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第十三章 晩餐と語らい

王都での緊張もほどけ、アーロン邸で迎えた晩餐。

豪奢な料理と暖かな笑い声――しかし、その裏には次へ続く“運命の糸”が静かに動き始めていた。

「さあ、せっかくだ。今夜はうちの料理人の腕を味わってもらおうじゃないか。」


アーロンの案内で通された食堂は、まるで城の大広間のようだった。

二十人は座れそうな長いテーブルの中央に、香ばしい匂いを放つ料理がずらりと並んでいる。

壁際には魔法の燭台が灯り、柔らかな光が金の食器をきらめかせていた。


「わぁ……!」

セラが目を輝かせた。

エランも思わず感嘆の息をもらす。


「これ、全部……私たちのために?」

「そうだとも。」アーロンが豪快に笑う。

「遠路はるばる来た客人を迎えるのに、パン一つじゃ格好がつかんからな!」


料理はどれも見たことのないものばかりだった。

白身魚には金粉のような香草がまぶされ、蒸気とともに淡い緑の光を放っている。

ロースト肉は香ばしい脂が滴り、切ると中からピンク色の肉汁がこぼれ出した。

スープは魔法の火で温度が一定に保たれ、食べるたびに香りが変化する。

デザートには果実を凍らせたシャーベット。皿に触れると冷気が指先をくすぐった。


「う、うまい……!」

セラは夢中で食べていた。

「この肉、口の中でとろける!」

「もうちょっと落ち着いて食べなさいってば。」

エランが苦笑しつつ、優雅にナイフとフォークを操る。


その様子を見て、アーロンが愉快そうに笑った。

「はっはっは! いい食べっぷりだ。食事ってのは、味よりも楽しむことが一番だ。」


藤崎もゆっくりとフォークを口に運んだ。

味は濃厚だがくどくない。香草と魔法火の加減で、素材の風味が際立っている。


「なるほど、料理に魔法を使うわけか。」

「そうとも。火加減も味の均一化も、魔法を使えば思い通りだ。人間の手より正確だろう?」

「まあ、電子レンジよりは人間味がありそうだな。」

「でんし……何だって?」

「いや、こっちの話。」


藤崎が苦笑すると、エランが首を傾げた。

「また異世界の道具の話ね?」

「機械で温度を調整する道具だよ。火を使わなくても温められる。」

「そんなの、どうやって?」

「電気だ。」

「でんき……?」


説明しても通じそうになく、藤崎は曖昧に笑って話を切り上げた。


セラはワインを片手に上機嫌だ。

「ねえ、これ果物の香りがする! おいしい!」

「飲みすぎるなよ。強い酒だ。」

「だいじょーぶ!」

そう言ってまた一口。すでに頬はほんのり赤い。


エランがため息をつく。

「あなた、酔うとめんどくさいんだから。」

「だいじょーぶ、へいき……」

言葉の途中であくびをした。どうやら限界らしい。


アーロンは肩を揺らして笑う。

「はっはっは! 可愛いもんだな。若いってのはいい!」


食事が終わると、メイドたちが手際よく皿を片づけた。

空になったテーブルの上には、温かい茶と焼き菓子が運ばれてくる。

ほんのりと甘い香りが、満腹の胃を優しく包んだ。


「どうだった? うちの料理人の腕前は。」

「素晴らしかったです。」藤崎が答える。

「まるで芸術作品のようでした。」

「そいつは嬉しい。だが料理ってのは芸術でも儀式でもない。腹が満ちて、心が笑えばそれで十分だ。

 カイと俺が駆け出しの冒険者だったころ、二人で野宿して食べた肉は旨かったぞ。」


アーロンはカップを置き、軽く手を叩いた。

「さて、腹も満ちたし、場所を変えよう。堅い椅子よりソファの方が話が弾む。」


通されたのは、広々とした暖炉付きの部屋だった。

壁にはアーロンが若い頃に使っていた剣や、仲間たちとの絵が飾られている。

窓際には夜景を映す魔法ガラスが輝き、外の月がやわらかく照らしていた。


ソファに腰を下ろすと、メイドが香り高い葡萄酒を運んできた。

アーロンはグラスを傾け、笑みを浮かべる。

「さあ、気楽にやろうじゃないか。話は飲みながらの方が楽しい。」


藤崎もグラスを受け取ったが、軽く口をつける程度だった。

「どうした、飲まないのか?」

「すみません。あまり強くなくて。」

「なるほど、カイロスと同じタイプか。あいつも一滴で寝てたからな!」


暖炉の火がぱちぱちと音を立てている。

セラはソファの端で、すでに夢の中だった。


「……あの子を、先に部屋へ連れて行ってもいいですか?」

藤崎が言うと、アーロンはメイドを呼び、セラを静かに運ばせた。


「ふふ、あの調子じゃ朝までぐっすりだな。」

アーロンがワインを傾ける。


藤崎とアーロンは長いソファに並んで座り、その正面の椅子にはエランが腰を下ろした。

暖炉の炎が三人の顔を赤く照らす。


「美女を肴に飲む酒も、なかなか旨いもんだ。」

「お上手ですわね。」

エランは上機嫌でグラスを軽く回した。


しばらく談笑が続いたあと、話題は自然と瞑想の話に移った。


「なるほど……藤崎、君はその“瞑想”で魔力を操れるというわけか。」

アーロンが興味深そうに身を乗り出す。


藤崎はゆっくりとうなずいた。

「私は、ただ観察しているだけです。瞑想とは、自分の心を静かにしていくための技術です。

 心が完全に静まり、自分という存在が薄れていくほど――物事のつながりが見えるようになる。

 それが“縁”です。私はそのつながりを利用しているにすぎません。」


アーロンは感心したように目を細めた。

「心が静まるほど、世界が見える……か。面白い考えだな。」


グラスをテーブルに置く。

「俺も魔法は使うが、どちらかと言うと剣の方が得意でな。お前さんが興味あるなら、王立魔法研究所へ話を振っても良い。」

「それはありがたいです。」


「実を言うと、魔法研究は行き詰まっているのさ。だからもう何十年も進歩がない。

 だが藤崎のような異世界人が現れたことで、新しい風が吹き込むかもしれん。

 それに……」


「なんです?」

「いや、なんでもない。」


アーロンはグラスを取り、中身を一気に飲み干した。

「さあ、楽しい話もここまでだ。明日また続けようじゃないか。本題もあるからな。」


藤崎とエランが退出した後、アーロンはソファに座り、じっと考え込んだ。

一人、ワインを注いで飲む。


「龍のうろこ、瞑想、縁……。

 カイ、お前はとんでもない奴を紹介してくれたな。」

晩餐の夜、藤崎たちはアーロンの人柄に安心しつつも、

“銀龍のうろこ”と“縁”という言葉が、静かに新たな扉を開こうとしていた。

次章――舞台は王立魔法研究所へ。物語は再び動き出す。

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