラが驚いたように目を見開く。
「えっ、受けるの!?」
アメリアは感謝の言葉を述べた。
「ひとつお願いがあります。ご主人との思い出の品、他に何かあれば見せていただけますか?」
藤崎の申し出に、アメリアは執事へ何かを指示した。
執事が部屋を出て、しばらくして戻ってくる。
手には小さな箱があった。
「結婚指輪だそうです。」
執事が箱を開けると、中には大粒のダイヤモンドが輝いていた。
銀色の台座に鎮座するその宝石は、目を奪われるほど美しい。
「すごい……。」
宝石に疎いセラでさえ、息をのんだ。
藤崎は無言でそれを見つめ続けた。
屋敷を出る前、廊下に小さな肖像画が掛けられていた。
執事に尋ねると、若い頃のご主人だという。
「イケメンですね。」
「……いけめん?」
執事が怪訝な顔をする。
「失礼。私の地方の言葉で、“素敵な男性”という意味です。」
それを聞いたアメリアが嬉しそうに微笑んだ。
「で、どうすんの?」
屋敷を出た帰り道、セラが尋ねた。
「何とかなると思うよ。とりあえず宿に戻ろう。」
まだ夕食には早い時間だったが、二人は早めに食事を済ませた。
「私はこれから部屋にこもる。明日の朝まで邪魔しないでくれ。」
藤崎はそう言い残し、部屋の鍵をかけた。
部屋の中は簡素なつくりだ。
テーブルと椅子がひとつ、ベッドとタンスがあるだけ。
階下からは、他の冒険者たちが酒を飲んで騒ぐ声が聞こえてくる。
「さて、やってみるか。」
藤崎はベッドの上で座禅を組んだ。
お尻の下に硬めの枕を入れ、背筋を伸ばす。
首を回し、何度か深い呼吸を繰り返した。
両手を組み、お腹の前に置く。
目を閉じ、鼻先に意識を集中する。
隣の部屋にはセラが横になっている。
階下の食堂では四人の男たちが酒を飲み、厨房には宿の主人と若い助手がいる。
五感の情報を一つずつ閉じていく。
聴覚、嗅覚、触覚……残るのは自分の“心の声”だけ。
さらにその声すらも消していく。
――“感じている意識”だけが残る。
藤崎は昼間に見たアメリアと、あの指輪を思い浮かべた。
その記憶だけを残し、他のすべてを消す。
アメリアと指輪が結びつき、細い糸のような光が立ち上る。
それは、持ち主と失せ物をつなぐ“縁”のイメージだった。
かつて藤崎は、同じようにして失せ物を探し当てたことがある。
その時も、持ち主と物を結ぶ“縁”を辿って見つけ出したのだ。
「……見つけた。」
藤崎は静かに目を開いた。
「依頼達成ですね。この依頼には特別報酬が付きます。藤崎さんはランクアップです。」
受付嬢の言葉に、藤崎の木札が金属製のタグに交換された。
セラも同時にランクアップしている。
龍の鱗ほどではないが、今回の依頼でも十分な報酬が出た。
それはギルドで預け、宿代や装備代に充てることにした。
「おばあさん、チョーカーを差し出した時、驚いて立ち上がってたよね。」
「そうだったな。まさか本当に見つかるとは思ってなかったんだろう。」
「でもさ、どうやって見つけたの? あんな場所に埋まってるなんて、誰にも分からないでしょ。」
「内緒だ。」
チョーカーは、屋敷の裏手にあるご主人の墓のそばに埋められていた。
許可を得て掘り返すと、丁寧に埋められた箱が出てきたのだ。
「前に言ってた“瞑想”ってやつの力?」
「そういうことにしておこう。」
瞑想の中で、藤崎は執事がチョーカーを箱に入れ、墓のそばへ埋める光景を見ていた。
それを命じたのは他ならぬアメリア自身だった。
――彼女は、夫との思い出が風化していくのを恐れ、
誰かにそれを“見つけてもらう”ことで、再び記憶に息を吹き込みたかったのだ。
だからこそ、ギルドに探し物の依頼を出した。
冷やかしでもいい、誰かが探してくれるだけでよかった。
だが本当に見つかってしまい、彼女は驚いたのだろう。
「……もしかすると、見つけない方がよかったのかもしれないな。」
数日後。
ギルドの掲示板に新しい依頼が張り出された。
「大切な指輪を探してほしい」という内容だった。
藤崎は立ち止まり、少しだけ見つめてから――静かに通り過ぎた。
どうやら瞑想にはGPS機能がついていたようです。
無事におばあさんの宝物を見つけて、初仕事完了!
次は少しハードな依頼に挑戦します。




