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第二十章 王の間にて

王宮での叙勲式に藤崎が初参加。

アーロンは大出世、藤崎も男爵位を授かります。

ただ、王族からの視線がまあ重い……。


さて、面倒ごとの始まりです。

王宮に到着した。

深紅の絨毯が敷かれた石段を前に、藤崎とアーロンは馬車を降りる。


途端に、周囲からいくつもの視線が突き刺さった。

貴族、騎士、侍従――場所柄、無礼のないよう表情を保ってはいるが、その目には明らかな興味が宿っている。


(……もう顔が知られてるのか。)


「有名人はつらいな。」

藤崎が小声で言う。


「誰のせいだろうな。」

アーロンは淡々と返すが、どこか楽しげだった。


二人は足早に宮殿の中へ入った。


------------------------------------


控室で軽く作法の最終確認をしていると、レナードが姿を見せた。

深い藍色のローブに金糸の刺繍。王宮魔法研究所の長としての正装だ。


「おお、来たか、藤崎。ご苦労だったな。」

レナードは穏やかな笑みで近づいてきた。


藤崎が礼を取ると、レナードは言葉を続けた。

「陛下を救ったこと、まずは心より礼を言う。叙勲も当然のことじゃ。」


アーロンも頷く。

「この国にとって、お前の功績は計り知れん。」


「でも私よりはアーロンの功績の方が大きいと思いますけどね。」


「俺が何も受け取らいないと思うか?」


「あ、そうなのか。」


三人はしばし談笑し、緊張をほぐすように言葉を交わした。

やがて侍従が知らせに来る。


「皆さま、謁見の刻が迫っております。」


アーロンとレナードは王の近く、正面横の列へ。

藤崎は指示されたとおり、謁見の間のいちばん後方へ向かった。


--------------------------------------

叙勲式が始まった。


王の背後に揺れる巨大な王国旗が、静かにその場の威厳を語っている。


侍従長が巻物を開き、声を張り上げた。最初の叙勲該当者が読み上げられる。


「ヴァルディア侯爵、アーロン・バルディア卿。前へ。」


アーロンが静かな足取りで進み出ると、

王はしばし彼を見つめ、それから重々しく口を開いた。



「アーロンよ。

そなたが古の万能薬“エリクサー”を復元し、王国の命運を救った功績――

これは王国史に刻まれる偉業である。」


侍従が銀盆を差し出す。

中央には、星の意匠を刻んだ金の勲章――王国星章。


「そなたの功績を称え、ここに王国星章を授与する。」


「星章だと……!」

「最高位の勲章……十年に一度あるかないかだぞ……」


ざわめきが広がる。

レナードは穏やかに微笑み、

藤崎もその重さに思わず息を呑んだ。


アーロンは恭しく受け取り、深く頭を下げる。



「次に、そなたの労に報いるため、王国財務局より相応の金子を下賜する。」


周囲の貴族たちは頷き合う。

これは比較的“形式に沿った”褒賞だ。


「当然のことだ。」

「王の命を救ったのだ、金で済むなら安い。」


そう囁く声もあるが、嫉妬と羨望が隠しきれていない者も多い。



王はわずかに姿勢を正し、最後の褒賞を告げ始めた。

その声は、会場を震わせるほどの重みを帯びていた。


「そして――

ヴァルディア領の西隣に広がる肥沃な地を、そなたの直轄地として加増する。」


場が揺れる。


「また、加増地に隣接する王領“自由貿易都市リュセリア”については――」


貴族たちの視線が王に集中する。


「その自治権は王領として維持するが、都市の管理権をヴァルディア侯爵家に委ねる。」


謁見の間が、爆ぜたようにざわついた。


「リュセリアの管理権だと……!?」

「大陸貿易の要衝が、実質ヴァルディアの手に……!」

「王領のままとはいえ、管理を任せるとは……これは相当な信頼の証だ……!」


アデル派の貴族たちは慎重に表情を整えつつ、

その意図を読み解こうと視線を交わす。


グレイ派は露骨に青ざめ、

セレーネ王女の側近たちは無言で情報を整理していた。


アーロンが、この瞬間 “政治の中心” に押し上げられた。

誰の目にも明らかだった。


王はゆっくりと補足する。


「リュセリアは王領のままとする。

しかし、その運営・商業の管理については、

そなたの采配を信頼し、任せたい。」


