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第十八章 王の回復

ついにエリクサーの効果が試される日が来た。

王の命を救うため、アーロンは城へ向かう。

残された藤崎たちは、ただ結果を待つしかなかった――。

アーロンは、なかなか戻ってこなかった。


「遅いね。」

小麦で作ったラーメンをすすりながら、セラがぽつりとつぶやく。


「薬を渡すだけにしては時間がかかっているわね。何かあったのかしら?」

エランは肉のスープに浮かぶダンプリングをスプーンですくい、タレをかけて口に運ぶ。


「もう日が暮れているが……待つしかないな。」

藤崎は、熱々の鉄板に乗ったお好み焼きを切り分けながら答えた。


三人が囲む食卓の上には、異世界とは思えない料理が並んでいる。

どれも藤崎がアーロンのコックに教えて再現させたものだった。

幸い、必要な食材はこの世界にも揃っていたので、味も見た目もほぼ完璧だ。

ラーメンやお好み焼きのほかにも、カレーやコロッケ、焼きそば、ハンバーグなど――藤崎の記憶を頼りに様々な料理が再現され、屋敷の食卓をにぎわせていた。


ある夜、研究に没頭していたアーロンに夜食として出してみたところ――これが大好評。

以来、屋敷の使用人たちの間でも評判となり、今では定番の夜食メニューになっている。


「他に何かないの?」

異世界の料理にすっかり興味を持ったセラとエランが、目を輝かせて藤崎に尋ねた。


藤崎は、ここの菓子屋に並ぶのが単純な焼き菓子ばかりだったことを思い出す。

「甘いものなら喜ぶかもな。」

そう思って、覚えている限りのスイーツレシピを再現してみた。


洋菓子のケーキ類から、どこか懐かしい和菓子まで――。

これもまた大好評で、屋敷ではいつしか「アフタヌーンティー」が流行りとなった。

香り高い茶とともに、藤崎考案のスイーツを楽しむのが、今や日課になっている。


そんな穏やかな時間の中でも、三人の視線は時折、玄関の方へ向かう。

ワイン色の夕暮れがすっかり夜に変わり、部屋の灯が金色に揺れていた。

それでもアーロンの姿は、まだ戻ってこない。


夜半過ぎになってようやくアーロンが帰宅した。

かなり疲れている様子だ。外套には埃がつき、肩は重そうに沈んでいた。


「どうだった?」

藤崎が声をかけると、アーロンは手を上げて答えた。

「着替えるから待っててくれ。話はあっちでやろう。」


談話室で待つ三人の前に、さっぱりした顔のアーロンが戻ってきた。

背筋は伸びているが、どこか感慨深げでもあった。

「待たせたな。まあ一杯やりながら話そう。」


全員の前にグラスが並べられ、赤いワインが注がれる。

芳醇な香りが部屋に広がった。

アーロンは一気に飲み干すと、満足そうに息を吐いた。


「結果から言うと――大成功だ。王の体調は劇的に回復した。

あのレオポルド陛下が、立ち上がって歩いたんだぞ!」


「本当ですか!」

エランが目を見開く。

セラも手を叩いた。

藤崎は、ふっと安堵の笑みを浮かべる。


「見せてやりたかったな。最初は息も絶え絶えで、目も開けられん様子だった。

ところがエリクサーを舐めた途端に、血の気が戻ってきたんだ。

『わしはなぜここにおるのだ?』って、寝台の上でむっくり起き上がった。」

アーロンは笑いながらも、その声にわずかな震えがあった。

感動の余韻がまだ残っているのだ。


「医者も、侍従も、大臣どもも腰を抜かしてたぞ。

“奇跡だ、神の御業だ”と叫ぶ者までいた。」

豪快に笑い、またワインを注ぐ。

「そのあとが大騒ぎだ。

今まで顔も出さなかった貴族どもが、わらわらと押し寄せてきた。

『陛下のご快復、まことに慶賀にございます』だとよ。

病中は一度も見舞いに来なかった連中が、今さら涙ぐんでやがる。

見ていて反吐が出たわ!」


セラが苦笑し、エランも肩をすくめる。

藤崎だけが静かにうなずいた。

「貴族というのは、どこの世界でも似たようなものだからね。」


グラスを置く音が響く。

アーロンの顔が、わずかに険しくなる。


「問題はそのあとだ。

王が回復したと聞きつけて、第一皇太子と第三皇太子がすぐに駆けつけてきた。

表面上は父の快癒を喜んでいたが、目は笑ってなかったな。

政治の臭いがぷんぷんする。」


エランが息をのむ。

アーロンは肩をすくめた。


「国務大臣と皇太子を交えて、今後のことを話し合う場が設けられた。

俺は政治の話はごめんだし、余計なことを言っても面倒だからな。

退席させてもらったが、すぐに帰るわけにもいかず、別室でしばらく待機していた。」


アーロンはグラスを回しながら続けた。

「やっと呼ばれたのは夜になってからだった。

部屋には王と俺の二人きり。大臣も医者もいなかった。」


――その場の光景を思い出すように、アーロンは息を吐いた。


「陛下はゆっくりと身を起こされてな、こうおっしゃった。

『ヴァルディア公よ、よくぞわしのためにエリクサーを作り上げてくれた。礼を言うぞ』

まっすぐな眼差しだったよ。歳を召しても、あれが“王の眼”というやつだ。」


アーロンは軽く頭を垂れる仕草をして見せた。

「俺はこう答えた。

『臣下たるもの、当然の務めを果たしたまでにございます』とな。

そしたら王が少し笑って、『しかし、よく素材が手に入ったものだ。どのような方法を使ったのか?』と。」


そこで藤崎は嫌な予感がした。

「おい、まさか・・・。」

アーロンは一瞬険しい表情を見せた。

「すまん、話してしまった。と言うか話さざるを得んだろう。陛下は異世界人であるお前に興味津々だった。

“ぜひ会って話がしたい”と、直々に命を下された。」


藤崎が額に手を当てた。


「王の命令に逆らえる貴族などおらん。俺も観念したさ。」

アーロンは苦笑する。

「まあ、そう落ち込むな。

王に呼ばれるなんて滅多にないことだ。

どれだけ名誉なことか分かってるか?

平民なら一生かかっても王の顔は拝めんぞ。」


「名誉より面倒の方が多そうですけど。」

藤崎がぼそりと言うと、アーロンは腹を抱えて笑った。

「はっはっは、相変わらずだな! 欲のねぇやつだ!」


笑い終えると、急に真顔になってグラスを置く。

「だが、王に会う以上、礼儀と作法は叩き込んでおかねばならん。

貴族社会はくだらん作法の塊だが、こればかりは避けられん。

明日から特訓だ。」


「……まじか。」

藤崎の呻きに、セラとエランがくすくす笑った。


アーロンは満足げにワインをあおる。

「覚悟しろよ。お前が王の前で失礼な真似をしたら、俺の首が飛ぶんだからな!」

王の回復は大成功!

でもそのせいで、藤崎は王に呼ばれることに。

次は、いよいよ“謁見”だ。

波乱の予感しかしないね。

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