第二十三章 金こそ正義
藤崎、ついに“銀行”を作ります。
アーロンは相変わらず仕事の山に埋もれていますが、
そんなのお構いなしに藤崎の改革は次の段階へ。
「金の流れを押さえた者が勝つ」――そんな章の始まりです。
さて、国はどう動くのか。気楽にどうぞ。
「なんだって?」
アーロンが思わず聞き返した。
藤崎は淡々と告げる。
「銀行を作る。」
アーロンの執務室。
机には山のような書類が積み上がり、彼の疲れがそのまま形になっているようだった。
「……今、俺が大変だってことは知っているだろう?
自由貿易都市と王都の間で膨れ上がった商取引、税の計算、物流の安全確保、領地の経営、法律整備……。
どれも重要だ。」
アーロンは苦笑混じりに肩をすくめた。
「だが、お前の言う“銀行”が、どう関係するんだ?」
藤崎は一歩前に出て、机の上の地図を指でなぞった。
「一番重要なのは“お金”だよ。これが滞れば、全部が破綻する。そこで、銀行を使って“お金の流れ”を肩代わりするんだ。」
アーロンは眉をひそめた。
「金の流れを……銀行が?」
藤崎は頷き、説明を続ける。
「リュセリアと王都の間では、大量の物流があるよね。
本来、その都度“現金”を運ばないと決済できない。
でも銀行が送金を引き受ければ、現金を運ぶ必要がなくなる。」
「税金も同じ。徴収した金を、危険を冒して運ぶ必要がなくなる。
銀行間送金で安全に集めればいい。」
藤崎は簡易的な図を描き、店舗間送金システムの仕組みを示した。
「これなら現金輸送の護衛も不要だし、取引は劇的にスムーズになる。」
アーロンは腕を組み、しばらく黙考した後、疑問を口にする。
「……理屈は分かった。だが、“実際の金”はどう運ぶんだ?」
藤崎はにっこり笑った。
「運ばないよ。」
アーロンはポカンとした。
「……え?」
藤崎は説明を続ける。
「各支店が十分な現金を保有していれば、それでいい。
リュセリアで預けた金は、王都支店で引き出せる。逆も同じ。」
「実際のお金を動かさなくても、“同じ人物(同じ経営者)が管理する支店”なら帳簿だけ合わせれば成り立つんだ。」
アーロンはようやく理解したように頷いた。
「つまり……どこで預けても、別の支店で引き下ろせる。
支店同士はすべて、お前が経営しているわけだからな。」
「そういうこと。支店ごとに帳簿の数字が一致していれば、実物の移動はいらない。」
アーロンは深く息を吐き、決意を固めるように机を叩いた。
「分かった。俺の領地内とリュセリアでの銀行業務を許可しよう。……だが、王都だけは簡単にいかんぞ。」
藤崎はいたずらっぽく微笑んだ。
「大丈夫。そっちは手を打ってある。すでに陛下から許可をもらっているよ。」
アーロンは目を丸くし、そしてすぐに苦笑した。
「いつの間に……。
さては、ずいぶん前から準備していたな?」
藤崎は肩をすくめる。
「まあね。じゃあ、さっそく準備を始めてくるよ。」
アーロンは藤崎が出ていく背中を見送りながら、小さく呟いた。
「……まったく、とんでもない奴だ。」
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リュセリアと王都に、ローデリア王国初となる銀行が開設された。
開業初日から話題は王都中に広がった。
アーロンの領地とリュセリア自由貿易都市から徴収した税金は、
これまで護衛をつけて運ぶ必要があった。
盗賊や野盗のリスクは常につきまとう。
しかし今は――支店に預けるだけで、自動的に王都の口座へ送金される。
さらに商取引も、現金のやり取りを必要としないため安全性が大幅に向上した。
「おい、聞いたか? 銀行に金を預けると“利子”をくれるらしいぞ。」
「今までは運ぶだけで護衛代がかかったのに、逆に儲かるって話だ。」
「しかもよ、預けた次の日には、別の支店で引き出せるんだと!」
