第二章 瞑想者、町へ行く
森で出会った少女・セラを助けた藤崎。
彼女の案内で向かった町サイルーンで、異世界の現実を知る――。
龍の鱗、ギルド、そして“人との縁”。
瞑想者の新しい生活が、ここから始まります。
女は自分の名をセラ・ノーランと名乗った。
怪我をしていたので、藤崎が手を貸してやる。
どうやら、龍を見て逃げ出す途中で足をくじいたらしい。
セラは駆け出しの新米ハンターで、最初の依頼である薬草採取のために森へ入ったという。
「そこで龍に出くわして逃げた。そして転んだ、ということか。」
「はい、まあ……そういうこと。」
セラは足をひょこひょこと引きずりながら歩く。かなり痛そうだった。
「提案なんだが、おぶっていこうか?」
このままでは森を抜ける前に日が暮れそうだ。
「え、いや、それはちょっと……。」
ためらうセラを無視して、藤崎はひょいと担ぎ上げた。
身長差が十センチ以上あり、セラは体格も軽い。
「しっかりつかまってくれ。」
それだけ伝えると、藤崎は歩き出した。
そのおかげで移動速度が上がり、ほどなくして森を抜け出せた。
セラの案内で、町へと続く道へ出る。
サイルーンという町まで徒歩で二時間ほどだという。
夕刻、ようやくサイルーンの門に到着した。
門番がセラに声をかける。
「どうしたんだい、セラ?」
「森の中で怪我しちゃって動けなかったの。この人に助けてもらったの。」
そう言って藤崎を指さし、事情を説明する。
ふつうは身分証明が必要らしいが、セラの同行もあり許可が下りた。
二人は無事に門をくぐる。
夕方の町は静かで、人影も少ない。
セラがギルドへ報告に行くというので、藤崎も同行した。
町の中心近くにあるギルドの建物は、大きく頑丈な造りをしている。
だが中に入ると、すでに人影はまばらだった。
この時間はみんな酒場か娼館に出払ってしまうらしい。
「ということで、これが収穫分です。」
セラはポーチから薬草を取り出してテーブルに並べる。
受付嬢がそれを数え、無事に納品が完了した。
報酬を受け取り、ついでに龍の目撃報告も行う。
龍はめったに姿を見せないため、見かけた者は必ず報告する義務があるという。
「報告書って書いたことある?」
セラは困ったように笑う。
彼女は読み書きができなかった。この世界では、それが普通なのだ。
文字を扱えるのは、王侯貴族か裕福な商人くらいだという。
「セラの言葉どおりでよければ、私が書こうか?」
「ほんと? 助かる~。代筆頼むとお金がかかるのよね。」
幸い、藤崎はこの世界の文字と知識を転移時に与えられていた。
彼は隣のテーブルに移り、手渡された羊皮紙と古びたインクペンで報告書を書いた。
それを受付に渡して、報告は完了した。
「あ、そうだ。あれを査定してもらったら?」
セラに促され、藤崎は銀龍の鱗を取り出す。
受付嬢の目が見開かれ、声を上げた。
「ぎ、銀龍のうろこですかっ!?」
その大声に、セラが慌てて周囲を見回す。
幸い、近くには二人以外誰もいなかった。
「声がでかい。それで、買い取れるの?」
藤崎の代わりに、セラが交渉に入る。
なぜか主導権を握っているが、任せてもよいだろうと藤崎は思った。
「少々お待ちください。ギルマスに報告します!」
受付嬢はうろこを持って階段を駆け上がっていった。
その直後、階上から野太い怒鳴り声が響く。
「銀龍のうろこだと!!」
どたどたと重い足音が近づいてくる。
現れたのは、体格の良い隻眼の中年男だった。
「こいつの持ち主はお前か? 俺はギルドマスターのカイロスだ。」
「藤崎だ。」
カイロスは藤崎の持つ鱗を手に取り、しげしげと眺める。
「悪いが、これは買い取れねぇ。査定はできるが、買うだけの金がないんだ。」
「町ひとつ買える価値があると聞いた。」
「その通りだ。だから売るならオークションに出すしかない。
そこなら貴族や王族も参加する。高値で買われるだろう。」
「なぜそんなに価値がある?」
藤崎の問いに、カイロスはあきれたように眉を上げた。
「決まってるだろ。こいつで“エリクサー”が作れるんだ。
死にかけでも治る万能薬。寿命まで延ばせると言われている。
王族や貴族が血眼になって探してる代物だ。」
「なるほど。それでどうすればいい?」
「お前、ハンターか?」
「いや、異世界人だ。」
「……は?」
そこから藤崎は事情を説明した。
別の世界で暮らしていたが事故で死に、
“調整者”と名乗る少女に言われてこちらの世界へ来たのだと。
カイロスは腕を組み、少し考え込んだ。
「異世界人か。前例がないわけじゃねぇが、そうなると身分証明から始めなきゃならん。」
受付嬢が説明を加える。
「オークションには身分やランクの証明が必要です。参加者の品位と支払いを保証するためです。」
「仕方ないな。おい、ハンター登録を出してやれ。F級だ。」
受付嬢が羊皮紙と小さな木の札を持ってくる。
「ここにサインを。これでギルド所属のハンターとして登録されます。
こちらがランクタグです。」
「わたしと一緒だね!」
セラが胸元から自分のタグを取り出して見せた。
「F級ではオークションに参加できない。最低でもD級、できればC級が望ましい。」
「どうすれば上がる?」
「依頼を受けて達成すればいい。」
カイロスは藤崎に言う。
「泊まる場所もねぇだろ。裏手の宿を使え。ギルドが経営してる。
この鱗を担保にすりゃ、好きなだけ使えるようにしてやる。
装備を整えるなら商店街に行け。ギルドのつけが効く。」
「分かった。いろいろ世話になる。」
「この世界は初めてだろう? 分からないことがあったら受付に聞くか、セラに頼め。」
「私が引き受けるよ!」
セラが勢いよく答える。
「じゃあ明日は町を見て回れ。必要なものをそろえるんだ。
何かあったら受付に言え。俺に届くようにしておく。」
「恩に着る。」
時間も遅くなったので、その日はそれで解散となった。
鱗は安全のためギルドに預けることにする。
セラの助言によれば、手癖の悪い連中が多く、ギルドが一番安全なのだ。
銀行のような仕組みもないため、それが最善だった。
藤崎は預かり証を受け取り、静かに宿へ向かった。
龍の鱗が“町ひとつ分の価値”とは、なかなかの衝撃。
そしてセラとの出会いが、藤崎に初めての“仲間”をもたらしました。
次回は、初めての依頼。
瞑想者がどうやって依頼をこなすのか――お楽しみに。