王領を渡すわけではない。

しかし“実務の統括”を任せるということは、

商業・外交・国防などの重大な裁量がアーロンに集中するという意味だ。

これがどれほどの信認を表しているかは言うまでもなかった。


アーロンは深く膝をつき、静かに頭を垂れた。


「陛下のご厚恩、身に余る光栄。

リュセリアは国の要。

その責任、決して軽くはございません。」


ゆっくり顔を上げる。


「この身が尽きるまで、王国の繁栄のために力を尽くしましょう。」


その堂々たる姿勢に、

貴族たちは反論もできず、ただ息を呑むばかりだった。



藤崎は一番後方でその光景を眺めていた。


(大したものだ。)


勲章、金子、自由貿易都市の管理運営――

この世界の貴族制度について詳しくない藤崎にも、

それがどれほどの恩賞かは十分理解できる。


(こりゃあ……敵も味方も増えたね。)


アーロンが立ち上がった瞬間、

貴族たちの視線が一斉に――まるで獲物を見るように――彼へと注がれた。


愛想笑い、計算、嫉妬、尊敬、恐れ――

それぞれの思惑が複雑に絡み合っている。


その横顔を見ながら、藤崎は思った。


(王宮ってのは……ほんとに恐ろしい場所だな。)


------------------------


次々と叙勲が進んでいく。

重厚な空気の中、貴族たちは粛々と王の前に進み、授与の言葉を受けていった。


アーロンの褒賞発表による衝撃がまだ会場に残っている。

ざわめきは沈静化しているものの、どの顔もどこか上気していた。


そして――


侍従長が最後の巻物を開いた。


「最後に――

サイルーン冒険者ギルド所属、藤崎悠真。」


その瞬間、謁見の間に流れた空気がわずかに変わった。視線が集中する。


軽く目を閉じ、一瞬で半瞑想状態へと移行した。周囲の喧騒が気にならなくなる。


(瞑想をやっていて良かったと、今ほど思ったことは無いな)


藤崎は歩き出した。

アーロンのような風格はないが、しっかりとした足取りだ。


王の前まで進むと、藤崎は静かに膝をつき、頭を垂れた。


王は藤崎を一瞥し、深く頷いた。


「藤崎悠真。

そなたはヴァルディア侯爵と共に“エリクサー”を完成させ、

ひいては王国の安寧を守った。」


王の声音は、アーロンのときよりもやや柔らかかった。

異世界人である藤崎への個人的な興味と好意がにじむ。


「本来、王命に関わる大事業に平民が携わることはない。

だがそなたの働きは、その例外となるに値する。」


ざわり、と貴族たちが微かに揺れた。


(平民とか言われたの初めてだな……まあ、そうか。)


王は侍従から巻物を受け取り、厳かに宣言した。


「ここに、そなたへ“一代限りの男爵位”を授ける。

領地は持たせぬが、名誉は真の貴族に勝る。」


「ははっ。」

藤崎は頭を垂れたまま答えた。


貴族たちの反応は、一様ではなかった。


「平民にいきなり男爵位……?」

「いや、命を救った功績を考えれば当然だろう。」

「領地なしなら危険は少ない。妥当な落としどころだ。」


表情には複雑な色が混じっている。

興味、警戒、見極め――あらゆる視線が藤崎の背へ降り注ぐ。


王は続けて言う。


「また、褒美の金子を授ける。受け取りはギルドを通すがよい。」


「ありがたき幸せにございます。」


藤崎が顔を上げたとき――

視線が合った。


玉座の左に立つ青年、第一皇太子アデル。

その眼差しは柔らかくも、藤崎の力を値踏みしているようだった。


右側の第三皇太子グレイは、

どこか楽しむような、獲物を観察するような表情。


そして王女セレーネ――

彼女は微笑みを浮かべたまま、じっと藤崎を見ていた。

その微笑が何を意味するのか、まったく読めない。


王が静かに告げた。


「藤崎よ。

この国に来て間もない身でありながら、よくぞ働いた。

そなたの才覚、確かに受け取ったぞ。」


深い、王としての了承の言葉だった。


「――はっ。」

藤崎は再び頭を垂れ、ゆっくりと下がった。


背中に刺さる視線は、最後まで消えなかった。


侍従長が高らかに宣言する。


「以上をもって、本日の叙勲を終了とする。

引き続き、晩餐会の席へお移りください。」


楽団が静かに奏を始め、

人々が左右の扉へと流れ始めた。


藤崎は大きく息を吐く。


(……やっと終わった。)


