あなたが許しても
時計の針の音が大きく聞こえる。
薄暗い部屋の中で。
「梓…。」
名前を呼んでも帰ってくるわけないのに。
また、眼だけが燃えるように熱く、痛くなって涙が出てくる。
涙で目の前の君の写真も見えないじゃないか。
もう、あれから1年半は経っているのに。
ボクには今も後悔と恐怖だけが残っている。
もしかしたら君はボクを恨んでいるんじゃないだろうか。
君はボクを憎んでいるんじゃないか。
そんなことを毎日考えていた。
ああ、今も考えている。
呼吸が荒くなってきた。
冷や汗が出て止まらない。
苦しい。
「薬…。薬を…とらないと。」
震える手で薬の入った瓶をとる。
急いで瓶のふたを開ける。
薬を4錠程度とり、水といっしょに流し込む。
少し時間がたって落ち着いてきた。
ちょうどその時、ボクのスマホが鳴った。
何も考えずスマホの通話ボタンを押す。
友人だった。
「久しぶり。」
「ああ。」
「また、薬飲んだのか?」
「飲んだよ。4錠ね。」
「少し多くないか?」
「でも、これくらいしないと効かないんだ。」
「そうか…。とりすぎるなよ。」
「わかってる。」
「まあ、夜も遅いし、切るな。」
「うん。電話ありがとう。」
「いいえ。どういたしまして。それじゃあな。」
「ああ。」
電話が終わった後、時計を見ると11時だった。
なぜだか今日はとても梓の部屋に入りたくなった。
理由はわからない。
でも、気になった。
あのことがあって以来、君のことを思い出すから入りたいと思わなかったのに。
リビングを出て廊下の先にある君の部屋に向かった。
そして、ドアノブにてをかけた時、
「祐くん。人の部屋に入るときはノックしてよ!」
「え?」
ボクは驚いた。
彼、梓の声がした。
「なんで黙ってるの?」
「・・・。」
「あ!分かった。さては驚かしに来たんでしょ?」
「・・・。」
「祐くん?どうしたの?」
「な…なんで。どう…して。」
「どうしたの?大丈夫?なんかあったの?」
ボクは意味が分からなかった。
梓、君は死んだはずだ。
それなのに今ここで、梓の声がドア越しに聞こえる。
ボクは驚きと混乱で固まってしまった。
「祐くん、大丈夫?話聞くからこっちにおいで。」
そう言うとドアの隙間から梓が出てきた。
開いた口が閉まらない。
「なんで…。本当に梓…なのか?」
「何言ってんの?何か悩んでるの?話聞くからこっちおいでって。」
優しい口調、白い肌、艶のある栗色の髪、二重の可愛らしい瞳。
どこもかしこも見ても梓そのものだった。
混乱の中から、なぜか君がいるという安心感があった。
それと同時に悔しさと後悔と悲しみが一気にこみあげてきてボクは泣かずにはいられなかった。
謝りたい。
そしてまた君と過ごしたい。
ボクは子供のように泣きながら何度も謝った。
「一緒になかなかいられなかった。ずっと我慢ばっかりさせてた。
梓の話を全然聞いてあげられなかった。ごめん。ごめん。本当にごめん。」
「・・・。」
梓は驚いた顔をしていたがすぐに元の優しい顔に戻った。
「きっと怖い夢でもみたんだ。大丈夫、許してあげる。なにも気にしてないよ。」
そう言って、彼はボクの背中をさすった。
少し経って梓がボクの手に何かを渡してきた。
「悲しいときは甘いものが一番!」
思わず笑みがこぼれた。
梓らしいな。
そして梓に触れようとボクは手を伸ばした。
その時だった。
目の前が真っ暗になった。
遠くで梓が何か言っている気がした。
そして気を失った。
ああ、ダメだ。
とっさに思った。
「梓が消えちゃう。」
気づいた時にはボクは梓の部屋の前で倒れていた。
時計を見ると午前1時になっていた。
夢を見ていたのだろうか。
でも、夢ではない気がした。
そして、この時すでにボクの頭はおかしくなっていたのかもしれない。




