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第一話 神村杏奈と二人の少女

遥か南方の海に、**南ヶみなみがしま**と呼ばれる小さな楽園がある。


そこは、青く透き通った海と、色鮮やかな緑に囲まれた自然豊かな孤島。島の空はどこまでも高く、朝は光の粒が空から舞い降り、夕暮れには金色の風が海をなでる。


季節ごとに表情を変える南ヶ島の自然は、まるで生きているかのようだ。春には島じゅうに白い花が咲き誇り、夏には夜空に花火が打ち上がる。秋には透き通るような風が森をすり抜け、冬でも温暖な気候が、訪れる人々を優しく迎えてくれる。


そして何より、島の魅力は人のあたたかさ。顔なじみの店主が並ぶ港町、浜辺の露店、漁師の笑い声、カフェで交わされる何気ない会話……。


「こんにちは」「いってらっしゃい」「また来てね」

そんな小さな言葉たちが、心の奥をふんわりと温めてくれる。


観光名所も多く、空に近い展望台、光の洞窟、水鏡の湖など、写真家たちが憧れるスポットが数多く点在している。どこを切り取っても絵になるこの島は、まるで現実と夢のはざまに浮かぶ小さな奇跡のようだ。

昼下がりの教室。


扇風機がゆるく回り、窓の外からはセミの鳴き声と潮の匂いを含んだ風が吹き込んでくる。

南ヶ島第二高校の二年二組。四十人近いクラスは、授業の終わりが近づくにつれて落ち着きのない空気に包まれていた。


神村杏奈は、一番後ろの窓際の席に座っていた。丸メガネの奥の瞳は教科書ではなく、自分の机の端に置かれた小さなメモ帳に向けられている。そこには、昼休みに思いついた撮影スポットのメモが、丸い字で並んでいた。


前の席では、活発な女子二人が「放課後、港のアイス食べに行こ!」と話し、後ろでは男子数人が消しゴムの投げ合いをしている。杏奈はそれらのざわめきから半歩引いたように、静かにページをめくる。


(今日は潮が引いてるはずだから、防波堤からの夕陽が綺麗に撮れるかも)


先生が「――はい、これで今日の授業は終わり」と黒板にチョークを置いた瞬間、クラス中が一気に弾けた。椅子を引く音、笑い声、ドタドタと廊下へ飛び出していく足音。


杏奈は慌てずにノートを閉じ、ペンを筆箱にしまい、机の下からカメラバッグを引き出す。その動作は、誰にも邪魔されない自分だけの儀式のようだった。

「神村、また写真か?」と同じ班の男子がからかうように声をかけるが、杏奈は緊張でドギマギしながら「う、うん!」と答えるのに精一杯。

(やっぱり、誰かと話すの、緊張しちゃうなぁ)


彼女にとってカメラは、他人と同じ景色を見ながら、自分だけの切り取り方ができる唯一の相棒だった。




昇降口を出ると、午後の陽射しがじりっと肌を焦がした。

海風が髪を揺らし、ほんのりと潮の香りが混じる。南ヶ島の学校帰りは、どこを歩いても海の匂いがついてくる。


杏奈はカメラバッグを肩にかけ、ゆっくりと坂を下っていった。学校は小高い丘に建っており、坂を降りるたびに、青く光る海が視界いっぱいに広がっていく。道の両脇にはブーゲンビリアが咲き、カラフルな花びらが時折風に乗って舞う。


途中、商店街を通り抜ける。氷菓子屋の前には学校帰りの生徒たちが列をなし、観光客らしき家族が笑顔で写真を撮っている。杏奈は人混みを避けながら歩き、やがて港へと続く遊歩道に出た。