背後からアーロンが近づく。

「よくやった。完璧だったぞ。」


「ありがとう。自分でも上出来だと思う。」


「いろいろな意味で顔を知られたけどな。」


レナードもにんまりと笑う。

「ようやったな、藤崎。これからが本番じゃぞ。」


藤崎はその言葉に、うっすらと寒気を覚えた。


(そうなんだよな。何も終わっちゃいない。)


-------------------------------------


豪華な宴会場へ移動すると、貴族たちのざわめきが一層濃くなった。

魔法の燭台がゆらめき、楽団が静かな旋律を奏でる。


アーロンと藤崎の元にはひっきりなしに貴族が挨拶に伺う。

今日の主人公は間違いなくこの二人だった。


「全員の名前なんか覚えられないね。」

「気にすんな。何かしらのつながりが持てれば良いと思ってる連中だ。こっちが覚える必要はない。」


その時、会場の雰囲気が変わった。


アーロンが、藤崎に耳打ちする。

「……来たぞ。」


その視線の先、黄金の扇を手にゆっくりと歩み寄る赤いドレスの女性。


場の空気が一瞬で張り詰めた。


セレーネ王女が微笑む。

「これはこれは、お久しゅうございます。バルディア公。」


アーロンも丁寧に頭を下げる。

「セレーネ様こそ、変わらずお美しい。」


「毒にも薬にもなる言葉じゃのう。」

王女はくすりと笑い、藤崎へ視線を向けた。


「そなたが――藤崎か。」


藤崎は沈着に胸へ手を当てて礼を取る。

「はじめまして、セレーネ殿下。」


「此度は父の命を救ってくれたこと、心より感謝する。」

声は穏やかだが、奥に氷のような光が潜む。


「もったいなきお言葉にございます。

この国に滞在する身として、務めを果たしたまで。」


「殊勝な心がけよのう。」

セレーネはうなずき、扇をゆらゆらと揺らした。


そして――唐突に切り込んだ。


「ところで、わらわが送った手紙……読んでくれたかえ?」


アーロンの目が「来たぞ」と告げる。

藤崎は内心で短く息を整えた。


(いきなり本題か。)


