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第十九章 忍び寄る影

王が回復したことで、王都は一見平穏を取り戻したように見えます。

けれど、その裏ではむしろ“権力の火花”が一気に強まっていました。


そんな中、藤崎のもとへ届いた一通の手紙。

それは、嵐の前触れでした。

「王様の体調はどう?」

藤崎がアーロンに尋ねた。


「医者の見立てでは、あと数年は問題なく過ごせるだろうと言うことだ。」

アーロンは答えた。


エリクサーは万能回復薬ではあるが、人間の寿命そのものを超えることはできない。

それが限界でもあった。


「それだけでもすごいことなんだが、おかげで大変だよ。」

アーロンが苦笑する。


「エリクサーを分けてくれという要望が、次から次へと来ている。

国内の貴族、大商人、聖職者……金と権力を持つ連中はほとんど全部だ。

国外からも問い合わせが来ている。各国の大使も面会を求めてる。」


「当然だよな。頑張ってくれ。」

藤崎の声には、少しからかいが混じっていた。


「何を他人事みたいに。おまえのところにも来てるんだぞ。

俺が止めてるからいいが、そうでなかったら町中を歩くことすらできなくなる。」


「それはまいったな。雲隠れでもしようか。」

藤崎が肩をすくめる。


「謁見は逃げるなよ。許さんぞ。」

アーロンの声は笑っていなかった。


あれから毎日、藤崎は屋敷の使用人と執事による特訓を受けていた。

動作、口調、礼儀作法――王の前に立つために必要なものすべてだ。


(ほんと、早く終わってほしい……)

藤崎は心の中でため息をつく。


本来ならセラとエランも同席する予定だったが、王の体調を考慮し、謁見に出るのは藤崎一人となった。

付添人はアーロンだ。


王が回復したことで王位争いはいったん落ち着いたものの、水面下ではむしろ火花が激しくなっている。

これからが本番だろう。

そいつらと顔を合わせる――そのほうが気が重い。


その夜。

藤崎は一人、部屋で瞑想していた。


静寂の中、廊下を忍ぶように歩く足音が近づいてくるのを感じた。


(セラやエランなら、もっと堂々と歩くはずだ。……女性、か?)


足音はドアの前で止まり、しばらくして遠ざかっていった。


目を開けると、ドアの隙間に一通の手紙が差し込まれていた。

取り上げると差出人名はなく、香水の匂いだけがかすかに残る。


封を切る。

上質な便箋に優雅な筆跡が並んでいた。


「銀龍のうろこに隠された秘密をお知りになりたかったら、下記の住所へ。」


王都の商店街にある住所が記されていた。


「……どういうことだ?」

藤崎が低くつぶやく。


カイロスの忠告で“銀龍のうろこは一枚だけ”とアーロンに伝えてある。

作ったエリクサーも“王専用”と発表させた。

そのおかげで、エリクサーを求めて殺到する者は激減した。


だが――もし別のうろこがあると知られたら?

どんな陰謀に巻き込まれるかわからない。


モロドゥラの幼虫に食われた兵を救うため、エリクサーはまだ必要だ。

一本で足りなければ、もう一度作らねばならない。

そのときはアーロンに事情を話すしかない。


問題は、この手紙だ。

のこのこ出かければ、「まだ持っている」と白状するようなものだ。


藤崎は手紙を折りたたみながらつぶやく。


「……どうするか、だな。」


王都から一台の馬車が滑り出た。

護衛の騎兵を伴い、ヴァルディア侯爵家の紋章を掲げている。


「しかし、板バネってのはすごいものだな。乗り心地がこんなに良くなるとは。」

藤崎は感心したように言う。


アーロンも頷く。

「今までだったら会話すらできなかったが、これなら密談もできる。」


「実はそれが目的なんです。」

藤崎は手紙を取り出し、アーロンに渡した。


アーロンは黙って読み、眉を寄せた。


「なるほどな。で、どうする気だ?」


「部屋で受け取った。使用人の中に手紙の差出人とつながっているのがいるね。」


「ありえるな。」

アーロンが重く頷く。


「屋敷の中で話すのは危険だった。だから外へ出たんだよ。」

「新しい馬車の実験なら、二人で乗っていても不自然じゃないからな。」


藤崎は深呼吸し、切り出した。口調も改める。

「お願いがあります。エリクサーのレシピを教えてください。」


アーロンは一瞬沈黙し、次にゆっくり息を吐いた。


「そうか。そういうことか。」


「はい。だまして申し訳ありません。」


「いや、いい。あの時はそれが最上の判断だ。俺が君の立場でも同じことをしただろう。」

藤崎は黙って頭を下げた。


「で、どうするつもりだ?」

「しばらく様子を見る。こちらから動けば相手の思うつぼだからね。」


「それが良い。相手をじらして誘い込むんだ。そうすれば目的も見えてくる。」


馬車は優雅に方向を変え、王都へ戻っていった。




いよいよ謁見の日だ。

アーロンの屋敷は朝から慌ただしい――と言っても、緊張しているのは藤崎だけだ。


正装に着替えて居間に現れた藤崎を見るなり、セラが吹き出した。


「なんか衣装が動いてるみたい。」


エランも笑いをこらえながら言う。

「服はすっごく豪華なのに、どうしてでしょうね。」


アーロンは苦笑して言った。

「恰好なんて誰が着ても同じだ。ちゃんと口上が言えれば上等だ。」


「覚えてろよ……。」

藤崎はバツが悪く捨て台詞を吐く。


宮中へ向かう馬車の中。

アーロンは謁見の流れを説明し終えると、思い出したように口を開いた。


「さっき知らせが来た。」


「ん?」

藤崎が目を向ける。


「セレーネ王女が……参加するらしい。」


「急に?」


「父親の見舞いだそうだ。筋は通っている。

だが、このタイミング……どう考えても何かを狙っている。」


「おそらくは、私かな。」


「だろうな。」

アーロンは窓の外へ視線を向ける。

「晩餐会あたりが危ない。おそらく接触してくる。注意するんだぞ。」


「気をつけるよ。」

藤崎は短く答えたが、胸の奥で不穏な感覚が揺れた。


アーロンは気を取り直し、続けた。

「今回の謁見は他の叙勲と合同で行われる。藤崎は一番最後だろう。」


「それまで待っていればよい?」


「ああ。呼ばれたら前に出て、一礼だ。忘れてないな?」


「夢に出るくらい練習したよ。」


「なら良い。」


少し沈黙した後、アーロンが尋ねた。

「あれから何か動きはあったか?」


「何も。手紙も一度きり。」


「そうか……。こっちは板バネのことを何人かの貴族に聞かれた。誰にも話していないのに。」


「天網恢恢、疎にして漏らさず。」


「なんだそれは?」


「異世界のことわざ。“天の網は粗いようで、逃げ道がない”って意味。

 どんな陰謀も、いずれバレるって話さ。」


「なるほど。いい言葉だ。」

アーロンは笑ってうなずいた。

「ま、バレてもいいように動くのが貴族の仕事だがな。」


藤崎は苦笑しながら窓の外を見た。

王宮の尖塔が朝の光を受けて輝いている。


「さて――今日は長い一日になりそうだな。」

王が治ってめでたしめでたし……とは、いきませんでしたね。

むしろ、いろいろヤバいのが動き出しました。

誰が敵で、誰が味方なのか。

藤崎の胃(と精神)の負担は増えるばかりです。

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