港に近づくと、潮だまりで遊ぶ子どもたちの声が響く。釣り竿を持ったおじいさんが防波堤に腰掛け、海面をじっと見つめている。

杏奈はお気に入りの撮影スポット、防波堤の先端近くに向かおうとした――そのとき。


「ねえ、そこのメガネちゃん!」


背後から明るい声が飛んできた。振り返ると、夕陽を背に、緑色の長い髪を潮風になびかせた少女が立っていた。

白いワンピースの裾をひらひら揺らし、太陽の光を反射するような笑顔を浮かべている。


「こんにちは!」

少女は明るく挨拶する

その隣には、全く雰囲気の異なる少女が立っていた。白と紺の和服に、狐の仮面。仮面の奥の瞳がじっとこちらを見ている。


杏奈は思わず一歩引いた。

「……あ、あの、何か用ですか?」


緑髪の少女は躊躇なく歩み寄る。

「うん、ちょっと聞きたいんだけど、“沼田トンネル”ってどこ?」


その名を聞いた瞬間、杏奈の背中に冷たいものが走った


 沼田トンネル

島の南部に位置する古いトンネルで、過去に交通事故が起こり、今はいわくつきのトンネルとして封鎖されている


「……沼田トンネルは、事故があった場所なんです。だから――」

杏奈が必死に説明しようとするも、緑髪の少女はまったく怯む様子がない。


「平気平気! 私、幽霊とか全然怖くないし!」

「…………」

横で狐仮面の少女は無言。だが、その仮面越しの視線が妙に圧を帯びていて、杏奈は言葉を詰まらせた。


(……断れる雰囲気じゃない)


結局、杏奈はため息混じりに「……わかりました」と小さく答えた。




坂道を登り、町外れの山道へと入る。両脇には鬱蒼とした木々が並び、海風は届かなくなって、代わりに土と草の匂いが濃くなる。


「ねえねえ、メガネちゃんって、普段はこういうとこ来るの?」

「いえ……写真は海とか町並みばかりで、こういう場所は……」

「ふーん、じゃあ今日は冒険だね!」

「…………」

狐仮面の少女は相変わらず無言で、足取りだけは軽い。


「あ、あの……」

「?、どしたー?」

杏奈は気まずそうに話し出す


「お二人のことは、なんて呼べばいいのかなって、思って」

「?、ああー!!そう言うこと!」

緑髪の少女は胸に手を当て笑顔で答える


「私は遠見カコ!そして、こっちの子はコンちゃん!無口で全然喋らないけど、あんま気にしないでー」

コンはこくりとお辞儀する

「遠見さんと、えっと、」

「もおー、硬いなー。カコちゃんって呼んでよ!」

カコはニコッと笑う 


「ところで、メガネちゃんはなんて名前?」

「あ、わ、私は、神村杏奈、です」

「杏奈ちゃんか〜!可愛い名前してるね!」

カコの太陽のような明るさに杏奈は思わず顔を赤くする


山道の途中、カコはスマホを構えて遊び半分に写真を撮っている。

「うわ、見て見て杏奈ちゃん! 顔みたいな木の節がある!」

「……やめてください、そういうの」

杏奈が眉をひそめた瞬間――背後の木々でガサガサと何かが動く音がした。


「な、何!?」

杏奈が振り返ると、そこには……一匹の野良猫がひょっこり顔を出していただけだった。

「……び、びっくりした……」

「杏奈ちゃん……ビビり過ぎだよ……」

カコは必死に笑いを堪えながら言い、コンは猫をじっと見つめてから何事もなかったように歩き出す。




やがて、山道の先に口を開ける古びたトンネルが姿を現した。

レンガ造りの壁は苔むし、入口には「立入禁止」の看板が打ち付けられている。


「到着~! ね、雰囲気あるでしょ?」

「……ここ、本当に入るんですか?」

「もちろん!」

カコは振り返り、にっこり笑って言った。

「もう帰っていいよ、杏奈ちゃん」


杏奈はぽかんとした。

「え? でも……」


「ごめんねー、大事な時間使わせちゃって」

カコは笑いながらそう言ってコンと共に暗がりの中へと足を踏み入れる。


(……ほっとけるわけない)

杏奈はカメラを抱きしめるように持ち、「ま、待ってよ!」と小走りで二人の後を追った。

その時、




ブツンッ!




