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プロローグ

ブラック企業勤めのゲーム開発者が、

「少しだけ休もう」と思って瞑想したら――異世界に転生していた。


魔法よりも瞑想が強い?

仏陀の境地に達した男が、理不尽な異世界をマインドフルに生き抜く物語。

ゲーム会社で働く藤崎悠真は、深夜まで開発に没頭していた。

同僚たちが帰宅したあとも、彼だけは会社に残って作業を続けている。

仕事ができないわけではない。むしろその逆だった。

あまりに優秀なため、次々と案件が舞い込み、仕事が増える一方なのだ。


だが藤崎は、「できることは今のうちにやっておく」というモットーを貫いており、本人は不満を感じていない。

その代わり、正社員ではなく業務委託という形を選んでいた。おかげで報酬は同年代の四倍以上にのぼる。

しかし藤崎は金に対する執着が薄く、ほとんど使っていない。そもそも使う時間がないのだが。

もうすぐ30歳を迎える藤崎は友人もおらず、家族もいない。天涯孤独の身だった。


夜明けの四時ごろ、ようやく帰宅の途につく。

「今日も午前様か。まあ、家に帰っても誰も待ってないけどな。」

独り言のようにつぶやきながら駅へ向かう。


誰かを雇って仕事を分担すればいいのだが、能力的に見合う人材がいない。

結局、すべてを自分で抱え込んでしまう——そんな性分だと、本人も自覚している。


駅のホームで“今日の”作業内容をぼんやり考えていると、何か挙動がおかしい人に気が付いた。

線路をじっと見つめている。少し前へ出ようとするが、ためらったように動きを止める。

くたびれたスーツを着た、小太りの中年男性だ。悲壮な顔をしている。

周囲を見渡すが、駅員はいない。藤崎は大きくため息をつき、その人物の背後に静かに立つ。

まさに飛び込もうとしたその瞬間、藤崎は足を引っかけた。


男はホームに倒れ込み、線路に飛び込むことはなかった。

藤崎は何も言わず、無言のままその場を立ち去る。

やがて男はゆっくりと起き上がり、あたりを見回す。誰もいない。

彼はうなだれたまま、すごすごと帰っていった。


アパートに戻った藤崎は、電気をつけようとしてふと手を止める。

暗い部屋の奥をじっと見つめ、コンセントのタップが外れかけているのに気づいた。

それを抜き直して差し込み、ようやく照明のスイッチを入れる。

もしそのまま点けていれば、ショートして火事になっていたかもしれない。


鞄を下ろし、服を着替える。

普段着になってから、彼はベッドの上に座った。


座禅を組み、目を閉じる。

「時間がないから、瞑想で休むか。」


そう、彼は瞑想にのめり込んでいた。

瞬間、意識は深く潜り、周囲の感覚が消えていく。

五感はひとつずつ静まり、ついには完全な沈黙となった。


藤崎は仏陀瞑想のひとつ「止観しかん」に精通していた。

自らの意識を完全に消し去ることができるほどの熟練者だったのだ。


肉体の感覚が消え、意識は世界と融け合う。

たった五分の瞑想で、彼の精神と肉体はリフレッシュされた。


「さて、また仕事か。出かけないと。」

シャワーを浴びて服を着替えると、再び外へ出た。


ひんやりとした朝の空気が心地よい。階段を降りる足音が静かに響く。

瞑想の余韻が残り、彼の意識は周囲と肉体がまだ混ざり合っているように感じられた。


「これも悪くないな。」


通学路の脇を歩きながら、藤崎の意識は三日後の出来事を“見ていた”。

居眠り運転の車が小学生をはねる――そんな未来の断片だ。


彼は公園に立ち寄り、手ごろな石を拾い、事故が起きるであろう場所の路上に置く。

もし見た通りなら、その車は石に乗り上げて進路を外し、ガードレールにぶつかるはずだった。


そして藤崎は何事もなかったように会社へ急いだ。


だが横断歩道を渡っている最中、トレーラーが突如現れる。

運転手はスマホを見ていた。


「わき見運転か。あ、これは避けられないな。」

次の瞬間、衝撃が全身を包んだ。


-----


藤崎は目を開いた。

まだ生きている——そう思った。


しかし、そこは真っ白な空間だった。

「……なんだ、ここは?」


見渡す限り何もない。真っ白な空間。遠くはかすかに暗い。

「死後の世界って、こんなものなのか?」


「そんなわけないじゃん。」


どこからか甲高い少女の声がした。

振り返ると、空中に十歳ほどの女の子が浮かんでいる。


「へぇ、驚かないんだ。」

「君、人間じゃないよね。」

「さすが、やっぱり分かる?」

「空間が揺らいでる。意識の波も人間とは違う。」

「ご名答。ここは生と死のあいだ。君は今、現実世界で死にかけている。」

「ああ、やっぱりね。」


「どう? まだ生きたい?」

藤崎は少し考え込む。

「うーん、死んでも同じような気がするけど。」

「いや、そこは『まだ死にたくないです!!』って言うところでしょ!」

「というか、君は誰?」


「聞いて驚け、私は――」

「ああ、次元の調整者ね。」

「な、なんで先に言うのよ!」

「だって分かるし。」

「くっそー、これだから四禅を修めた人間は面倒なんだよ!」

「何の話?」

「うっさい! いいから聞け!」

「あ、はい。」


「今から君を生き返らせる。ただし、元の世界じゃない。

魔法が存在し、モンスターがうようよいるファンタジー世界だ。」


「全力で拒否したいです。」

「だめー! もう決まってるの!」

「なんでさ?」

「いろいろ事情があるの。とにかく無理。さっさと生き返らせるよ。」


少女――調整者は何かを唱え始めた。

「詳しいことは記憶にぶちこんでおくから。あと、いくつかお願いもあるからやっといてね。」

「そんな理不尽な。俺の自由意志は?」

「死人にそんなのない!」


藤崎は、意識が遠のいていくのを感じた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

主人公・藤崎の「瞑想チート」は、実際の瞑想理論をベースにしています。

これからどんな世界が広がっていくのか、ぜひ見守ってください。

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