「王女様からの手紙とは露知らず、戯れかと思い……

気に留めずにおりました。不躾をお許しください。」


「よいよい。それで良いのじゃ。」

王女は笑った――だが、その目は笑っていない。


「ただ……あれについて、何か返事があるかと思ったのじゃが。

どうやら“無さそう”じゃのう。」


藤崎は顔色一つ変えずに答える。


「陛下のため、私はすべてを差し出しました。

手紙の中身に応えることは、ございません。」


「ふむ。」

短い一言。だが場全体に冷気が走った。


セレーネは軽く背を向け、扇をぱたりと閉じた。


「……残念じゃ。

まあ良い、また話す機会もあろう。」


そして、アーロンへ一瞥。


「公。今宵は良き宴であれば良いのう。」


「もちろんですとも。」

アーロンはにこやかだが、背筋は張り詰めている。


王女が離れていくと、周囲の貴族たちがざわめきを押し殺した。

藤崎は水を口に運びながら、静かに呟く。


「……まさか王女様からの手紙だったとはね。」


アーロンが低く答えた。


「だが、切り返しは上出来だ。

あの場で手紙に言及したのは、試されたな。」


「動揺を誘ったつもりなんだろうけど。」

藤崎レベルの瞑想修行者にとって感情を切り離すことは児戯に等しい。


とりあえず、第一関門は無事に通過できたようだ。


晩餐会場は、金箔のシャンデリアと華やかな楽団の音色に満ち、

先ほどまでの緊張感が嘘のように、柔らかな空気が漂っていた。


とはいえ、

貴族たちは獲物を探す肉食獣のように目を光らせている。

誰が誰と話すか、その組み合わせすら政治の一手だ。


藤崎はアーロンとレナードの近くに立ち、

軽食をつまみながら周囲を観察していた。


急に周囲の空気が変わった。

貴族たちが道を開けるように左右へ散っていく。


「アデル皇太子だ。」アーロンが藤崎に囁く。


アデル皇太子は穏やかな微笑を浮かべていた。

黒に金糸を織り込んだ正装を纏い、威圧感はあるが紳士的だ。


「アーロン。良い夜だな。」


「アデル殿下。ご機嫌麗しく。」

アーロンが丁寧に頭を下げる。


アデルは藤崎へ視線を向けた。


「君が……藤崎と言ったな。父を救ってくれたこと、心から感謝する。

王国にとって、いや我が家にとっても大きな恩義である。」


藤崎は素早く礼を取った。

「もったいないお言葉です、殿下。私はできることをしただけです。」


アデルは満足げにうなずき、アーロンに話題を移す。


「アーロン。エリクサーの件、改めて見事であった。

あれがなければ王国全体が混乱しただろう。」


「陛下のお命に関わること。全力を尽くしたまでです。」


ワインを手にしながら、アデルは軽く世間話を挟む。

研究所の近況、貴族院の動き、街の市況――

彼は政治を知り尽くす男だった。


そして話題は再び藤崎へ。


「それにしても、異世界から来たという話……信じ難いが、どうやら真実らしいな。」


「はい。一応……。」

藤崎は曖昧に笑う。


「戦いや魔法でも見事な活躍をしていると聞く。

君のような者がこの国に来てくれたこと、私は幸運だと思っている。」


言葉は誠実で、敵意を感じない。

――だがその眼の奥には、藤崎の“価値”を冷静に測る意識があった。


(まあ……そうだよな。)



ふいに喧騒が消えた。誰かが近づいてきたのが分かる。


漆黒の軍服、鋭い目つき。

第三皇太子グレイが、周囲の空気を押しのけるように登場した。


「第一皇太子殿下もおそろいとは、珍しいな。」

声には皮肉が混じっている。


アデルが微かに笑う。

「祝いの席だ。来ないわけにはいかない。」


グレイはアーロンへ視線を移す。

「ヴァルディア侯。王を救った手腕、見事だ。

……まあ、できすぎていて逆に怖いがな。」


アーロンが口を開きかけたが、藤崎が先に軽く頭を下げた。


「ありがとうございます。みんなで協力した結果です。」


グレイはぴたりと動きを止め、藤崎を見た。

その目には“値踏み”がはっきりと浮かんでいる。


「お前が藤崎か。……変わった力を持っているらしいな。」


アーロンが横からたしなめるように言う。

「殿下、そのような言い方は――」


「構いませんよ。」

藤崎は穏やかな声で言った。

「出身が特殊なのは事実ですし。」


グレイは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべ、

すぐに口角をわずかに上げた。


「度胸はあるようだな。

……まあ、王の命を救った男だ。覚えておこう。」


言葉は褒めているようで、

まるで“どう扱うか考えている”と言わんばかりだ。


アデルも淡々と話を締めくくった。

「では、我々はこれで失礼しよう。

今夜は多くの者が君に会いに来るだろうからな。」


二人は軽く会釈し、別方向へ歩いていった。

背中には、各々の思惑が滲んでいた。



「……今のは完全に様子見だな。」

アーロンが低い声で言った。


藤崎は軽く息を吐く。

「まあ、予想してましたけど。」


レナードがワイングラスを掲げながら笑う。

「気にするな。今日の殿下方は、礼儀として姿を見せただけじゃ。

本当の探りは……これからよ。」


藤崎はグラスの底を見る。


(これから……ね。勘弁してほしいな。)


晩餐会はまだ始まったばかりだった。


貴族たちからの挨拶攻撃も一通り終わり、三人はくつろいだ雰囲気で談笑していた。


そこに王の側用人が現れ、レナードへそっと耳打ちする。


「どうした?」

アーロンが尋ねる。


「陛下がお呼びじゃ。わしら3人に会いたいそうじゃ。」



なんとか叙勲式を乗り切った藤崎たち。

でも安心している暇はありません。

晩餐会には、あの王女も来ますからね。


次回はさらに一波乱、どうぞお楽しみに。

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