利に敏い商人たちは、すぐさま銀行の仕組みを理解し、次々に利用を始めた。
気づけば、各支店の預金額は日に日に雪だるま式に増えていく。
預金が増えるほど、帳簿と口座の管理は膨大になる。
金利計算、支店間の残高調整――どれも高度な知識が必要だった。
そこで藤崎は、これまで運営してきた学校の卒業生を銀行スタッフとして採用した。
読み書き、計算、帳簿の扱い。
藤崎が教えた“近代的な知識”を身につけた彼らは、想像以上に優秀だった。
支店間の連絡には、改良した魔法通信を用いている。
元々は軍事や国家の極秘通信にしか使えなかった高価な魔道具だ。
「一般人が手を出せる代物じゃないけど……まあ、要は使い方だ。」
エランに魔力集中の瞑想を教え、
その魔力で魔道具を稼働させる仕組みをつくり上げたのだ。
これは藤崎とエランだけが知る“絶対に漏らせない技術”。
アーロンにすら教えていない。
「……支店が増えたら、さすがにエラン一人じゃ無理だな。
その時はまた別の方法を考えるか。」
藤崎は窓の外を見つめながら、小さくつぶやいた。
安全に資金を移動できる――
その事実が知れ渡ると、各地の貴族たちから口座開設の依頼が殺到した。
藤崎は特に制限を設けず、誰でも口座を開けるようにした。
利子が付くと知るや、貴族たちは屋敷の金庫に眠らせていた膨大な金貨・銀貨を銀行へ預け始める。
自宅に保管しておくより安全なうえ、預けているだけで金が増える。
これほど魅力的な話はない。
表では互いを牽制しあう第三皇太子派閥の貴族たちも、
そしてセレーネ王女の取り巻きですら、
“こっそりと”銀行を利用していた。
誰よりも先に富を増やしたい――
その欲望だけは、どの派閥の貴族であっても同じなのだ。
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貴族たちは、銀行に金を預けるだけで利息がつくことに驚いていた。
「なぜ預けただけで金が増えるのだ?」
「まさか魔法か? いや、そんなはずは……」
しかし誰一人、理由を深く考えようとはしなかった。
“自宅に置いておくより安全で、しかも増える”
――それだけで十分だったのだ。
アーロンですら、藤崎が銀行を作った本当の目的まで理解していなかった。
そして藤崎は、ついに銀行の本命――
“融資” を開始した。
まず対象としたのは、地道に商売を続けながら、資金さえあれば大きく伸びるはずの商人たち だった。
リュセリアに支店を開いて数日。
藤崎の元には、早くも相談が寄せられる。
「本当ですか? 事業資金を……貸していただけると?」
小規模商会の主が、震える声で藤崎に尋ねた。
藤崎は頷いた。
「ええ、金利は高くありません。返済計画もこちらで作ります。ただし――」
藤崎は、貸し倒れ保険の説明をした。
融資額にはあらかじめ“保険料”が含まれており、万が一返済不能になっても銀行が損をしない仕組みだ。
商人は大きく息をついた。
「それなら、安心して借りられます……!」
彼は小さな馬車と追加の商品のための資金を借り、取引先を一つ増やすことに成功した。
その成功が、あっという間に商会仲間に伝わる。
「藤崎銀行で資金を借りたら、事業が二倍になったらしいぞ。」
「しかも審査が早い。翌日には資金が用意されていると。」
「貸し倒れ保険? そんなものまで用意しているらしい。」
小口融資の利用者は日に日に増えた。
帳簿を扱える学校卒業生たちは連日フル稼働だった。
やがて融資額は預金額を大きく超えるようになった。
銀行、大成功でした。
貴族から商人まで、全員が“利子”に飛びつくとは……この国は本当に分かりやすいですね。
そして藤崎の本命、ついに“融資”が始まりました。
ここから経済の流れが一変していきます。
次の章はさらに加速しますので、ゆるっとお付き合いください!




