第十七章 エリクサー
セラの誘拐事件から少し時間が経った。
王都は落ち着きを取り戻したが、裏ではまだ何かが動いている。
藤崎はレナードと情報を整理し、アーロンはエリクサー作りに没頭中。
そして――ついに、その時が来る。
襲撃者たちの正体につながるものは何も見つからなかった。
周到に証拠を隠滅したのだろう、死体も調べたが特徴的なものはない。
藤崎が電撃魔法で焼いたことを除いても、見事なまでに得られるものが無かった。
「むしろ、それが正体を現していると思うんですけど。」
「どういうことじゃ?」
藤崎はレナードの部屋にいた。
アーロンはエリクサーの再現実験に没頭しており、セラとエランはアーロンの屋敷から出ないようにしている。
あれから怪しい動きは一切ない。
「普通は何かしらの証拠や痕跡が残ると思うんです。それを完全に消し去っている。そんな芸当ができるのは限られていると思うんですよ。」
「ふむ、言われてみれば確かに。」
藤崎とレナードは、執務室で意見を戦わせていた。
「やはり、サイラント連邦の諜報機関、”砂の目”がやったと思います。」
「だがその理由ははっきりせんのぉ。」
「はい。ですがある程度は絞り込めます。」
藤崎は絵を描きながら説明する。
「今回の出来事に絡む陣営は三つ。
第一皇太子のアデル、第三皇太子のグレイ、そしてセレーネ王女です。
サイラント連邦が絡んでくる理由としては、漁夫の利を得ること。中立の立場を利用して、最大限の利益を得ようとするでしょう。」
三つの円を描き、矢印を書きこむ。
「セラを誘拐して、その結果どうなるかを考えるとします。アーロンの庇護下にあるセラを誘拐する事で利を得られるのは、どこだと思いますか?」
「エリクサーを作ろうとしているアーロンを脅迫する意図があるなら、一番疑わしいのはグレイ、第三皇太子じゃな。」
「そうです。アーロンは第一皇太子、アデルと近しい。するとアデルとグレイ二人の関係が緊張します。それによって利を得るのは?」
「セレーネ王女か。・・・まさか?」
「お考えの通りだと思います。セレーネ王女がサイラント連邦へ情報を流し、砂の目を使わせた。それが真実だと思います。」
「じゃが、それではサイラント連邦のうまみが無いではないか。」
「はい、私の想像では、サイラント連邦はセレーネ王女の話に乗るふりをして、誘拐の計画を持ち掛けられたと言う情報を二人の皇太子へ流すつもりだと思います。」
「つまり三すくみ状態を維持することを狙っていると?」
「はい。」
この話は全て藤崎の想像に過ぎない。しかし藤崎には絶対の自信があった。
「襲撃者が証拠を残さなかったこと、これがサイラント連邦の関与の証拠です。他の陣営が襲撃したのならば、ここまで完璧に証拠を消す理由がありません。むしろ自分たちがやったと喧伝して回るでしょう。」
「なるほどな。確かに筋は通っているわい。しかし・・・」
レナードが藤崎をじっと見る。
「お主、その齢でよくぞそこまで深読みできるのお。感心するわい。」
「悲しいですが、こういうことを考えるのが好きなんですよね。」
人の意識、思考、執着、本能などを常日頃から考えている藤崎にとって、陰謀、権謀術数のような物事は大好物なのだ。
「じゃが、きゃつらの思惑は消し飛んでしまった。お主のおかげでな。」
「はい。この状況がどのような影響を与えているのか、今後を注視する必要があります。」
サイラント連邦は、自分たちの関与が明るみになっているとは考えていないはず。
すると次の手を売ってくる可能性も否定できない。
受け身になるのは辛い。精神を疲弊するだけだ。むしろ、乗り込んでいって一発かましておく方が楽ではないかと思う。
そんな藤崎の心を読んだのか、レナードがくぎを刺した。
「よもやとは思うが、良からぬことを考えるではないぞ。」
「まさか。何もしませんよ。」