照明が落ちるような鈍い音と共に周囲が赤く染まった。

まるでフィルターがかかったように、目に映る景色が真っ赤になっている


「ん?なにこれ?」

杏奈は周囲をキョロキョロしながらカメラを抱える


「私たち、もうこんな奥まで入りましたっけ?」

杏奈が不思議そうにカコに問いかける

先程までトンネルの入り口付近にいたはずの杏奈達は、いつのまにかトンネルの奥深くにいた

「!、やばい、飲まれた!」

「?、どう言うこと?カコちゃん」

カコは背負っていたリュックサックを下ろしてガサガサと漁りながら言う

「私たち、招かれたのよ。このトンネルの腹の中に」

「え、さっきから何言ってるのカコちゃん」

杏奈は苦笑いしながらも段々と怖くなってきていた


すると、トンネルの奥からペタ、ペタと何かの音が聞こえた


3人がゆっくりと音の方向に顔を向けると、闇の中からぼろぼろの服を着た少女が歩いてきた

汚れた白いワンピースを着て、裸足でペタペタと音を立てながら向かってくる

見た目は杏奈と同い年くらいの少女で、顔は髪に隠れて見えない


(あの子、大丈夫かな?)

杏奈はそう思いながら思わずカメラを向けた


「あれ?」

だが、カメラのフィルターには誰も映っていない

杏奈はカメラをゆっくりと下ろした

その瞬間




「ぎゃあああああああああ!!!!!」




先程の少女が鬼の形相で叫び声を上げながら杏奈のすぐ目の前まで走ってきていた


「きゃああーー!!」

杏奈は悲鳴をあげしゃがみ込む


次の瞬間、コンが一歩前に出て右手を突き出した。


魂波こんは


その声と同時に、手のひらから衝撃波のような白い光が放たれ、少女の姿は霧のように消え去った。


杏奈は呆然と座り尽くす。心臓の鼓動が耳の奥で鳴り響く。

「……な、何者なんですか、あなたたち……」


カコは口元に人差し指を立て、いたずらっぽく笑う。

「私たち、"能力者"なの♡」



ーーーーーーーーーー



カコはリュックサックから黒い蝋燭を取り出してコンに近づける

「コンちゃん、お願い」とカコが言うと、コンは指先から小さな火を出して蝋燭を灯す


「の、能力者?」

杏奈は地べたにお尻をつけたままドキドキとなる胸を抑えて尋ねた


「そ、能力者」

カコは杏奈の手をとって起きあがらせながら呟く

「簡単に言うと普通の人にはできない不思議なことができる人たち。生まれつき持ってる人もいれば、何かのきっかけで力が芽生える人もいるんだ」

カコは杏奈の手を握ったまま歩み始める

「へ、へえ〜〜、そう言うの、小説とかでしか見たことない……」

杏奈の目がちょっとだけ輝き、カコはフッと笑う

「じゃあ……さっきコン……ちゃんがやった、あの衝撃波みたいなのも……」

「そうそう、あれはコンの能力。“霊力吸収&操作”ってやつ。周りの霊力を集めて、自由に使えるの。さっきのばーん!って放つみたいに。防御にも攻撃にも使える万能タイプなんだよね?」

前方を歩いて聞いていたコンは、仮面の奥でこくりと頷くだけ。


「さっきコンちゃんが倒したのは"怪異"っていうの」

カコは歩きながら、ひらひらと手を振って空中を指差す。


「怪異っていうのはさ、人とか動物が死んだり、すっごく強い感情を残したりしたときに、その思念がこの世界に溜まって形になったやつ。普通の人には見えないけど、あたしら能力者にはバッチリ見えるんだよ」


杏奈はまだ肩で息をしながら、「……幽霊、ってことですか?」と聞く。


「ま、そんなとこかな〜」

カコは呑気に答える

杏奈は怖がりながらもカコの言う物事に少々興味を抱いていた

「カコちゃんは?どういう能力なの?」

杏奈の問いかけにカコは自慢げに胸を張る

「ふふん!聞いて驚かないでよー!私の能力は………」

カコが言いかけたとき、突然コンが止まってカコ達を制す

「さっきのやつ……いる」

コンの声が響き、杏奈はカコの背中にそっと隠れる


前方、赤く染まった空気の中に、さっきの少女が立っていた。

だが――姿は幼くなり、今は十歳ほどの子供のよう。顔立ちもはっきりと見え、その瞳には強い警戒が宿っている。見た目はあどけないはずなのに、背筋に冷たいものを這わせる異様さが漂っていた。


「やる?」

低く短く告げるコン。だが、カコがそっと腕で制す。


「この子は強い。きっと一筋縄じゃいかないタイプだよ」

その声に、コンは構えを解き、じっと少女を見つめた。少女――奈々は、不機嫌そうに眉を寄せてこちらを睨みつける。


「ねえ!君! ちょっと話したいんだけどー!」

カコの明るい声が、赤く濁ったトンネルに響く。

「あなた、杉村奈々さん、だよね?」


奈々の目が一瞬だけ見開かれ、すぐに険しくなる。

「……なんで知ってる?」

その声は怒りを含み、かすかに震えていた。


「このトンネル、有名だからね。十八年前に事故があったって」

「え? カコちゃん、そのこと知っててここに来たの?」

杏奈が思わず問いかけると、カコは肩をすくめて答えた。

「うん、調べたら……巻き込まれた車に乗ってた家族は全員亡くなったって」


「――うるさい!!!」

奈々の叫びが空気を震わせる。


カコは怯まず、一歩踏み出した。

「奈々ちゃん。あなたがここに居座ってる理由……なんとなくわかる」

カコの瞳が鋭く光る。

「――犯人を探してるんでしょ?」


奈々は俯き、小さな拳をぎゅっと握った。

「あの日……私たち家族は、意図的に殺された」


杏奈は息をのむ。カコは一瞬だけ目を細め、そして真っ直ぐに奈々を見返した。

「じゃあ、私たちがその犯人を探してあげる」


「……ま、それと言ってはなんだけど、とりあえずこっから出してくんない?」

カコが軽い調子で続けると、奈々はしばし黙ってから、低く問い返す。

「……どうやって、探すつもりなの?」


「私、過去を覗けるの」

ニッと笑うカコ。その笑みは自信に満ちていた。

「だから、あなたの記憶を見れば、犯人もすぐに捕まえられるかもしれない」


奈々はじっとカコを見つめ、短く答えた。

「……わかった」


その言葉が終わると同時に、杏奈たちは眩しい光に包まれ――気がつけば、冷たい外気と海の匂いがするトンネルの外に立っていた。


「!。も、戻れた!?」

杏奈がカメラを抱いて辺りをキョロキョロする。

赤く染まっていた視界も今は元通りになっていた。

「出れたけど、ここからが本番」

カコはそう言って杏奈の後ろを指差す。

そこには、先程の奈々の姿があった。

「うわあああーーー!!!」

杏奈は驚いて尻餅をつく。

奈々はそれを無視してカコに近づく。

「じゃあ、見るよ?奈々ちゃん」

カコはそう言って奈々の頭に手をかざした。


すると、周囲が光に包まれ杏奈達はまたしてもトンネルの中にいた。

だが、さっきのように視界は赤くなくなっていた。

「ここは?」

杏奈が不思議そうに尋ねる。

「ここは、奈々ちゃんの記憶の中の世界」


「18年前の、あの日の沼田トンネルだよ」

カコは真剣な眼差しで行き交う車達を見て言った。


すると、向かうの方から一台の白い乗用車が見える。運転席には優しそうな男性、助手席には母親らしき女性、後部座席には幼い少女が座っていた。窓の外を見ながら、楽しそうに笑っている。