「時に若さと言うのは無茶をやりよるからな。」
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「え! 好きって言ったの?」
「勢いでね。」
セラとエランは、アーロンの屋敷の庭園で午後のお茶を楽しんでいた。
「ずるい~。私も言いたかったなあ。」
「今からでも言えるでしょ。それに藤崎は一人であなたを助けに行ったのよ。」
「うんまあ、それはうれしかったよ。」
セラを救出したあと、藤崎はセラの全身をエランに調べさせた。何かされていないか心配したのだ。
「普通の男ならそこまで気遣いしないじゃない。彼が異世界人だとしてもね。」
エランは、セラの事を心配する藤崎を見て嫉妬していたのだ。
「でも、藤崎はエランの事が好きなんだと思うよ。私の事なんか眼中にないみたいだし。」
「違うわ。彼はね、私たちを見ていない。彼が見ているのはもっと遠いところ。
彼の目は常にはるか遠くをみている。私には分からない世界をね。だから私は怖いの。彼をつなぎとめることができるのか自信が無いのよ。
私の心と体のすべてを捧げても、彼をつなぎとめられるとは限らない。それが分かっているから、勇気を出せずにいた。でも、その時は素直に言えたわ。」
「藤崎はなんて答えたの?」
エランは首を振った。
「何も。返事は無かった。」
その時、藤崎が戻ってきた。
「二人とも、ここにいたんだ。」
セラが立ち上がり、藤崎の前に立って指を指した。
「君は最低だ!」
「え?」
「エランの気持ち、聞いたんでしょ。なんで答えてあげないの?」
はっとしてエランを見る。エランは恥ずかしそうにうつむいていた。
「女の子から告白するのって、どれだけ勇気がいると思ってんの!!ちゃんと答えてあげな!!」
がつんと頭を殴られた気がした。確かにそうだ。
「瞑想者、失格だな。」
エランの前に立つ。膝をついた。
「君の思いに答えてあげられなかった。申し訳ない。」
エランは首を振る。
「いいの。気にしないで。」
「正直に言おう。君が好きだ。」
エランが顔を上げる。泣きそうな表情だ。
「だけど、結婚とか考えたことが無いんだ。だからもう少しだけ時間が欲しい。」
「違うの、私はそこまで望んでいない。あなたと一緒にいられたらそれだけで良いの。」
「だったら答えは出ているよ。私は君の傍にいる。この世界にいる限りずっとね。」
エランは顔を手で覆う。低い嗚咽か聞こえてきた。
「それと、セラ。」
藤崎が急に読んだので、セラは驚いた。
「君の事も好きだ。」
「な、なんで今言うの!!」
「はっきりした方が良いだろ?」
「ま、まあね。」
セラは照れてにやけていた。
やれやれ。この世界に太い縁が増えたなと藤崎は思った。
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数日後、アーロンに呼び出された。
「完成した」
机の上に小さなガラスの小瓶が置かれた。
「これが・・・」
「そうだ、エリクサーだ」
エリクサーとは
古の伝説にも記載されている、究極の万能薬。
効能はあらゆる病を癒やし、失われた肉体を再生し、寿命さえ延ばすとされる。
古文書では「龍の涙」から生まれたと記されており、神々の祝福を受けた命の雫とも呼ばれる。
本来は銀龍のうろこに含まれる微量の魔素を精製し、**生命の根源“エーテル”**と結合させることで生成される。
その製法は百年以上前に確立したが、材料入手の困難さから、現在では失われた技術になっている。
「約束通り、これを渡そう」
もう一つ、小瓶が机に置かれた。
「俺はこれをもって王宮へ行ってくる。留守は頼んだ。」
ようやくエリクサー完成!
でも、これで全部終わりじゃない。
王宮に持っていけば、また一波乱ありそうだね。
次回、王と藤崎がついに対面――お楽しみに。