「……あれ……奈々ちゃん……?」

杏奈は思わず呟く。


「そう、あの日の奈々ちゃんと、ご家族」

カコが静かに答える。その声にいつもの軽さはない。


車は休日のドライブらしく、音楽を流しながら穏やかに進んでいた。

だが、反対車線の奥から――黒いワゴン車が猛スピードで迫ってくる。


「……危ない!」

杏奈が思わず叫んだ次の瞬間、黒い車は蛇行しながら奈々たちの車に突っ込んだ。

衝撃音がトンネル中に響き渡り、奈々の体は割れた窓から外へ投げ出される。


「――――っ!!!」

杏奈は駆け寄ろうと足を踏み出すが、体が奈々をすり抜けた。


「やめて!!!」

杏奈が叫ぶ。

地面に倒れた奈々の小さな体に、後続の車が次々と迫ってくる。

ブレーキの音と悲鳴、鈍い衝撃音が連続して響き――奈々の体は、見るも無惨にドロドロと崩れていった。


杏奈は膝をつき、震える声で「やめて……」と繰り返す。


「杏奈ちゃん……これは過去の記憶。もう触れることも、変えることもできない」

横でカコが静かに告げた。


奈々の幼い瞳が、潰れていく視界の中で何かを見据えていた。

その先――黒いワゴン車の運転席に座る、笑みを浮かべた誰かの顔が、ほんの一瞬だけ見えた。


奈々の体が路面に崩れ落ちる光景から、杏奈は目を逸らせなかった。喉の奥が締め付けられ、息が浅くなる。


その時――コンが一歩前に出た。

赤黒く歪んだ光景の中、彼女は迷いなく事故を起こした黒いワゴン車を指差す。


コンの指先が、事故を起こした黒いワゴン車の後部を正確に捉えていた。

杏奈も目を凝らし、その視線の先を追う。


――「沖浜 33-74」。


白いプレートに刻まれた黒い文字と数字が、ヘッドライトの光に照らされ、やけにくっきりと浮かび上がっている。

それはまるで、犯人がわざと見せつけるかのように。


杏奈はカメラを向けて写真を撮る

「……沖浜、33-74……」

杏奈が震える声で読み上げると、カコは短く頷き、瞳を鋭く光らせた。

「覚えた。これで追える」


まばゆい閃光が視界を覆い、耳鳴りのような音が杏奈の鼓膜を震わせた。

次の瞬間、足元に固いアスファルトの感触が戻ってくる。

潮の匂い、海風、そして薄くなった夕陽の光――そこは、トンネルの外だった。


杏奈は大きく息をつき、胸を押さえる。

さっきまで見ていた惨劇が、頭の奥に焼き付いて離れない。


「……戻ってこれた、んだよね……?」

「うん。でもこれで終わりじゃない」

カコは奈々に視線を向ける。

「奈々ちゃん、あのナンバーと顔……私たちが必ず調べる」


奈々はしばらく黙っていたが、小さく頷いた。

その瞬間、彼女はふわりと杏奈の背後に回り、ぴたりとくっついた。


「わっ……!?」

杏奈が思わず前のめりになると、カコが口元を緩める。

「へぇ〜、奈々ちゃん、意外と可愛いとこあるじゃん」


奈々はちらりとカコを見て、無表情のまま言った。

「……この人間、すぐに殺せそうだから」


「えぇぇぇぇっ!?」

杏奈は声を裏返し、カコは吹き出しそうになるのを必死にこらえていた。


ーーーーーーーーーー



夕陽が海に沈みかけ、道沿いの街灯が一つ、また一つと灯り始める。


杏奈・カコ・コン・奈々の四人は並んで歩いていた。

奈々は相変わらず杏奈の背にぴたりとくっつき、離れようとしない。


「ねぇ杏奈ちゃん」

横を歩くカコが、にやっと笑いかける。

「さっきトンネルでカメラ構えてたでしょ? あれ、残念だけど過去の記憶は写真に映らないんだよ」


「……そうなんですか?」

杏奈はバッグからカメラを取り出す。

「でも一応、確認してみますね」


カメラの液晶を起動し、最後に撮った写真を表示する。

次の瞬間――杏奈の目が丸くなる。


画面いっぱいに映し出されたのは、トンネルの奥を走り去る黒いワゴン車。

そして、その後部――。


――「沖浜 33-74」。


ナンバープレートの数字と文字が、信じられないほど鮮明に写っていた。

カコは一瞬、足を止める。

「……ちょっと待って。これ、本当に撮れてるの……?」


杏奈は小さく頷いた。

カコの顔から、いつもの余裕が消える。

「……こんなこと、普通じゃありえない」


横で歩いていたコンも画面を覗き込み、仮面の奥で目を細める。


カコはまだ液晶に映るナンバーから目を離さず、考え込むように唇を噛んでいた。

やがて、ふっと杏奈に視線を移す。

「……ねぇ、杏奈ちゃん。もしかしたら、なんだけどさ」


彼女はリュックサックをごそごそと探り、掌ほどの古びた手鏡を取り出した。縁には細かい彫刻が刻まれ、どこか異国の品のような趣がある。


「ちょっと、これ持って」

カコは鏡の面を杏奈に向ける。


杏奈は首を傾げながら覗き込んだ。

その瞬間――鏡の中の自分の輪郭が、淡い光の粒子に包まれて揺らいだ。まるで、うっすらとした炎か霧のようなオーラが漂っている。


「……な、何これ……?」

杏奈は思わず鏡から目を離す。


「この鏡、霊力を探知できるんだよ」

カコは真面目な声で告げる。

「杏奈ちゃん……あなたも、不思議な力を持ってるのかもしれない」


潮風が四人の間を抜け、どこか遠くでカモメの鳴く声がした。

だが杏奈の耳には、その音が妙に遠く感じられた。


キャラクター詳細

神村杏奈

性別:女

年齢:16歳(高校二年生)

外見:丸メガネ、そばかすが点々とあるが可愛らしい顔立ち。肩までの茶色い髪。背はやや低め。

性格:内気でおとなしい。クラスでも目立たず、本や写真に没頭している時間が多い。押しに弱く、流されやすいが、根は芯が強い。

住まい:南ヶ島の港近くの民家。

関係性:カコからは初対面から「杏奈ちゃん」と呼ばれ、振り回される。コンからは淡々と接されるが、徐々に信頼される。


遠見カコ

性別:女

年齢:16歳

外見:長い緑髪が特徴。太陽の下で映える笑顔。白や明るい色のワンピースを好む。

性格:天真爛漫で明るく、人懐っこい。初対面でもすぐ距離を詰める。怖いもの知らずだが、時折真剣な表情を見せる。

能力:「過去を覗く」

・人や物、場所に触れることで、その過去の映像を視覚的に読み取る。

・覗き見た過去を他者に見せることも可能だが、精神力を消耗する。

目的:沼田トンネルに関して調べている様子だが、詳細は秘密にしている。

口癖/特徴:初対面から名前+ちゃん呼び。場を和ませたり、逆に掻き回したりするムードメーカー。

関係性:コンとは行動を共にしているが、彼女の無口さをフォローする役目も担っている。


コン

性別:女

年齢:16歳

外見:白と紺を基調とした和服姿、狐の仮面を常にかぶっている。背はカコより少し低い。

•性格:無口で感情をあまり表に出さない。必要な時だけ言葉を発する。

能力:「霊力吸収&操作」

・周囲の霊力を吸収し、自らの力に変換できる。

・吸収した霊力を衝撃波として放出し、攻撃や防御に使える。

・使いすぎると自身の体力にも負担がかかる。

役割:カコの護衛的存在。危険が迫ると即座に行動する。

口調/特徴:短く、必要最低限の発言しかしない。だが内面では仲間を大切に思っている。

関係性:カコとは長い付き合いで信頼関係が厚い。杏奈に対しては警戒心を持ちつつも、徐々に態度が和らいでいく。

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